【完結】プシュケの彼方ー死ぬことが許されなくなった未来社会。仮の肉体を継いでなお、生きる理由はあるのだろうか?ー

上杉裕泉

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1章 世

2 新しい身体

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 切なる思いとは裏腹に、まぶたの裏にぼんやりとした光があらわれ、霧島は目を開けた。
 真白の、無機質な天井が見えた。
 生まれたままの姿で寝台から降り、備え付けの鏡台の前へ向かう。カーテンで覆われたこの小さな半個室は、素体交換を終えたあとに通される、控室のようなものである。
 用意されていた衣服を身に着けようとすると、鏡に映った十代の身体が目に入った。霧島の真新しく艶やかな顔が歪む。
 ――なんどやってもこの瞬間は慣れない。
 七十年、使い古した身体を捨て、新しく傷ひとつない身体を身にまとう。
 魂を身体から身体へ移動する素体交換技術が生まれてから、数百年が経過していた。にも関わらず、疑問を抱いてしまうのは、いまだ自分が肉体と魂の結びつきを信じている古い人間であるからだろうか。
 それとも、宇宙のことわりに反している自覚を持ち続けているからだろうか。
 鏡のなかの、すっかり十代後半に戻った自分の顔を眺めながら、霧島は小さくため息をついた。
「……お加減のほど、いかがでしょうか」
 突然、頭上から響いた女性の声に一瞬驚くも、緩やかに言葉を返す。
「問題ない」
 おそらくため息に反応したのだろう。霧島はそう思い、用意された合成繊維の衣服を手早く身に着けた。
「では問診にうつります。区画番号F4Uに移動してください」
 肌に触れる、やけになめらかな布の手触りに戸惑いながらも、言われたとおりに次の区画へ移動した。
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