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〜初等部

嵐の襲来

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「紫之宮様、生徒会に入って下さいませんか?」

 全ての授業が終わり、私を教室へと迎えに来てくれた兄と並んで廊下を歩いていたら突然見知らぬ女子生徒に声をかけられた。
 優しく微笑んで私と話をしていた兄の顔が、一瞬無表情になる。さっきまでご機嫌だったのにいきなり不機嫌な雰囲気になって、一体どうしたんだ兄よ。

「・・・春、今日はお父様が早く帰れるとおっしゃっていたよ。少し急ごうか」
「本当ですか?お父様今日は早く帰られるのですね!・・・いや、あのお兄様?あの方は・・・」
「ふふ、春が嬉しいと僕も嬉しいよ。早く帰ろうね」
「え、あの、お兄様?」

 数秒の間があき、兄は笑いながら私の手を引いて話しかけてくる。私が声をかけてきた女子生徒を見ても、兄は気付いているのにまるで気付いていないかの様に振る舞う。

「あの!紫之宮様、生徒会に入って下さいませんか!」

 明らかに無視されているのにわざわざ兄の目の前に立ち塞がり、もう一度同じことを言った彼女はメンタルが強い。
 ここまでされても兄の視線は私に固定され、一度も彼女に向かない。肩で息をしている彼女が何だか可哀想だ。

「奏様、春お姉様とのお時間を壊されてお可哀想です・・・」
「春様がご一緒に居るときに声をかけるなんて、奏様の地雷でしてよ?」
「僕は奏様のように徹底的に彼女を無視することは難しいですね。さすが奏様です」

 私と兄の後ろにいた、桜ちゃん達の話し声が聞こえてくる。3人固まって、私と兄を見つめて動く気配はない。そう皆助けてくれないのね。ため息をつきそうになるのを押さえ、兄を見つめる。

「お兄様、彼女がお可哀想ですからお話だけでも聞いて差し上げてください」
「・・・・・・・・・春がそう言うなら」

 兄は私の言葉に渋々頷き彼女へと体を向ける。スゴく溜めたね、兄。そんなに嫌なの?

「僕達は急いでるんだ。手短に頼むよ」
「・・・はいっ!」

 感情のこもっていない兄の声に怖がる様子もなく彼女は嬉しそうに笑って口を開いた。やっぱりメンタル強いね。

***

「・・・・・・という訳で、紫之宮様に生徒会に入って頂きたいのです!」

 そう言って彼女は話を締めくくり誇らしげに笑う。
 長々と話していたが簡単にまとめると、彼女は次期生徒会役員らしく、成績優秀者であり教師や生徒達からの評判が良い兄の能力と手腕が欲しいので生徒会に入ってほしいとのこと。
 さて、一体何て答えるのだろうと兄を見る。

「うん、無理だね」

 迷う様子もなくキッパリと言い切った兄に彼女はとても驚いた顔をしている。私も少なからず驚いていた。
 『 宝玉学園の生徒会に所属している』
 それは私達の世界では多大なる効力を持つ。
 なぜなら生徒会の選考理由に家柄等は一切含まれないからだ。人柄、成績、人望に重きを置き全教師の賛成がないと所属するに至らない。
 だから歴代の生徒会には一般家庭の人がいる場合もある。ちなみにその人は一流企業に入社し、最終的には自分で会社を立ち上げたらしい。
 そういった事もあり この学園で生徒会に選ばれる、ということは有能な人物である事の証明になるのだ。

「生徒会、ですのよ・・・?」

 呆然とする彼女の言葉に内心同意する。兄が断る理由がわからない。この誘いがかかるということは、全教師からの賛成があるからだというのに。

「生徒会に入ったら春と一緒に居られる時間が今よりもっと少なくなってしまうからね。今でも全然足りないのに・・・」
「・・・・・・え?」
「桜嬢や千華嬢、國近くんがいるから大丈夫だと思うけど、春に変な虫がつくかもしれないし」
  
 私を心配そうに見つめる兄に私も彼女も固まる。桜ちゃん達は兄の言葉に頷いて納得しないで!

「そんな理由で、断るのですか・・・?」
「・・・・・・そんな理由?」

 彼女の力の無い呟きに兄が顔をしかめる。

「僕は生徒会に興味はない。春と一緒に居れるなら他に何もいらない」
「お兄様・・・?」

 私の手を引き、私を優しく胸に抱き込んだ兄をそろりと見上げる。一瞬、私を見るその瞳が暗くなったように見えた。

「それに生徒会に入らなくても、僕は僕が有能だと周りに認めさせて見せるから」

 微笑んでそう言った兄。瞳は紫水晶のようないつもと同じ綺麗な瞳だ。・・・私の見違え、だったのかな?兄の瞳を見つめ首を傾げる。

「・・・・・・私は諦めないですわ!絶対に紫之宮様を生徒会に入れてみせますわよ!今日はもう失礼致します。皆様、ごきげんよう」

 私が考えてている間に彼女はそう言い捨てその場を去って行った。始まりが突然なら終わりも突然なのね・・・。呆然と彼女の背中を見つめる。

「もう来なくていいよ・・・」

 兄が力無く呟く。様子を見ていただけの桜ちゃん達も少し疲れているようだ。
 今日は何だか騒がしい1日だったな・・・。私は一人、ため息をついた。

 ちなみに彼女はこれから頻繁に兄の元へ勧誘に来る事になるのだが、このときの私達は知らない。
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