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第四話 問題は人の世だけにあらず
1 猫たちの事件
しおりを挟む「ふーん、そうか」
エマが腕組みをして頷いていた。
「なんだ、なにかあったか」
「あのね、うんとね。忘れちった」
「おいおい」
もふもふ様にエマは突っ込まれて舌をペロッと出した。そんな様子を部屋の隅っこでヒナが頬を緩ませて静観している。ゴマは何を考えているのかじっとエマをみつめていた。子猫たちは我関せずとばかり三匹でじゃれあっている。そうかと思うとちーが突然ゴマに飛び掛かりゴマに猫パンチを喰らわせられていた。ちーの顔がなんとなく『ごめんなさい』という顔に見えた。
なんだか平和な光景だ。
あっ、そうじゃなくてなにかあったんじゃないのか。
「侑真、実はな……」
もふもふ様のいつになく真面目な顔に僕も真剣に耳を貸す。
「チナとうまくキスさせるにはどうしたらいいかと」
「な、な、なに」
ああ、もう。真面目に聞いていればそんなこと話し合っていたのか。顔が火照ってきた。
「だってチュッチュクチューすれば仲良しさんだもん」
まったく。んっ、仲良しさん。エマはわかっているのか。どうも軽く考えているような。
「ウググ、シャー」
「なんだ、ゴマ。怒るなって。冗談だ。おいら、きちんと考えているって」
あれ、ゴマはどうしたのだろう。なんかすごく怒っているみたいだ。
「すまん、実はチュッチュクチューの話じゃなくて。ゴマに相談を受けてな。なにやら大変なことになっているみたいなんだ」
大変なこと。ゴマに目を向けると「グゥギャギャッ」と僕の目を見て鳴いた。
「ここ最近、猫の仲間が消えるという事件が発生しているらしい」
「消えるって」
「理由はわからん。攫われているのか。殺されているのか。とにかくいなくなっちまった猫が数匹いるらしい」
そうなのか。それじゃゴマと子猫たちも危ないのか。そう思っていたらもふもふ様はかぶりを振った。
「飼い猫は無事らしい。いなくなるのは野良だけらしいぞ」
そうか。首輪をつけているゴマと子猫たちはとりあえず安心していいか。
「けど、首輪をつけていない飼い猫もいるんじゃないのか」
「どうだろうな。このへんはみんな外猫だからな。けど、今のところいなくなったって話は聞いていないだろう。どこで判断しているのかはわからないが」
なるほど、確かに「うちの猫がいなくなった」なんて話は聞かない。いや、知らないだけってこともあるのか。
「僕になにか手伝えることってあるのかな」
「エマも手伝う」
もふもふ様は腕組みをしてなにか考えはじめた。
「グゥギャ」
「んっ、そうだな」
「えっ、ゴマはなんて」
「猫の集会に一緒に来てほしいってさ」
猫の集会。本当にあったのか。それは参加したい。エマは小躍りして喜んでいた。
「しゅうかい、しゅうかい、猫しゃんのしゅうかい。なんだか楽しそう。けど、しゅうかいってなーに」
なんだエマは集会がなにか知らないで喜んでいたのか。
「エマ、集会ってのはたくさんの人が集まるってことだ。だから猫の集会は猫がたくさん来るぞ」
「猫しゃんがいっぱい。エマも行く、行く」
エマは目を輝かせて飛び跳ねていた。
「グゥギャギャ」
「エマ、すまない。参加するのは侑真だけにしてほしいそうだ」
「えええーーー、なんで、どうして。ゴマしゃん、エマも参加したいのに。なんで、どうして」
もふもふ様は言いづらそうにして伏し目がちになりぼそりと一言「うるさいからだってさ」と告げた。
エマはムスッとした顔をして「エマ、うるさくないもん。静にできるもん」と口にした。
「本当に静かにできるの、エマ」
「できるもん。できるったら、できるもん」
きっと無理だと思う。エマが行ったら騒がしくなるだろう。変な歌も歌いそうだし。猫の集会ってイメージ的に静かな感じがする。猫たちはエマの声に驚いてしまうだろう。エマには諦めてもらうしかない。しかたがない。
「エマはお留守番してようか」
「なんで、なんで。イヤ、イヤ、お留守番なんてイヤ。じゃ、じゃ、静かにしていたらいいんでしょ。ぜったい、ぜったい、お口にチャックするから。ねっ、ねっ、ゴマしゃんいいでしょ」
エマはゴマに手を合わせて懇願し続けた。
「エマ、遊びに行くんじゃないんだ。わかるだろう」
「わかんない、わかんない。エマ、静かにできるもん。大丈夫だもん」
エマの瞳が潤んでいた。
結局、条件付きで許しがでた。騒いだ瞬間退場してもらうとの約束がされた。
エマは約束を守れるだろうか。
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