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〜初等部

何気ない幸せ

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 移動教室の帰り。誰かに声をかけられた気がして私は後ろを振り返る。

「春様、どうなさいました?」
「お姉様?」

 私の隣を歩いていた桜ちゃんと千華ちゃんが私に問う。國近くんも不思議そうに私を見つめている。3人にジッと見つめられ、私は苦笑した。

「・・・いえ、何でもありません。早く教室へ戻りましょう?」

 そう言って私は3人を教室へと促す。・・・きっと私の気のせいだよね。

 私が振り返った先には、誰も居なかった。

***

「紫之宮様、今日こそは生徒会に入れてもらいますわよ!」
「・・・また来たの?朝倉嬢」

 あれから週3くらいの頻度で兄を勧誘に来る彼女、朝倉さんは5年Aクラスに所属している。
 兄は彼女の勧誘に辟易としているが私は少し彼女が来るのを楽しく感じていた。強気で大人ぶって喋る女の子。一生懸命兄を勧誘する様子がすごく可愛らしいの。相手をする兄は大変そうだけど。
 2人のやり取りを微笑ましく見守っていると、朝倉さんの髪飾りがキラキラ光っているのが見えた。

「朝倉様が今お着けになっている髪飾り、とても可愛いですね」
「私のお母様から頂いたのです!私の宝物ですわ!」

 疲れている様子の兄を彼女から解放するために朝倉さんへそう言うと、彼女は幸せそうに笑った。髪飾りが可愛いのは本当だよ?

「まぁ!お母様から頂いたものですか?羨ましいです。もう少し朝倉様と髪飾りのお話がしたいのですが、お兄様も私もこれから用事がありますので後日、また私とお話して下さいますか?」

 首を傾げ朝倉さんを見上げる。子供の頃の2歳差って大きいよね。兄も朝倉さんも私より大分大きいんだもの。・・・いや、私の成長が遅いのか?

「もちろんですわ!約束ですよ!」
「はい、約束ですね」

 そう言った彼女は兄と私に一礼し、その場を去っていく。その後ろ姿が嬉しそうに見えて思わず笑った。

「どうしたの?春」
「いえ、朝倉様はとても可愛らしいお方だと思いまして・・・」

 兄が私の言葉に首を傾げた。

「春が一番可愛いよ」

 当然だと言わんばかりの顔で兄は笑う。うーん、兄のこの私に対する言動はいつまで続くのかな?

「お兄様ったら、またそんなことをおっしゃって・・・」
「ふふ、僕は本当の事しか言わないよ。さっきは助けてくれてありがとう、春」

 おもわず呆れが滲んだ声で兄に言えば、私の言葉はさらりと流されお礼の言葉と共に優しく微笑まれてしまう。

「さぁ、早く帰ろうか。・・・お手をどうぞ、僕のお姫様?」

 兄は私を優しく見つめ、そっと手を差し出す。その姿が三年前のお披露目パーティーの時の兄に重なる。
 あの時と違い身長は高くなり、手も私より大分大きい。成長したんだなぁ。と、その姿を見て何だか感慨深くなる。まぁ、冗談を言うところは変わっていないのだが。

「ありがとうございます。素敵な王子様」

 そう言って私は笑い、あの時の再現をするかの様に兄の手にそっと手を重ねた。
  
***

 今日は父も母も早く帰ってきた為、家族揃って食事をした後に家族で大広間に居た。家族団欒の時間だ。
 私も兄も最近あった色んな出来事を両親に話していく。両親はそんな私達の話に笑顔で相槌をうっていた。

「そういえば今日、春が朝倉家の令嬢が朝倉夫人から頂いた髪飾りを着けているのを見て羨ましいと言っていましたよ」

  今思い出したという様に兄がポロッと溢した言葉に私は固まる。待って?何でその事言っちゃうの?

「まぁ、春ちゃんが本当にそう言ったの?」

 母が私を見つめた。両親と兄の視線が私に集中している。子供みたいなことを言った自覚はあるので恥ずかしさでじわじわと顔が熱くなる。

「あの、それはですね・・・」
「嬉しいわ!何を渡そうかしら・・・迷ってしまうわね!」
「・・・・・・お母様?」

 何とかこの話を誤魔化そうと喋る私を、母の声が遮った。母よ、何かテンション高くないですか?

「そうだわ!春ちゃん、お母様とのお揃いはどうかしら?嫌?」
「いえ、嫌ではありませんが・・・あの、」
「お母様、僕も春とお揃いのものが欲しいです!」
「お母様?お兄様?」

 私を置いて母と兄のどんどん進んでいく話に目を白黒させる。前にもこんな展開あったぞ・・・?
 父なら2人を落ち着かせられるだろうと父へ視線を向ける。そこには落ち込んだ様子の父が居た。

「お父様?どうなされたのですか?」
「私も、お揃いのものが欲しい・・・」

 何かあったのかと心配して聞けば、返ってきたのはそんな言葉。
 父はしょんぼりと肩を落とし話が盛り上がっている母と兄を見ていた。え?そんなこと言う人じゃなかったよね?

「まぁ!奏斗さんったら、もちろん貴方もお揃いよ?私が貴方を仲間外れにするはずありませんわ?」
「華・・・!」

 母が微笑んで父に言う。キラキラした瞳で母を見つめる父に脱力する。お2人とも仲良しですね。
 気付いたら父も話に混ざっていた。・・・何なんだろうか、この展開は。

「春も一緒に決めよう?」
「春ちゃん、時計とかどうかしら?」
「春、鞄はどうだ?奏と春が学園でも使えるやつだぞ」

 3人は楽しそうに私を呼ぶ。暖かく優しい眼差しが向けられる。壁際に控えている使用人達は笑顔で私達を見守っている。

 その光景にふと、幸せだと思う。そしてこの暖かくて優しい時間が、いつまでも続けば良いと思った。
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