【完結】プシュケの彼方ー死ぬことが許されなくなった未来社会。仮の肉体を継いでなお、生きる理由はあるのだろうか？ー

3章 欲

6 快楽 ※

　――まさか、そんな簡単に入ってしまうなんて。
　霧島がそう思うほど、自身の秘孔は容易く千逸ちはやのものを受け入れた。
　同時に、下腹部を満たす圧迫感、そして背中に覆いかぶさる男の身体と熱が、触れているところから伝わる。ただ、それは霧島に不快感をもたらした訳ではなかった。大きなものに全身を包みこまれるような安心感があり、同時に、胸の奥からこみ上げるなにかがあった。
　――この、身体の内側を締め付けるような、泣きたくなるものは――。
　霧島がそれを思い出そうとしたとき、ちょうど千逸ちはやの吐息が耳の裏で響いた。その、解ほどくように吐き出された深い息に、霧島も思わず身体を弛ゆるませる。
　――よかった。
　その安堵は、これまで何を考えているかよくわからなかった千逸ちはやに対するものであった。気づけばここまで来てしまったものの、千逸ちはやが行為に対して乗り気なのか、霧島にとって不明であったのである。しかしいま、ついに千逸ちはやは自分の中に入り込み、身体で声を上げているではないか。
　奥へ、奥へ。
　そう腹部の圧迫感が徐々に増すと同時に、千逸ちはやの温かな息が霧島の首筋に触れた。そして髪がさらりと掠かすめたと思えば、千逸ちはやの頬ほおが霧島を求めるように、優しく擦り合わされた。
　――こっちへ。
　そう言わんばかりの仕草に、霧島は応こたえるように顔を向ける。すると優しく溶けるように唇が合わさって、千逸ちはやはそれを合図に腰を動かしはじめた。

　それからのことは、霧島の記憶にあまり残っていない。
　なぜなら突然、感じたこともない快楽の波が襲い、霧島を翻弄したのである。
　はじめ霧島のなかを満たしていたものは、ゆっくりとなかを味わうように滑らかに動いた。
　出ては入り、一回、二回。
　そして三回目のことであった。
　それまでの挿入で、内側から臓器を押される圧迫感だけを感じていた霧島が、
　――こんなものか。
　と油断していたときだった。
　突然、千逸ちはやのものはさらに深く進み、霧島の秘孔を貫いたのである。
「――ふぁっ」
　その嬌声が自分から出たものか気づく前に、霧島はすでに快楽の波に飲まれていた。千逸のものは霧島の穴の最も感じる場所に容易く届き、腰を軽々と砕いたのである。
　一度出てしまった声は霧島の奥を突くたび止まらず、まるでありあまる快感を教えるように響いた。
「あっ……ひ……んぁっ……あぁ」
　千逸ちはやは、すでに耐えきれずに決壊した堰せきのように、こらえていた何かを爆発させるように、霧島の腰に熱を打ち付けた。
　そのたび霧島の内側から燃えるような快感が走り、口からは声や涎よだれが、そして男根からは大量の先走りが漏れ、寝台をねっとりと汚した。
　もちろんそれらを抑える余裕はすでに霧島にはなかった。
　そうして次に気づいた時には霧島は果てており、息を切らして薄汚れた天井を見ながら、自らの腹に自分の子種を吐き出していたのである。