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第四話 問題は人の世だけにあらず
3 もふもふ警備隊
しおりを挟む僕はいろいろ考えた末、夕方に見回りをすることにした。本当は夜のほうがいいと思う。だけど、母が夜は危ないから明るいうちにしなさいと強く言われてそうなってしまった。明るいうちに毒を撒く人はいないだろう。きっと。まあ、初日だしいいか。
『もふもふ警備隊結成だ』なんてもふもふ様はヤル気満々だった。エマも行くと譲らないのでしかたがく連れて行くことにした。隣にはチナもいる。もちろん、座敷童子のヒナもいる。
「侑真くんのうちって本当に楽しいね」
「えっ、楽しい」
「うん、幽霊の道先案内人やったり警備隊やったり楽しい。あっ、これって楽しんじゃダメなのかな。幽霊さんは道に迷ったら困るだろうし、猫さんは可哀相だし」
「チナちゃん、優しいね」
チナとふたりで話していたらエマが袖を引っ張ってきた。
「アッチッチだね」
まったくエマはいちいちそんなこと言わなくていいのに。
「ほら、しっかり周りをみろ。遊びにきたんじゃないぞ」
「えへへ、もふもふ様に怒られちった」
そうそう、遊びじゃない。猫たちを守るために犯人をつきとめなきゃ。けど、僕たちだけで危険じゃないだろうかという心配もあった。もしも、みつけたとしても危ない人だったらどうしたらいいのか。ナイフとか持っていたら僕たちやられちゃうかもしれない。いや、大丈夫だ。もふもふ様がいる。座敷童子のヒナに期待はできないか。幸運は招いてもさすがに捕らえるような力はなさそうだ。それともすごい力を隠していたりするのだろうか。
ふと僕は想像してしまった。ヒナが攻撃するところを。
『お手玉爆弾だ』なんていつものお手玉を投げつけて犯人を足止めするとか。そうだったら面白いかも。
「そんなことしません」
小声でヒナが否定していた。やっぱり、しないのか。あっ、ヒナに心を読まれてしまった。幽霊って言葉を話さなくても通じてしまうものなのだろうか。んっ、妖怪かヒナは。どっちでもいいか。
「私は精霊です。そういうことでお願いします」
精霊か。そうなのか。
「なにか文句でもおありですか」
「いや、文句なんてないよ」
「私はあります」
「えええ、なんで、なんで。僕、なにか悪いことしたかな」
「いえ、別に。ただ私ともっと遊んでほしいなって」
そういうことか。
「ヒナちゃん、お兄ちゃんのことが好きみたい」
えっ、そうなのか。思わずチナに目をやるとチナがヒナをじっとみつめていた。これって大丈夫なのか。僕はどうしたらいい。いやいや、考えるまでもない。僕はチナと一緒がいい。ヒナは人じゃないし。けど、機嫌を損ねたらいなくなっちゃうかもしれない。せっかくの幸運が逃げていったらどうしよう。
「ふふふ、心配はいりません。私の好きはチナの好きとは違います。なんというか家族愛みたいなものでしょうか」
なるほど。チナもヒナの言葉にホッとしたようだった。
「おい、おまえらおいらたちは今なにをしに来ているんだ。わかっているのか」
「あっ、ごめんなさい」
「あはは、みんなまた怒られちったね」
「エマもだぞ」
「はーい」
僕たちは町内をグルッと一周してみたがこれといって怪しい人は見当たらなかった。引っ越して来た人ってどこにいるのだろう。このへんのアパートは何軒か知っているけどそこの住人のことはよくわからない。なんだか見回っている意味があるのかないのか。やっぱり、夕方じゃダメだろう。こっそり夜に抜け出そうかとも思ったけど、母を心配させるのもどうかと思う。どうしよう。
もふもふ警備隊ってヤル気十分なもふもふ様にお願いするってこともありなのだろうか。もふもふ様に任せて僕たちは寝てしまうっていうのも気が引ける。
「今日はなにもなかったね」
「そうだね。チナちゃんお疲れ様」
「うん、またやるときは呼んでね」
チナを見送り家に入る。そのとたん、エマの変な歌が耳に届く。
「チナちゃんとヒナちゃん、どっちとアッチッチ。あっちとこっちでアチチのチ」
「エマ、変な歌は歌わない」
「はーい」
「エマは勘違いしていますね」
ヒナの困り顔にエマは気づいていないようだった。好きという言葉にはいろいろとある。エマはそのことをきちんとわかっていない。まあいいか。
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