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第一章 果てしない旅
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話は少し戻るが、向山に火の手の上がるのを待つ、母の佳子と右門は、気が気でなかった。東の空が少し明るくなり二人に焦りが高まった。伝八郎は負けないと信じていても、どうしようもない不安が二人を襲った。その時だった。向山の小屋の辺りに小さな火が見え、すぐ真っ暗な向山の夜空に赤々と舞い上がった。
死に装束に着替えた佳子は、仏間に移された雪の遺体に「すぐ私達も参ります」と話しかけ正座した。
「お願いします。骸はこの家と供に、燃やしてください」
右門は佳子の、その凛とした姿に、逆に勇気付けられた。
「それは良い。敵に伝八郎も供に炎の中で果てたと思わせ、少しでも追手を遅らせよう。某もすぐ後から参る」
二人はもう、何も思い残すことは無かった。
向山の伝八朗と又三郎は、生まれ育った我が家の方に向い、手を合わせた。その二人に答えるかの様に、我が家の辺りで赤々と舞い上がる炎が見えた。これが親子の、今生の別れの挨拶となった。
こうして又三郎が伝八朗に手を引かれ、故郷の美濃、戸田家の城下を捨て、果てし無いさすらいの旅に出たのは、寛文六年、又三郎、五歳の春だった。
***
すみません、次の頁から第一章・其の弐に入りますので短いですが、この頁はこれで終わりです。
前頁まで読んでいた方が読み飛ばしてしまう可能性も見て分けましたが、時期を見て前頁と統合しようと思います。
死に装束に着替えた佳子は、仏間に移された雪の遺体に「すぐ私達も参ります」と話しかけ正座した。
「お願いします。骸はこの家と供に、燃やしてください」
右門は佳子の、その凛とした姿に、逆に勇気付けられた。
「それは良い。敵に伝八郎も供に炎の中で果てたと思わせ、少しでも追手を遅らせよう。某もすぐ後から参る」
二人はもう、何も思い残すことは無かった。
向山の伝八朗と又三郎は、生まれ育った我が家の方に向い、手を合わせた。その二人に答えるかの様に、我が家の辺りで赤々と舞い上がる炎が見えた。これが親子の、今生の別れの挨拶となった。
こうして又三郎が伝八朗に手を引かれ、故郷の美濃、戸田家の城下を捨て、果てし無いさすらいの旅に出たのは、寛文六年、又三郎、五歳の春だった。
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すみません、次の頁から第一章・其の弐に入りますので短いですが、この頁はこれで終わりです。
前頁まで読んでいた方が読み飛ばしてしまう可能性も見て分けましたが、時期を見て前頁と統合しようと思います。
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