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〜初等部

取り戻した記憶

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 私の名前は紫之宮 春。
 有名おもちゃメーカーである紫之宮家の長女である。

 今日は私の4歳の誕生日だった。
 家族だけが参加者のこじんまりとした誕生日パーティーだったが、大好きな両親と最近養子として我が家に迎えられた頭の良いお兄様、それから沢山の従者達にお祝いされてとても嬉しかった。
  その喜びで頭が一杯になり浮かれていた私は、自分の部屋に帰る途中の階段で足を滑らしてしまい、頭を強打。気を失ってしまったらしい。

 そしてつい先程、自室のベットの上で目を覚ました私の脳内には、今まで生きてきた4歳までの私の記憶と25年間生きてきた女性の記憶がある。
 3人の弟と妹達に囲まれ笑う、一人の素朴な女性。
 私とは姿形も違うが、彼女が前世の私であるとこの・・記憶が言っていた。

「私は死んだはずじゃ・・・」

 そう、私は突然の火災によって崩れ落ちてきた棚から大切な妹を庇って死んだはずだった。それなのに私は生きているのだ。

「いや、転生した・・・?」

 ベットから起き上がり、顔を向けた先にある鏡台には前世とは比べものにならないくらい美しい自分の姿が映っていた。
 薄く紫がかった白銀の髪に、紫水晶のような綺麗な瞳。
 顔は小さく、色鮮やかなピンク色の唇が真っ白な肌によく映えている。
 4歳である今でこんなに美しいのだ、このまま成長したら一体どんな美少女になってしまうのかと、一人戦慄する。
 マジマジと自分の顔を見つめながら、ふと脳内にいくつもの言葉がよぎった。

 ──有名おもちゃメーカーである紫之宮家。養子にきたお兄様。薄く紫がかった白銀の髪。紫水晶のような瞳。私の名前は、紫之宮 春。お兄様の名前は、紫之宮 奏。

 カチリ。と頭の中でパズルのピースがハマった音がした。

「私は『君は僕の宝石』の紫之宮 奏の妹なの・・・?」

 そう、私は前世で妹に進められてやっていた乙女ゲーム『君は僕の宝石~君の瞳は100カラット~』の攻略対象者の一人である紫之宮 奏の妹になっていたのだった。

***

『君は僕の宝石~君の瞳は100カラット~』
 ゲームの舞台は有名財閥の御曹司達が通う宝玉学園。
 弁護士を目指すヒロインが宝玉学園に入学してからその物語は始まる。
 好きになった相手との身分差に苦しんだり、嫉妬から女子生徒達にいじめられたりなど、色々な障害に立ち向かいながら夢を叶えるヒロインの切なくも甘い物語だ。
 攻略対象者達は全員宝石言葉を元にキャラ付けされており、王道である俺様系からマニアックな隠れヤンデレまでいるのが特徴だ。
 人気乙女ゲームのひとつでもあった。
 ちなみに副題の『~君の瞳は100カラット~』は俺様系攻略対象者の決め台詞口説き文句である。前世の私は聞いた瞬間ダサすぎて爆笑した。

 私はその中のマニアック属性【隠れヤンデレ】である紫之宮 奏の妹、紫之宮 春になってしまったようだ。
 紫之宮 奏といえば、家族と不仲であるが故に愛に飢えていたところにヒロインの優しさに触れ依存していくようになり、しまいには相手にそう・・とは気付かれない様に囲い込むヤンデレになるらしい。妹が言っていた。
 そしてそんな彼の妹である春は養子である兄の奏を嫌っており、彼との交流を一切持たなくなったため奏のヤンデレが進んでしまったのではないかとファンの間では囁かれているらしい。
 ハッピーエンドのヒロインは奏の束縛に気付いていないがために、奏と幸せそうに笑いあうスチルが表示される。
 しかしバットエンドでは、奏はヒロインに妹を重ね、彼女を一歩も外に出さない様飼い殺しているスチルが表示されたらしい。 
 そういえば隠れヤンデレじゃなくて、隠れシスコンだって言われてたな・・・。

「ヤンデレの妹って・・・」

 まさかの現状に頭が痛くなるが、今はそれどころじゃない。
 乙女ゲームの世界に転生してしまったのはまぁ、百歩譲って良いにしても、いくらモブと言っても転生先が攻略対象者の妹ってどういうことなのよ。

「どうしていくのが正解なんだろう」

 私は混乱する頭を深呼吸することで押さえ付け、これからするべき行動について考えた。

***

 考えること約30分。私のこれからの行動方針が決まった。

 ひとつ。攻略対象者にはあまり関わらないこと。
 ひとつ。ヒロインに近づかないこと。

 以上である。
 あれはゲームだから面白いのであって現実では関わりたいものではないし、目の前で攻略対象達がヒロインを口説いている現場を見たら吹き出してしまう自信しかない。

 これからの平凡な私の暮らしのために、影をできる限り薄くして攻略対象者に関わらず、のんびり過ごせるように頑張ります!
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