4 / 44
番外編
好きな女【悠馬side】
しおりを挟む
俺、青柳 悠真には好きな奴がいる。
***
初めてその存在を知ったのは親友の紫之宮 奏の話からだった。
奏はほぼ毎日、飽きもせず妹の話をする。妹が可愛いだとか、妹は優しいだとか。
正直その時は全然意識なんてしてなかった。
奏は俺の大事な親友だけど妹は俺に媚を売るかもしれない。当時は周りにそんな奴ばっかりだったから、余計にそう思っていたと思う。
「入学式の後、僕の妹のお披露目パーティーをするんだ。悠真の家にも招待状が届くから絶対に来てね。妹を紹介するよ」
「・・・わかった」
行きたくなくてもどうせ親に連れていかれると思いながらも奏の言葉に頷いた。
***
パーティー当日。
妹をエスコートしてきたらしい奏と合流する。妹は挨拶周りがあるらしく両親に預けて来たらしい。
のんびりと壁際に二人並んで駄弁っているといきなり奏が大きな声を出した。
「春、こっちだよ!」
「お兄様!」
奏の声に反応して1人の少女がドレスの裾をひらりと翻し、嬉しそうな微笑みを浮かべて近づいてくる。
奏と同じ紫がかった白銀の髪が、キラキラと輝いて綺麗だと思った。
「奏」
その光に吸い寄せられるように俺は少女を抱き締める奏に声をかけていた。奏につられるように俺を見た彼女の瞳は、まるで紫水晶のように綺麗で。
「すまない、悠真」
「お兄様、こちらの方は・・・?」
彼女から体を離し俺に向き合った奏は彼女を見て嬉しそうに笑って俺を紹介した。
「青柳 悠真だ。よろしく、奏の可愛いお姫様」
からかうつもりで彼女の手を取り、そっと口付ける。奏の妹は一体どんな反応をするのか、単純に興味深かった。
こんな冗談で俺を好きになったら面倒だとか所詮は周りの女と一緒だとか、そんなことを思いながら彼女を見つめる。
「・・・紫之宮 春と申します。よろしくお願い致しますね、青柳様」
彼女は、俺の行動に驚き目を丸くしながらもそう言った。顔色を一切変えることなく。
初めて見た反応に固まる俺の手から奏は彼女の手を抜きとり、俺が口付けた箇所を汚いものを消すようにハンカチで強く拭う。
「ひどいな、奏」
「全然ひどくない。僕の可愛い春を汚さないでくれる?」
「お兄様、そんな酷いことをお友達に言わないで下さい」
「いいんだよ、春。悠真はこんなことで怒らないよ」
「おいおい・・・」
見も蓋もない言葉を吐く奏に思わず呆れた声が漏れた。妹に対して過保護過ぎるだろう。
「じゃあまた明日学園でね!悠真」
「おい、奏!?」
「お兄様!?」
そう言って彼女の手を引き会場を出ようとする奏に驚く。こんなマイペースな奴だったか?
奏に手を引かれていた彼女が後ろを振り向いて俺をその瞳に映す。
「青柳様、お兄様がすいませんでした!またお会いした時は、よろしくお願い致しますね」
優しく微笑んでかけられた言葉に、表情に、心臓が大きく跳ねた気がした。
***
それから妹に会いに行く奏について行くことが増え、彼女と言葉を交わすようになった。
良いって言ったのに頑なに俺の名前を呼ばないところとか、彼女が呼ぶなと目で訴えたのに名前で呼んだら奏にバレないように俺を睨み付けてきたこととか。
会う度に彼女が気になっていく。
青柳財閥の息子の俺じゃなく【青柳 悠真】という一人の人間として、物怖じせず接してくれる春にどんどん惹き付けられていった。
ある日、談話ルームで奏と春の友達が言い争いを起こして春に頼まれて解決した。俺を遠ざけている普段は強気な春が困った様子で頼って来たことが嬉しかったのは内緒だ。
奏と女子の話を聞いて春に謝らせる事が出来た俺は、二人に抱き付かれて嬉しそうに笑う春を見ていた。
俺には見せたことのない笑顔を浮かべる春に少し悲しさを感じる。
何でそんな気持ちになるのかわからなくて、只黙って春を見つめていた。
自分を見つめる視線に気づいたのか、春と俺の視線が重なった。また嫌な顔をされるかもしれないと身構える。
「青柳様、ありがとうございました」
そう言って春は綺麗に笑った。奏じゃない、春の友達でもなく、この俺に向かって。
その瞬間、カチリとパズルがはまった音がした。
俺が春に恋した音、だった。
***
あの日の笑顔を手に入れるために俺は何度も春にアプローチをするが、なかなか上手くいかない。第一春がつれないのだ。
一度だけ周りの環境を上手く使い春をダンスに誘うことが出来た時があった。
初めて会った時より可愛く綺麗になった春をエスコートし、俺の腕の中に閉じ込める。俺を見上げる紫水晶のような、春の綺麗な瞳に見つめられ幸福感に満たされる。
しかし俺が気持ちを伝えようとすると、奏や春の友達の小早川嬢達に邪魔される。ことごとく潰されることに苛立ちが無いわけではないが、俺はどんなに大変でも絶対に諦めない。
邪魔されればされる程、俺の春に対する気持ちは大きく強くなっていく。
奏にも、誰にも、俺は絶対に負けない。
・・・必ず春を手にいれてみせる。
***
初めてその存在を知ったのは親友の紫之宮 奏の話からだった。
