【完結】プシュケの彼方ー死ぬことが許されなくなった未来社会。仮の肉体を継いでなお、生きる理由はあるのだろうか?ー

上杉裕泉

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9章 再

3 本当のふたりで ※

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 唇を合わせ、舌を絡ませながら、千逸は快楽から逃れられないように、霧島の頭を優しく手で抱えた。
 口内を犯される感覚に霧島が気を取られている間に、もう片方の手は優しく服の下へと入っていく。そして上も下も器用に脱がしながら、あらわになった白い肌へそっと触れた。
「あっ――」
 その手の感覚を知っていたはずなのに、その触れ方はいままで以上に繊細で、自然と声が漏れてしまう。
 不意に霧島は思った。
 千逸はこれまで、きっと霧島のからだに負担がないようにと考えつつ、自分の欲を押さえるのに必死だったのだろう。いま思えば、どこかこわごわとした手つきで、直接快感を感じやすいところを触れていたような気がした。
 一方で、いまのからだへの触り方はそれとはまったく異なった。
 指はいまだ霧島の肌のうえをなめらかに動いていたし、それは霧島の反応を追いかけるように絶えず動き回った。そうして霧島がからだを震わせるたび、そこを二度三度とさまざまな力加減で触れていく。
 その、これまで以上にたっぷりとした愛撫の時間は、霧島とのこの時間を大切にしているように思えた。
 不意に、背のぞわりとするところを撫でられ、
「……あ……うぁっ」
 と大きな声が漏れてしまう。するとなぜか突然千逸はその手を止めてしまった。
 霧島はどうしたのかと思い、身体を震わせながら見上げると、なぜか彼は考えごとを始めたようにみえた。
「…………千逸?」
「そういえば、先輩はずっとSR155系統なんですよね」
「ああ。そうだけど……」
「この素体は、先輩からサンプリングした遺伝子をもとに一番最初に発注したものだから……おそらく感じ方もそのままなんでしょうね」
 目を細めながら言う千逸を前に、霧島は思い出す。
「……そういえば、むかつく機械知性に凡人の皮って言われたな」
「ははは。まったく、彼らは数値しか見ませんからね。先輩の素晴らしさはわからないんですよ」
 そう呆れた様子で笑いながら、不意に霧島の腰を撫でる。
「――っ……」
「ふふっ。先輩のオリジナルのからだもこんなに感度がよかったと思うと、少し妬けますね」
 そう言って千逸は霧島の背に口付けをはじめたので、ふと疑問に思い聞いてみる。
「……………誰に?」
 するとなぜか千逸はしばらく沈黙したあと、静かに口を開いた。
「先輩……まさか、童貞のまま交換しちゃったんですか?」
「え、だって意味なかったし……別にお前だって一世代目は童貞だっただろ」
 霧島がそう答えると、千逸は下を向いて大きなため息をついた。
「まあ、確かに生殖としては意味をなしませんでしたが……そういうところ、先輩は相変わらずですね」
 ――絶対に馬鹿にしている。
 霧島がそう思っていると、千逸は何かに気づいたような表情をした。
「……そういえば『とこよ』でぴんときたのも、そんなことを言っていたからだった気がします」
「なら、よかったじゃないか。俺だと気付けたんだろ?」
「……まあ、そういえばそうですね。それに……俺だけが先輩の身体を感じさせて開発していると思うと、実際嬉しいですし」
 そう言いながら顔を近づけてくる千逸に、霧島はぴしゃりと言う。
「でも、お前は俺だけじゃないんだろう?」
「………………それは、その……どうしようもなかったというか……」
 突然自信なさげに声が小さくなった千逸は、まるであの頃の空山のようにみえた。
「俺は、ずっと先輩に会うことを諦めていたんです。もちろんどこかで探してはいましたけど。ただ、顔からだが変わってしまうこの世界では、探し続けることは難しかった。だから、空いた心の隙間を埋めるために、先輩と同じ素体を使っていたひとに声をかけて、求められるままにしていました。まあ……全然違ったんですけどね」
 そう語る千逸を見ていると、胸の奥がじり、と傷んだ気がした。
 ――俺だけに見せる顔をさせたい。 
 霧島は反射的に千逸の下腹部へ手を伸ばすと、大きく張りあがったそこから彼自身を取り出した。
「――先輩!……っ」
 そうしてぶるんとそそり立つ太いものを自分の口に含んだ。
 熱い肉棒は想像以上に硬く大きく、霧島は歯があたらないように必死に口をすぼめ、口内の柔らかいところで包みこむように覆った。
 そして千逸の手のひらが自分に触れる感覚を思い浮かべながら、陰茎を口内で上下し愛しはじめた。
「――っ……先輩……」
 動くたび千逸の足の筋肉は、それに呼応するようにぴくりと反応をみせた。
