【完結】プシュケの彼方ー死ぬことが許されなくなった未来社会。仮の肉体を継いでなお、生きる理由はあるのだろうか？ー

1章 世

6 はじまり①

　地球上でもっとも栄華を極めた種――ホモ・サピエンスも、栄枯盛衰の定めから、完全には逃れられていない。いまも滅びの結末が迫っている。
　原因は、古代の種を絶滅させた隕石の衝突でも、地球全体の寒冷化によるものでもなかった。ただ、その存在が生み出されてからずっと危険視され、国々が競うように抱え始めたもの。
　人類の生み出した火――すなわち核によってである。

　はじまりは、二十世紀初頭へと遡さかのぼる。
　その頃、世界はインターネットという新たな利器を生み、グローバル化という大義名分のもとに繋がり始めた。時代的には、第二次世界大戦という大きな戦争が終わったあとで、その頃の人々は争いを嫌悪し、仮初めの平和が訪れていた。
　ときに民族同士の内戦や、隣国同士の戦争はあった。しかし、そのどれもが地球の全土を巻き込むほどのものにはならなかった。
　なぜなら、当時は増え続ける核を、誰もが国を守るためのものだと言い張り、そう思っていた。
　核は抑止力である、と。
　ただ、時勢が悪かったのか、為政者が悪かったのか。
　暗黙の了解は、突如破られたのである。