【完結】まほろばに鳥はもう来ない

上杉

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1章 清秋

4 燃え上がるもの

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「まあ、お前が考えてることも少しはわかるけどさ、この優雅な毎日は今だけなんだし、楽しまないとだろ」

 友人からのアドバイスに優人は心の中で――俺は十分楽しんでいる、そう思った。三隅はそんなことなど知らずに続けた。

「優人は真面目すぎるんだよ。サークルも新歓以降顔出してないんだろ?」

「……まあ、もういいかなって」

「もういいかな、ってなんだそりゃ!学生の醍醐味をなんで自分から手放すかなこの男は」

 いわゆる「ガクチカ」のために頑張らないとと思っていた時期はあった。しかし一年生の一年間で簡単に燃え尽きてしまった記憶を思い出した。
 ただ、それは自分だけではなかったと優人は思う。

「……三隅、お前も行ってないだろ」

「ぐっ……痛いところを。でもしょうがないだろ!一、二年は必修多かったし、三年はバイトと就活でそれどころじゃないんだから」

 実際、現実は三隅の言う通りだった。理系が文系と比べるとハードと言われる理由はそれだろう。
 大抵の大学では、一、二年次に座学が詰め込まれ、それはほとんどが進級に関わる必修科目だ。逃せば留年――そんな恐ろしい現実と戦ったあとで、続いてやってくるのは絶え間ない実験だ。
 授業と称すれば朝から晩までどんなにやらせてもいいのだろうか――そう思える実験はざらで、中には二日間続く日またぎの回もあった。
 そんな中で早期に始まる就活もあって、一体いつ遊べばいいのだろうと疑問は募るばかりだ。

 ――それにこれからは卒業研究があるし、就活も本格的になる。

 大学進学前は、卒業後親元に帰って会社を手伝おうと思っていた。
 しかし今は就活をし、別の会社に就職しようと考えていた。それは大学進学のときのように修行と言えば、彼らは納得して受け入れるに違いないと思えたからだった。
 ただ、それを実現するためには、卒研も就活も同時並行で頑張らないといけなかった。

「……なあ、やっぱ飲み行こうぜ!俺のバイトが終わった後で」

 突然言い出した三隅を前に、優人も思う。確かに行けるのは、忙しくなる前の今くらいだろう。

「……しょうがないな」

「お、珍しい!遂にこの男が動いたぞ!」

「大御所みたいな言い方するなよ」

 ふたりが軽く笑ったあとだった。三隅は何かに気付いたようにはっとした顔をして、こちらを見た。

「……なあ、せっかくだしありさちゃん誘おうぜ!」

「……なんで元カノ誘わないといけないんだよ」

 反射的にそう否定してしまったが、一年も前に別れた元カノをわざわざ誘うのはどうかと思えた。

「えー、いいじゃーん。いまも仲いいんだから」

「嫌だよ。普通に話すくらいならいいけどさ」

 そのときだった。不意に三隅の顔色が変わったので、何が来たのかと視線の先を追い、振り返る。

「――あ、室島先生だ」

 メインストリートを通りカフェテリアへ向かうのは、室島教授率いる賑やかな団体だった。
 その先頭で女子に囲まれているのが、渋さとワイルドな見た目が人気の室島将吾だ。
 背は高くすらっとした体格で、ほかの教授陣と比べると目を見張るものがあった。
 その自分に厳しそうな見た目と、講義中の彼の砕けた口調がギャップとなり、たまらない――そういう女子からの人気が絶大だった。
 一団の中には男性も三、四人ほどいたが、華やかな中で浮いている様子も見られなかった。その仲のよさそうな様子に、三隅がこの研究室を志望した理由が分かった気がした。

「俺たちも来年はあそこに入れるんだな」

 そう意気込む三隅に事実を伝えておく。

「まあ、最後の実験の単位取れたらな」

「……それな」

 そろそろバイト先に移動する時間だった。広げたパソコンをしまい、荷物をまとめてふたりは立ち上がる。
 丁度、室島研の集団が目の前を通り過ぎるところだったので、一応軽く会釈をする。
 賑やかな集団とその後ろを歩くひとりの男に向けて。

 もちろん、このとき優人はまだ思ってもいなかった。
 まさか自分がそこら辺の嫌な学生たちのように。酒に溺れ、恋愛にうつつを抜かす彼らと同じように。
 恋に落ち、その炎に身を焼き焦がし、渾沌の中へ自ら足を踏み出そうとするなんて。
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