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9章 再会そして
9 溶けて交わって※
しおりを挟むほんのりと、月の光で照らされたうす闇の中。晃閃は白く照らされた目の前の男、霽英千を見つめていた。
淡い色の巻き毛は今や白く輝き、大きな瞳は優しく、しかし熱を持って晃閃に視線を返した。
ふたりの間にもう言葉はいらない。
互いが求めるものは一つだけ―。
英千の左手は晃閃の腰を優しく抱き寄せると、右手は頬を撫で、それはやがて顎に添えられ、顔が近づく。
晃閃がそれに応じ目を閉じると、唇が重ねられた。
はじめは慎重に、確かめるように静かに。
二度目は愛を捧げるように優しく。
それからは気持ちをぶつけ合うように深く、濃密にくちづけが交わされた。
数を重ねるたび晃閃の頭はぼんやりとし、溶けるように甘美な感覚で満たされた。
晃閃は目の前の彼に意識を向けることで精一杯だった。
広い視野で戦場を蹂躙していたかつての剣聖が、まさかこんなにも余裕を失うなんて。
自分のあまりの変貌ぶりに驚いていると、英千は不意に体重をかけて晃閃の身体を反転した。
どさりと寝台に倒れ込んだかと思えば、その上に英千が迫る。目の前の男もまた、黄金の瞳を潤ませ、息を荒らげ、晃閃を見下ろしていた。
―ああ、よかった。
晃閃は、切羽詰まった表情の英千を見、自分と同じなのだと安堵した。
次は晃閃から、英千の頭に優しく手を添える。そして再び唇を合わせれば、今度は優しく舌が当てられたではないか。
晃閃が唇をこじ開けようとするそれを受け入れると、口の中に侵入した英千は卑猥な水音を立てながら晃閃と交わった。
口の中を侵すその感覚は弱い電撃のようで、晃閃の頭だけでなく全身をゆっくり溶かしていく。
気付けば晃閃の下腹部は呼応するかのように痛いくらいに立ち上がっていた。
もちろん晃閃に限ったものでなく、先程から身体に押し付けられていた英千自身も、熱く主張をしていた。
お互い汗ばんだところで我慢できないというように、英千は衣を脱ぎ捨てた。
華奢だと思っていた身体は細いもののしっかり筋肉がついており、晃閃も舌を巻いた剣の腕は、本人の努力によるものであることを証明していた。
その筋肉質な上半身に比べ腰は細く引き締まり、月光で白く輝き彫刻のように見えた。
変わらずに熱を持って視線を送る英千の甘い顔立ちとのギャップに、晃閃は目が離せない。
すると英千の手は晃閃の衣へと伸び、傷だらけの胸元が顕にされたではないか。
それを見た英千は一瞬悲しそうに顔をしかめたが、晃閃の腰を抱き寄せその胸に顔を埋めようとするので、晃閃は不意にその身体を止めてしまった。
―ここから先はおそらく引き返せない。王は覚悟を決めてここにいらっしゃると思うが―。
晃閃にとって最大の懸念は男同士のやり方だった。
英千が自分に積極的に愛を捧げるいま、自分が抱かれることはうすうす理解していた。しかし実際に何をするのか、どこに何をいれるのかは全くの未知であり、晃閃の想像の範疇を越えたものだった。
「英千様……その、経験は」
おそるおそる聞いた晃閃に英千は口を開く。
「……若い頃、取り入ろうとした貴族に遊郭に連れていかれたことはある。見目麗しい女たちに相手をされ、そのうち一人に迫られた。しかし……駄目だったがな」
「駄目?」
「そなたの姿が思い浮かんだんだ。衣を脱がされ触れられるたび、そなたも誰かとこういうことをしたことがあるのかと。……そう思うと悲しくなり、私は役立たずになった」
その一方で身体に当てられている英千の雄は変わらずに自己を主張している。
英千はふっと笑って晃閃に言った。
「―この通り、そなたでないと駄目という訳だ。その……あまり聞きたくないが、そなたは……誰かと経験があるのか?」
「私も誘われたことはありますが、あのような煌びやかな場所はどうも性に合わなくて。結局一度も行ったことはありません」
華々しく生を感じるあの場所は、死をまとったかつての自分にとって地獄だった。
「それよりは戰景と―」
―剣を重ねている方がよかった、という前に英千は大きな声を上げた。
「何!?まさか、あの男と―」
「違います。彼と剣を交わす方が好きだったというだけです」
「ふう、全く……驚かせるな。どうもあの男は察しがよく、私のそなたへの気持ちに気づいているような表情をするのだ。だからひょっとして、そなたとかつて恋仲だったのかと思うこともあって」
ははは、と苦笑いを返しながら晃閃は思う。
