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しおりを挟む義堂みずきがなぜこの商品を買おうと思ったのか、その理由はあまり特別なものではない。
「自分の体と対話し、内側から整える」そしてそれに付随する「綺麗になってとりあえず彼氏を作る」というごく一般的な購入層である若い女性と同じであった。
しかし今や肉体的にも社会的にも成熟した彼女がなぜ若い女性らと同じ商品を買うことを決断できたのか。それはひとえに彼女の両親が、みずきの今後の心配をすることに他ならなかった。
話は先々週の週末に遡る。
法律で決められた有給休暇を消化しなければならず、彼女は毎年年末年始にそれを使っていた。今年も同じように長期で休みをとり、何も考えずに実家へ足を伸ばしたのであった。
「ただいま」
玄関を開けるとすぐにリビングの扉から顔を出したのは、三歳離れた弟であった。
「あれ、姉ちゃんだ」
「貴之久しぶり」
「おーい、深雪!母さん!姉ちゃん帰ってきた。あ、今年もお手製のチキン焼いてくれるんだよね?」
「帰ってきて早々にそれ?勿論作るつもりだけど。簡単だし。深雪ちゃん今辛い時期でしょ。あんたちゃんとサポートしてあげてるの?」
ボストンバッグを下ろし履き古したスニーカーを脱ぎながら言うみずきの元に、続いて現れたのは義理の妹の深雪であった。
「お義姉さん、ご無沙汰してます」
「深雪ちゃんお久しぶり!ごめんね、わざわざ玄関まで。これ手土産ね。あとで食べて」
「わあ、シュトルエンのマカロン!ありがとうございます」
紅をさしたような頬を優しく緩ませて微笑む義妹は、みずしにとって幸せの象徴のように思えた。
その夜のことであった。
「仕事もいいが、いつになったら結婚するんだ」
父がそれを言ったのは、夕食が済み弟夫婦が彼らの住む隣の住居に戻った頃であった。晩酌を始めた父親の隣に座り、みずきがビールを開けた時のまさに不意打ちであった。彼女はその言葉にしばし反応できず、そしてさらに不幸なことに、彼女が頭を動かし始めるより先に畳み掛けるようにして、母から追撃を受けることとなった。
「そろそろ、彼氏を連れてきてもいいんだからね。子供は、絶対若いうちがいいわよ。私も仕事ばかりしてたから、その楽しさもよくわかるけど。子育てするなら体力のある若いうちがいいわ。大変だったんだから」
「うーん……」
母の言葉をとりあえず曖昧に返しその場をやりすごしたみずきであったが、内心の動揺は隠せていなかった。
両親の言葉は未婚の娘を心配して発せられたごく普通のものだった。にもかかわらず彼女が酷く衝撃を受けたのは、二人も彼女と同じような仕事人間であったからだった。
これまでに一度もこのようなことを言ったことがなかったのに何故突然、という思いと、仕事が好きでそんな自分を分かっていると思っていたのに、という失望がみずきの心に深く入り込み、そこに靄を残すことになったのである。
そうして、ふと両親の言葉に傷つけられた彼女は、最近若い女性の間で流行っていたこのいかがわしい美容健康器具を発見したのである。
そこから購入するまではさすが係長さながらという速さであった。ネットに蔓延る体験談を無視した彼女は、商品の開発に至る経緯や共同研究先の学術論文に加え、さらには学会発表の資料までを読み込んだ上で、遂に購入を決したのだった。
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