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3 Side 慧
31 対峙
しおりを挟む「誉史!」
膝をかばいながら立ち上がる誉史の名を呼ぶと、二回目でついに振り返りこちらに驚いた表情を見せた。
なぜここにいるのだろう、そう言いたそうな顔をしていたので、俺は誉史を見つけられたことを心の中で英梨さんに感謝した。
先程「みどり」で英梨さんから誉史の行きそうな場所を聞き、昔よくバスケの練習をしていたという川沿いの公園を訪れた。そうして無事姿を見つけ、ひとりシュートを打ち続ける彼を見ながら、そのもやもやとしたものを振り切ろうとする姿に、俺はなんで知ろうとしなかったと後悔していた。
英梨さん曰く、誉史は中学二年の頃にバスケの練習のしすぎで右膝に怪我をし手術をしたらしい。それはいま普通に生活したり体育をできるほどには回復しているものの、本格的に激しい運動をすることは認められていないそうだ。
当時、誉史はバスケ中心の生活をしていたようで、大変だったと英梨さんは言っていた。
「……高校もバスケが強いからって友達と一緒に選んだらしいんだけど、怪我しちゃったでしょ。だから無駄に偏差値高いところ狙わなくてよくなったから、志望校変えると思ってたんだよね。なんだけど、ちょうどそのとき親の離婚も重なっちゃって。それで誉史はさ、母さんに気を使ったみたいなの。静陵行けば進学は安泰だし、母さんの憧れの高校だったから。それで結局行ったんだけど。バスケ部の子達もいっぱいいる訳だから、楽しそうに部活をする姿を見るなかで大丈夫かって心配してたんだ」
その話を聞いた俺は納得した。
妙にすっきりとした部屋も、床に置かれていた家族の写真も。そういう、自分ではどうしようもないものを内に隠して、俺には笑顔だけ見せていたのだ。
「誉史!」
「慧…………どうしてここへ」
「お前、体調不良とか嘘ついてバイトサボったな!普通にバスケしてるじゃないか!」
「……これは、その……」
そうして弱々しく頭をかく誉史に、俺は口調を和らげる。
「……わかってる。英梨さんにいろいろ聞いたよ」
すると俺から目線を逸らして俯いたので、俺は続ける。
「まあ、いろいろ事情があって家にいたくないのはわかるよ。だけどバイトには来れるだろ。それに、俺に言ってくれればいろいろ助けられるかもしれないのに」
「…………ごめん」
「自分で解決できないこととか、折り合いがつかないことだってあるさ。ただ嫌な思いをしているのなら、俺は素直に逃げればいいと思う」
そのことばに誉史はくすりと笑った。
「それは意外。慧は姉貴に家まで引きずってきてって言われてると思ってた」
「……俺の女神がそんなこと言うわけないだろ!」
和やかな雰囲気があたりに漂う。
不意に誉史の顔を見れば、すっかり何かが抜け落ちたような微笑みを浮かべていた。その穏やかな表情に俺は安心する。
「英梨さんもわかっているんだ。だから、今回自分たちのちょうどいい話題もあるし、そういう一区切りつける場にしようと思ったらしい。けど無理なら今度でいいって言っていたんだ」
「……そうか」
そのゆるやかな肯定のことばに促された俺は、言おうと決めていた台詞を遂に口にする。
「よし、とりあえず俺の家にいこう!」
「え……」
呆然とする誉史に、俺はたたみかける。
「いいんだよ。うちには今日は母親しかいないし、英梨さんに連絡しておけば大丈夫だから」
すると、誉史はあのにやりとした笑みを浮かべて言う。
「慧、いつの間に連絡先を」
「ははは。ついさっき、みどりで交換したんだ。今回ばかりはお前に感謝だな。……ちなみに、松村さんとも交換させられた」
ほら、と画面を見せると、誉史はまじかと笑った。
その笑顔は、やはり俺にとって太陽のように思えた。
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