The Another War ~異世界でも世界大戦かよ~

試作機まんじゅう

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第一話 ゴー・トゥ・イセカイ

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最近の研究者というのは、中々給料が少ない。

あるノーベル生理学賞を受賞した研究者は、金稼ぎの為にサイエンス系番組に出演していた。前に居酒屋で飲み交わした時、愚痴られた内容だ。



まあ、私はそこまで苦労していない。

子供も伴侶も居ないと、金の使い道が趣味程度になる。理系に出会いが無いというのは、都市伝説ではなかったようだ。



……同僚には既婚者も居るので、私の問題かもしれない。





一部の奴らは勉強をしたから給料を上げろと言う。周りはエリート気取りばかりだが、人間は環境で育つのだ。少なくとも私は、自分の努力で進学できたとは思えない。



学生時代は、所謂名門と言われる所であった。どうにか食らいついて中の下辺りの成績で、卒業を迎えた。

……食らいついたとは言え、勉強時間は人並みで、サブカルチャーに塗れた時代だったが。




学生時代の話のネタとして、政治と言うのは非常に便利なものだ。社会的タブーというのは、いつの時代でも面白いらしい。

最終的に辿り着くのは、大概の場合冷笑主義だったろうか。




天才と呼ばれる奴も居た。正直な所、私は彼らが化け物か何かの様に見えた。



努力でも、生まれでも及ばない壁がある。絶対的なシナプスの差があるように思う。

脳細胞の質が違うのか、量が違うのか。

そう言い訳しているだけと言われれば、それまでだ。




大学では、工学の道を歩むことになった。

講義室は同性ばかり。4年間は、学生時代とそこまで変わらない。



まあ、楽しく無かったと言えば嘘になる。構想さえあれば、大抵のモノは作れる技術力があった。動画編集が1番の趣味になる。



ゲームも嗜んだ。主に戦略ゲームと呼ばれるものだろうか。

休日は、PCの排熱が借りた家に籠っていた。グラフィックよりリアリティを優先した、表計算ソフトの様なゲームだ。




大学卒業後、就活……とはいかなかった。大学院だ。

教育機関は、一体どこまで金と時間を吸い上げれば気が済むのだろうか?



親も退職したため、金もある程度自分で稼がなくてはならない。

大学名を言えば、家庭教師だの講師だので時給は5000円を上回る。

金を吸い上げる側にもなった。学歴社会万歳。



で、その大学院だ。

何処が良いかなと、色んな研究室を見学していると、一人の教授に呼び止められた。



恐らく40代中盤の男性。見た目は、まさしくマッドサイエンティスト。

先輩方からの情報で、絶対にやめておけと言われた人だ。

曰く、オカルティズムの権化。



ああ、その狂気に魅せられてしまったんだろう。

今思えば、失敗だったかもしれない。





「ははははははは!いける!いけるぞ!」



強化ガラス越しに、教授が笑っている。



「それ、前も言ってましたね……」



「いやはや!今回は違う!出来るぞ!」



研究内容は、並行世界だとか、魂だとか。

まさしく、オカルティズム。



「108回目、駄目ですかねぇ」



「なんだ?聞こえんわ!」



どんな世界が良いかと聞かれた時は、魔法と人権がある世界と答えた。

そしたら、どちらもこの世界にあるじゃないか!、だとかほざいていた気がする。

こんなのが教授なのかと、ね。



現在の研究内容は魂の転送。

やはり、頭がおかしい。どのような環境で育ったのだろうか?



少し擁護するならば、人類全体で見た時、こいつの思想はそこまで異端で無いと言う点だろうか。

数十年前まで、この星には国家主義がオカルティズムで構成された帝国もあったのだから。

私の価値観は、西側諸国の一般的市民のそれと大差ないはずだろう。

人間は、種族的に狂気を宿している。



「来る!来るぞ!」



排熱で、内部が温まってきた。この段階まで来たのは数ヶ月ぶりか。

窓の外が白くなって見えなくなる。



「不味いな……これ」



段々朦朧としてくる。酸欠か、何かがショートして溶け出しているか。



意識、いや、それよりも根源的な何かが、遠のいていく感覚。体から、押し流されていく。



光よりも、尚早く。

太陽系を離れ、銀河を離れ、4次元が展開し、トーラス体の全容を幻視させて──







◇◇◇

ばぶー。



いや、ばぶーじゃ無いんだわ。



転生したなら、0歳から意識があるものだと思っていたがそうでも無いらしい。脳のサイズ的に、前世の自分の意識が入りきらないとか、そんな事な気がする。



この事象を、転生だと受け止めているが、私は前世の私のコピーかもしれないし、夢かもしれない。はたまた、仮想空間か何かか。

考えても仕方ないが。




現在12歳。大体自己認識を取り戻してきた私、アーデルハイト・ヴィーラントであります。



現在は、大自然の下で行軍演習。

木々に囲まれ、ライ麦パンを齧っています。

いや、別に私から入隊した訳では無いのだよ?

親が社会の最底辺でね?

どれだけ嫌といっても入隊させられたのが、つい数週間前の話だ。

年齢制限は捏造されていた。選択肢は、たった一つ。軍人だ。




まあ、演習場でも都市部よりはマシかもしれない。環境を一切考えず、工場の排煙が垂れ流されている。

文明レベルは19世紀初頭。世間は未だ新世紀の余韻に浸っているだろう。



よく見る中世ヨーロッパの異世界というのは、11世紀あたりと思われるが、どうしてこうなったんだろうか。

モノホンの11世紀に転生させられても堪らないがね?人権のじの字も無いだろう。




話を戻す。

この世界、魔術なるものが存在している。

私が、人権の次に望んだ、その魔術だ。



嬉しいことに、才能はあった。

だけどね、思ってたのと違うの。



例えば、先の戦争で実用化された戦域魔術。

今は流しておくが、広範囲の凄い魔術だと思ってもらおう。

これ、一定範囲内の温度がどんどん上昇していくんだ。



通常、空気が温まって体に伝導するのが、体そのものが熱せられる。

要塞なんかに籠っている敵を、この魔術で朦朧とさせてなだれ込んだそうだ。

なお、死体が温まって使用後は腐肉の山が出来るそうで。



……人権、ドコ?

こんな非人道兵器がまかり通る世界だ。



魔力測定で、「凄ーい‼︎戦争が出来る臣民なんだね‼︎」とかなれば障壁術式片手に前線で盾役だ。

冗談じゃない。




まあ、先ほどから戦争が起きる前提で話しているが、案外大丈夫なのかもしれない。

根拠は、前世からの楽観論。

つまるところ、平和ボケした者の妄言だ。






おや、行軍再開のようで。

ライ麦パンは……食べてしまおう。

それでは皆さん、次があれば、また会いましょう。
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