Hey, My Butler !

上杉裕泉

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「ねえ、私の執事バトラー!聞いて聞いて!」

 走りながら首元に手を伸ばし執事を起動したみずきは、そのままの状態で彼に呼びかけた。小走りで息が上がっているがその心の中の呼びかけは大きいままである。

『みずき様、穏やかでないですね。でも……なんだか良い報告のようですね。一体どうされたのですか?』

「あのね……告白、されたの」

 興奮冷めやらぬ彼女の報告に執事も嬉しそうに声をあげる。

「おお!それは喜ばしい事ですね。最近のみずき様は内側から輝きに満ち溢れていますから、当然のことですよ」

「それもこれもあなたのおかげだよ。昔と比べて体調がいいし……それに安定している感覚があるんだもん。お肌は滅多に荒れないし悩みだったクマもいつの間にか消えたし!本当に、いつもありがとう」

 彼女の感謝は本当に心から溢れ出たものであった。自分の体の周期変化をこんなにも把握し調節することができるなんて。彼女のこの思いは、女性たちの長年の悩みが解消されたことに由来するものであり、全女性から発されたものと同様の重さを秘めていた。今後もさらに執事をまとった女性は増えていくだろう。更なる女性の社会進出が求められている中で、これは極めて当然の流れだとみずきは思った。

「お礼には及びません。これからもいつでも気兼ねなくお呼び下さい。私はあなたの体であり、あなたの一部なのですから。何の遠慮もしなくていいのです」

 時に厳しく時には優しく声をかけてくれる自分だけの執事。みずきは告白されて舞い上がっていたものの、ふと冷静になって気づいたのだった。
 彼以上に自分をわかってくれる男性なんて、一体この世にいるのだろうか。



 ******



「秘書はもう、一人一台の時代。「Your Secretaryあなただけの秘書」十万台突破。生産追いつかず」
 月刊 チャンサラーオンライン 二〇五三年 十月 十四日

 私たちが待ち侘びていた秘書は、現在またその状況を余儀なくされている。
 先月発売された「Your Secretaryあなただけの秘書」の売上が、好調極まりない。予約販売を含めた販売台数は、一ヶ月あまりで十万台を突破し、次の入荷予定は十二月中旬となっている。
 現ユーザーの声を聞いたところ、その魅力は執事より進化した後天的性格構築機能にあるようだ。女性版いわゆる執事は、登録語彙が少なく有料アップデートを行わなければ性格分岐が難しい。すなわち、執事の性格にかたよりがみられたのだ。
 この点を、男性版秘書は人工知能により解決した上で、さらに新しい機能をも追加した。それは、オンラインによる業務補助機能である。従来、パッケージの追加がなければ出来なかった上に、その内容も極めて限られていた。この点を解決した当商品は、安全性を保証されたホームネットワークに接続することで、多種に渡る業務の補助を可能としたのである。すなわち、検索や資料参照などの秘書機能が、本格使用できるという訳だ。
 この新しい秘書の出現により、職業としての秘書が無くなる日も、そう遠くはないと思われる。新しい時代の到来と共に、我々は再度仕事というものについて考えることになりそうだ。


 ******

  
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