奏はほぼ毎日、飽きもせず妹の話をする。妹が可愛いだとか、妹は優しいだとか。
正直その時は全然意識なんてしてなかった。
奏は俺の大事な親友だけど妹は俺に媚を売るかもしれない。当時は周りにそんな奴ばっかりだったから、余計にそう思っていたと思う。
「入学式の後、僕の妹のお披露目パーティーをするんだ。悠真の家にも招待状が届くから絶対に来てね。妹を紹介するよ」
「・・・わかった」
行きたくなくてもどうせ親に連れていかれると思いながらも奏の言葉に頷いた。
***
パーティー当日。
妹をエスコートしてきたらしい奏と合流する。妹は挨拶周りがあるらしく両親に預けて来たらしい。
のんびりと壁際に二人並んで駄弁っているといきなり奏が大きな声を出した。
「春、こっちだよ!」
「お兄様!」
奏の声に反応して1人の少女がドレスの裾をひらりと翻し、嬉しそうな微笑みを浮かべて近づいてくる。
奏と同じ紫がかった白銀の髪が、キラキラと輝いて綺麗だと思った。
「奏」
その光に吸い寄せられるように俺は少女を抱き締める奏に声をかけていた。奏につられるように俺を見た彼女の瞳は、まるで紫水晶のように綺麗で。
「すまない、悠真」
「お兄様、こちらの方は・・・?」
彼女から体を離し俺に向き合った奏は彼女を見て嬉しそうに笑って俺を紹介した。
「青柳 悠真だ。よろしく、奏の可愛いお姫様」
からかうつもりで彼女の手を取り、そっと口付ける。奏の妹は一体どんな反応をするのか、単純に興味深かった。
こんな冗談で俺を好きになったら面倒だとか所詮は周りの女と一緒だとか、そんなことを思いながら彼女を見つめる。
「・・・紫之宮 春と申します。よろしくお願い致しますね、青柳様」
彼女は、俺の行動に驚き目を丸くしながらもそう言った。顔色を一切変えることなく。
初めて見た反応に固まる俺の手から奏は彼女の手を抜きとり、俺が口付けた箇所を汚いものを消すようにハンカチで強く拭う。
「ひどいな、奏」
「全然ひどくない。僕の可愛い春を汚さないでくれる?」
「お兄様、そんな酷いことをお友達に言わないで下さい」
「いいんだよ、春。悠真はこんなことで怒らないよ」
「おいおい・・・」
見も蓋もない言葉を吐く奏に思わず呆れた声が漏れた。妹に対して過保護過ぎるだろう。
「じゃあまた明日学園でね!悠真」
「おい、奏!?」
「お兄様!?」
そう言って彼女の手を引き会場を出ようとする奏に驚く。こんなマイペースな奴だったか?
奏に手を引かれていた彼女が後ろを振り向いて俺をその瞳に映す。
「青柳様、お兄様がすいませんでした!またお会いした時は、よろしくお願い致しますね」
優しく微笑んでかけられた言葉に、表情に、心臓が大きく跳ねた気がした。
***
それから妹に会いに行く奏について行くことが増え、彼女と言葉を交わすようになった。
良いって言ったのに頑なに俺の名前を呼ばないところとか、彼女が呼ぶなと目で訴えたのに名前で呼んだら奏にバレないように俺を睨み付けてきたこととか。
会う度に彼女が気になっていく。
青柳財閥の息子の俺じゃなく【青柳 悠真】という一人の人間として、物怖じせず接してくれる春にどんどん惹き付けられていった。
ある日、談話ルームで奏と春の友達が言い争いを起こして春に頼まれて解決した。俺を遠ざけている普段は強気な春が困った様子で頼って来たことが嬉しかったのは内緒だ。
奏と女子の話を聞いて春に謝らせる事が出来た俺は、二人に抱き付かれて嬉しそうに笑う春を見ていた。
俺には見せたことのない笑顔を浮かべる春に少し悲しさを感じる。
何でそんな気持ちになるのかわからなくて、只黙って春を見つめていた。
自分を見つめる視線に気づいたのか、春と俺の視線が重なった。また嫌な顔をされるかもしれないと身構える。
「青柳様、ありがとうございました」
そう言って春は綺麗に笑った。奏じゃない、春の友達でもなく、この俺に向かって。
その瞬間、カチリとパズルがはまった音がした。
俺が春に恋した音、だった。
***
あの日の笑顔を手に入れるために俺は何度も春にアプローチをするが、なかなか上手くいかない。第一春がつれないのだ。
一度だけ周りの環境を上手く使い春をダンスに誘うことが出来た時があった。
初めて会った時より可愛く綺麗になった春をエスコートし、俺の腕の中に閉じ込める。俺を見上げる紫水晶のような、春の綺麗な瞳に見つめられ幸福感に満たされる。
しかし俺が気持ちを伝えようとすると、奏や春の友達の小早川嬢達に邪魔される。ことごとく潰されることに苛立ちが無いわけではないが、俺はどんなに大変でも絶対に諦めない。
邪魔されればされる程、俺の春に対する気持ちは大きく強くなっていく。
奏にも、誰にも、俺は絶対に負けない。
・・・必ず春を手にいれてみせる。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
953
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる