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1章 隣の席の変な人
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しおりを挟む四限の終わりを告げるチャイムが鳴り、授業が終わると同時に透哉は自分の机へと突っ伏した。
(…………疲れた)
彼が疲弊しているのは、授業はもちろんそれと並行して隣りの醒ヶ井眠子を観察していたからだ。
授業中はなるべく怪しまれないようにと、教科書を見る振りをしながらちらちら盗み見ていた透哉だったが、半日かけても芳しい結果は出ていなかった。
―いや、これが本当に結果だと言うのならとっくに出ているのだけれど。
彼がそう思うのも訳はない。隣りの席の醒ヶ井眠子は四限までの間、ほぼずっと寝ていたのだ。
教室に昼休みの喧騒が広がるなか、透哉は隠しもせずに右隣りの席を見た。授業中は観察しているのがバレないよう必死だったものの、意味がないとわかった今クラスメイトに訝しまれなければそれでいい。
視線の先には今もすやすやと寝息を立てる醒ヶ井眠子の姿があり、眼鏡越しに穏やかに閉じられた目元が見える。
―やっぱり、朝のあれは無視されたのではなく、ただ眠っていただけなんだ。そう結論付けた透哉はとりあえず安堵した。しかし同時に彼の中で新しい疑問が湧いていた。
彼女の眠りが、どうも体調の悪さから来るものとは違うのではないか、と。
醒ヶ井眠子が眠っていた時間は午前中のほとんどのあいだだった。それも授業の間はもちろんもれなく授業中も。
そのときは今のように熟睡しているように見えたのだが、どうやら彼女の眠りは非常に浅いらしい。普通なら先生の指導が入るレベルで眠っているにも関わらず、彼女は起きていないといけないときにちゃんと目覚めるのだ。
今日も授業の前後や、前から送られてきたプリントを受け取る時に、示し合わせたように目を覚ましてそつなくこなしていた。だから授業中も寝ていることを知っているのはおそらく隣りで眺めていた透哉くらいだろう。
それを理解するまでは、彼女が授業中に先生に当てられないか自分のことのようにそわそわしていたものの、醒ヶ井眠子が眠りを理由に注目されることはなかった。(むしろその代わりに透哉が何度も問題の餌食となった)
―午後からはちゃんとしないと。醒ヶ井さんに気を取られてうわの空になるのを、先生は絶対に見透かしている。
そう思いながら透哉は空腹を感じ始めて立ち上がった。
いまも昼休みの教室ではお弁当を広げて集まる生徒たちの脇で、眠っている生徒もちらほらいる。醒ヶ井眠子もそのうちのひとりだが、彼女はほかの睡眠が足りないだけの生徒とはどこか違うようにみえた。
―とにかく、朝のあれが寝たフリではなくてよかった。
透哉はそう思いながら、次に話しかける時は大声で行こうと小さく意気込んだ。
そろそろ食堂に行こう、そう透哉が教室の外へ出ようとしたときも、昼食を出しもせずに相変わらず眠り続ける醒ヶ井眠子の姿が気になった。声をかけてみたかったが、教室には食事や会話を楽しむほかのクラスメイトたちの姿も多い。
また今度でいいか、そう思った透哉はひとり賑わう教室をあとにした。
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