おそらく榮霞によって感情がダダ漏れになっているのだ。
王には言わないでおこう、そう思ったところで、晃閃の顔を左右から挟むように、英千の手が添えられた。
「一応……こういうことになったときのために、書物でやり方は学んである。ただ、受け入れる方は身体に負担がかかるから、今日は最後まではできないと思う」
その言葉に、晃閃は自分の何かが守られたことを安堵しつつ、また彼に会えるのだと密かに喜んだ。
「……今はそなたと肌を合わせたいのだ。駄目か?」
おそるおそる言う英千に、晃閃は彼の手を優しく掴んだ。そうして驚いた表情をする英千に晃閃から口付けたのだった。
「―そうであれば、応じておりませんとも」
そこからはたがが外れたように互いに口を貪りあった。
それが遂に離れたと思えば、英千の唇は晃閃の首元や胸元に押し当てられた。
無数の傷を愛でるように優しく触れる感覚に、晃閃はもう耐えられなかった。
再び押し倒されたかと思えば、腰紐と下着を取られそそり立つ自分が顕になる。
羞恥する間もなく、英千の唇は腹そして腰へと下り、遂に敏感なところにそれは触れた。
「……っ」
どうしようもなく腰は振れてしまい、快感に身を悶える自分を恥ずかしく思っていると、目の前の英千がいたずらっぽい表情でこちらを見ていることに気づいた。
その視線の先には、すでに先から蜜を垂らして悦ぶ晃閃自身があった。
「……まさか英千様―」
晃閃の言葉はもう遅かった。
英千はにやりとしたかと思えば、そそり立つそれを口に入れたではないか。
唐突に押し寄せすべてを飲み込むかのような強い快楽に、晃閃は意識を持っていかれそうになる。
「止めて……下さいっ……んっ」
包み込むようにまとわりつく彼の口内は、上下に動き出しとてつもない快感が晃閃を襲う。
自慰とは比べ物にならないその強い感覚に晃閃は声を抑えられない。
「ああっ……んあっ……え、英千さまっ」
―このままでは先に達してしまう。晃閃がそう思ったと同時に英千は口を動かすのをやめ、解放して言った。
「ずっと、そなたが乱れる姿を見たかったが……これは想像以上だな」
放心し自身をぴくぴくとさせる晃閃を前に、英千は張り出した下着から自らを取り出した。
それは彼と同じように美しいものの凶悪にそそり立ち、先は晃閃のものと同じようにぎらぎらと濡れていた。
英千は晃閃に向かい合うように座ると、自身の熱く固いそれを突き出し晃閃のものと合わせた。
唾液と蜜でまみれるそれを共に上下に動かせば、強い快感が全身を襲う。
「…………っ」
晃閃もそれに手を貸し愛液にまみれたものに触れると、英千は驚いた顔をするもその快楽に溺れるように頭を垂れた。
ふたりはお互いの肩に頭を預けるように体重をかけ、互いの肌に顔を埋める。
汗で湿り不快なはずのそれはひんやりと気持ちよく、下半身の熱との対比にふたりはさらに互いを求めた。
動かし続ける手とは逆の手で腰を寄せ合うと、身体は密着し晃閃は英千から伝わる熱と鼓動と快楽に、強烈な生を感じた。
死ばかりに立ち向かっていた晃閃は知らなかった。
互いに愛を交わす行為は、全身で相手の存在を肯定する行為なのだと。
上下に揺れる手は早くなり、ふたりのもとに快楽の波が押し寄せる。
彼らは身を預けたままの状態で、お互いの名を呼んだ。
「晃閃っ……」
「―英千……さまっ……」
まるでそれが合図であったかのように快感は絶頂を迎え、ふたりは精を吐き出したのだった。
彼らは終わったあとも互いを離すことはなかった。
息の荒いまま言葉なく寝台に倒れ込んだものの、ふたりは抱き合ったままだった。
春の終わりの空気はひんやりと部屋を満たし、窓から差し込む月光はいまだ美しくそこにあった。
そんな夢のような光景を前に、晃閃は不意に現実に戻される。
―さっきのは……まさか夢?
焦った晃閃は自分を抱き寄せる英千に声をかけた。
「英千様……?」
しかし反応は無い。
身体を起こして見れば、一糸まとわぬ姿の王はすっかりと目を閉じ、穏やかに寝息を立てているではないか。
晃閃は優しく微笑んだ。
―あれだけ怒涛の一日を終えたのだ。疲れて寝てしまって当然だ。
そうして労わるように優しく髪を撫でると、再び彼の腕の中へと身体を戻した。その上から柔らかな絹を被ると晃閃も目を閉じた。
隣には彼がおり、穏やかな温もりと鼓動があった。
晃閃はその生を感じながら、静かに迫る睡魔へと身を委ねた。
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