 余裕の出てきた霧島が不意に顔を上げると、千逸は快感をこらえるように顔をしかめ、目を閉じているではないか。
 その反応は霧島にとって新鮮であった。
 ――もっと喜ばせたい。
 そう思い上下する動きを早めながら、単調にならないよう、自分が好きな裏筋を口のなかで舐めあげるように舌を動かしてみた。
「先……輩っ……なんでそんなに上手いんですか」
 想像通りの反応に、霧島はにやりとする。
「それは……俺も男だし。お前も反応よすぎじゃないか?」
 そう言って鬼頭の裏を舌で舐めると、千逸は悶絶し同時にものもどくんと脈打った。
「そこは……ずるいです」
「ははは。お前が空山とわかれば、もう前みたいにお前にばかりさせないからな」
「……っ……それは燃えますね」
 千逸はそう目を尖らせると、突然自分の指を舐めはじめた。
 それに霧島が気づいたときには、千逸はからだを起こしてその手を霧島の尻に伸ばすと、秘穴を広げはじめたのである。
「ふっ……あぁ」
「先輩。……先輩こそ、期待しちゃってるじゃないですか。俺の足に垂れてるのは、何ですか?」
 霧島はそう言われようやく気づいた。
 自身の剝き出しの肉棒は、いまだ直接触れていないにもかかわらず、透明な液を流し糸を引いているではないか。それは千逸の足にだらりと垂れ、月光にちらちらと輝いていた。
「っ……お前のだろ」
「先輩のですよ。……それに、穴も指をきゅうきゅう締め付けてます」
「ふっ……あぁっ…………お前っ……ねちっこいぞ」
 千逸のなかに入り込んだ千逸の指は、気持ちいいところを掠めては去っていく。その快楽をからだが自然と追ってしまうのは、自分ではどうすることもできなかった。
 快感に翻弄され、千逸を愛撫する口の動きも止まってしまう。
 その瞬間、千逸のもう片方の手は霧島そのものに伸び、上下に動き始めた。
「……くそ」
 千逸と向かい合ったまま、前も後ろも翻弄されてしまう。
「ふふふ。先輩、そろそろ欲しいんじゃないですか?」
 目の前で意地悪そうに、にやりと笑みを浮かべる千逸に霧島は思わず言ってしまう。
「千逸、お前…………そっちが素だろ」
「え?何かいいましたか?」
 千逸は変わらずに手を動かし続けたものの、その中途半端に与えられる快楽に、霧島はもう耐えられなかった。
 ――はやく、はやく入れてくれ。
 穴の奥が彼そのものを求めていた。
 霧島は千逸の手首を握ると、涙にうるませた目を向け口を開く。
「わかってるなら……はやく入れてくれ」
「はい先輩。仰せのままに」
 その笑顔を見た瞬間、霧島は優しく後ろに倒された。
 両足を投げ出し、くぷりと広がった秘孔と反り上がった肉棒を千逸に見せつけるようで、すこしだけ恥ずかしくなる。
 いわゆる正常位となり、千逸のからだは上から覆い被さり、入口に熱いものが触れた。そう思った瞬間、それは肉をめくり上げるようにずぶりとなかに入った。
 ゆっくりと、なかを広げるように押し入る千逸自身を感じながら、霧島はうめく。
「……お前……こんなに大きかったか?」
「そういえば、昔の俺のものを見たことはなかったですよね?」
 千逸は耳元で囁くように言った。
「――ちなみに、ここは調整していないので当時のままです。先輩に気に入ってもらえているようで……嬉しいです」
 そう言うと、勢いよく腰を打ち付けはじめた。
 そのいいところを直接刺激する快感に、霧島は悶絶する。
「はあっ……んんっ……あっ」
 千逸の肉棒が突き上げるたび、腹の奥からぐわりと快楽がこみ上げた。
 また千逸のからだが揺れるたび霧島自身も擦られて、その外と内からの強い刺激に悶えるしかできない。
 その様子に千逸は気づいたようで、腰を動かしながらも霧島の両腿の裏を掴むようにからだを起こし、見下ろしながらにやり笑う。
「ふふふ。わかりやすいですね」
 そう言うと、なんと直接霧島の棒を触りはじめたではないか。
「さ、触るな!……ああっ」
 それは、すでに先端から溢れた透明な液体でどろどろになっており、千逸のてのひらの暖かさも相まって、霧島はもはや自分を抑えられなくなった。
 腰は浮き、肉棒は熱を吐き出そうと、自然に千逸の手を求めこすりつけてしまう。
 その動きを追うように千逸は腰を動かし、霧島はもう耐えられない。
「あっ……ああぁ…………いく」
 先端から白いものがどぷりどぷりと噴き上がり、霧島の腹に小さな水たまりを作った。
 千逸はそれを優しい眼差しで見守ったあとで、顔に汗を浮かべながら再度霧島に覆いかぶさり、
「……先輩」
 そう小さく言って霧島のなかに自身の熱を吐き出した。
 しっとりと濡れ、上下する千逸のひんやりとする背中に腕を回しながら、霧島はひとりこころのなかで誓った。
 記憶も、千逸も。もう絶対に自ら離しはしない、と。
 
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