【完結】プシュケの彼方ー死ぬことが許されなくなった未来社会。仮の肉体を継いでなお、生きる理由はあるのだろうか?ー

上杉裕泉

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1章 世

5 神楽

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 交換を終えた霧島は、役所の健康福祉課をあとにした。
 空を見上げると、ぼんやりと白い疑似太陽が、ほぼ頭上にあった。
 時間は正午すぎである。
 生ぬるい大気を肌に感じながら、コンクリート造りの無機質な街を歩き始めた。
 行政施設が集まるドーム「かぐら」には、大昔の都市部のようにビル群が立ち並ぶ。中には、かつてと呼ばれたものや研究施設が存在し、趣味として知的生産を好むものたちの憩いの場となっている。
 対して、霧島が歩く大通りのした――地下部には、数世紀前に建設された銀行などの歴史的建築物が大切に保全されているらしい。かつて日本の地方都市であった名残りだそうで、そのため道はビルのあいだを縫うように、傾斜を繰り返し走っている。
 その上を、自動走行車や小型のホバークラフトが滑るように行き交う。脇に広く取られた歩道や細い走行レーンには、自律式機械だけでなく、人の姿もちらほらとあった。
 歩きながらおしゃべりを楽しむ人や、ランニングをする人。
 道行く車を眺める人、自転車を軽快に飛ばす人、脇のベンチで本を読む人。
 のどかで自由なこの光景は、数世紀前の、あの戦火が起こる前と同じにみえた。
 ――しかし、実際はまるで違う。
 霧島は、顔の人々の脇を早々と通りすぎながら思った。
 なぜここにいる誰もが、永遠の命を強いられることになったのか。
 なぜ人類の未来を託されてしまうはめになったのか。
 なぜ、「ちりの時代」は始まってしまったのだろうか、と。
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