わが家のもふもふ様

景綱

文字の大きさ
上 下
28 / 39
第三章 仲間は多いほうがいい

6 わが家に幸せの足音が訪れる

しおりを挟む

 エマは庭の隅っこで猫たちと遊んでいた。んっ、あれは幽霊か。女の子がいる。

「あのね、エマね。泥団子作るのうまいんだよ」

 ゴマは泥団子に鼻先をつけてヒクヒクさせて匂いを嗅いでいた。
『やっぱり、これ食べものじゃないよな』
 そんな顔つきに僕には映った。エマを上目遣いでみつめているゴマの顔はそう思っていそうだ。

「おもてなし、おもてなし。裏もないけどおもてなし」

 なんじゃそりゃ。エマの歌に思わず笑ってしまった。

「エマ、なんだその変な歌は」
「えっとね、えっとね。もふもふ様が歌っていたの」

 もふもふ様に目を向けると「なんだ、文句あるか。意味なんかないからな。なんとなく思いついて歌っただけだ」とぶつぶつ言ってきた。

「文句なんてないよ」
「そうか、ならいいけどさ」
「ところで、この子は」
「えっとね、ヒナちゃんだよ。ヒナちゃん、すごいんだよ。あのね、うんとね、なんだっけ」

 なんだっけと言われても僕にはわからない。いったい何がすごいのだろう。

「この子は座敷童子だ」

 えええ、座敷童子。うちに座敷童子が来たのか。これは家の中に招き入れたほうがいい。

「エマ、外は暑いからさ。中でおもてなししたらどうかな」
「うん、そうだね。ヒナちゃん、行こう」

 エマはヒナと手を繋いで家の中へ入って行った。

「侑真、あの子はこの家に幸せをもたらしてくれるだろうな。まあ、いまでも幸せだろうけど」
「ああ、そりゃ今も幸せさ。父さんはいないのは寂しいけど楽しいし」
「おい、父さんはここにいるぞ」

 そうだった。幽霊だけど父はいる。なんだか変だけど。

「あっ、侑真くん」

 突然声をかけられて振り返るとそこにはチナが微笑んでいた。ドクンと心臓が跳ね上がる。チナがうちに来るなんて。さっそく、座敷童子効果か。
 チナの目線が気になった。どうみてももふもふ様に目が向いている。電話で話していたけど、本当に見えるのだろうか。どう見ても視線はもふもふ様にいっている。嘘じゃなさそうだ。

「なあ、おいらが見えるのか」

 頷くチナ。

「そりゃいいや。侑真の嫁さんにぴったりだ」
「ちょっと、もふもふ様。それは」
「なんだ、チナのこと嫌いなのか」
「いや、嫌いじゃないけどさ。今、そんなこと言わなくたって」

 チナは笑っていた。

「私、侑真くんとだったらいいかなって思うよ」

 えっ、今のって……。まさか、そんなことって。僕は顔が熱くなった。

「よかったな。まあ、まだ先は長い。それまで同じ思いでいたらいいけどな」
「なんだよ、もふもふ様。そんなこと言うなよ」
「じゃ、お邪魔だろうからおいらはエマのところに行くぞ」

 ニヤニヤ顔でもふもふ様はフッと消え去った。

「やっぱり、侑真くんも見えているんだね」
「まあね。けど、僕はこれのおかげだけど」

 僕はポケットから水晶玉を取り出してチナに見せた。

「ふーん、そうか。それにしてもこれ綺麗ね」

 チナとそんな会話をしていたら突然、二階から「あああ、アッチッチのチュッチュクチュ―だ」との大声が飛んできた。
 エマの奴、まったく。本当に暑くてしかたながい。

「お兄ちゃん、また真っ赤だな、真っ赤だな~になっちった」

 チナは口を押えて笑っている。エマに黙れと叫んでやりたいところだけど、チナがいるからやめておくことにした。
 それにしてもなんて可愛らしい笑顔なんだろう。エマが向日葵ならチナはカスミソウってところだろうか。

「あのさ、ここ暑いからさ。中に入ろうか」
「うん」

 家に入ると母が出て来て「いらっしゃい」とニコリとした。

「おじゃまします」
「もう身体のほうは大丈夫なの」
「はい。ただまだ足がちょっと痛むけど大丈夫です」
「そう、早く治るといいわね」
「母さん、なにか飲み物お願い」
「そうね、暑いものね」

 僕はチナに肩を貸してゆっくりと二階へと上がっていった。階段の上でエマがニヤニヤして覗き込んでいた。ゴマももふもふ様も覗いていた。

「うわっ」

 チナが突然大きな声をあげて僕はびっくりしてしまった。原因はすぐにわかった。天井の近くのありえない位置からさっきの女の子が覗いていたからだ。座敷童子もチナには見えているようだ。

「チナちゃん、大丈夫だよ。あれは座敷童子だよ」

 そう教えるとパッと瞳が輝いた。階段下から心配そうに母が声をかけてきたが、大丈夫だよと言うとすぐにキッチンのほうへと戻っていった。

しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

『周一郎舞台裏』〜『猫たちの時間』5〜

segakiyui
キャラ文芸
『猫たちの時間』シリーズを映画にしてみた……世界のお話。『猫たちの時間』シリーズ5。

こちら夢守市役所あやかしよろず相談課

木原あざみ
キャラ文芸
異動先はまさかのあやかしよろず相談課!? 変人ばかりの職場で始まるほっこりお役所コメディ ✳︎✳︎ 三崎はな。夢守市役所に入庁して三年目。はじめての異動先は「旧館のもじゃおさん」と呼ばれる変人が在籍しているよろず相談課。一度配属されたら最後、二度と異動はないと噂されている夢守市役所の墓場でした。 けれど、このよろず相談課、本当の名称は●●よろず相談課で――。それっていったいどういうこと? みたいな話です。 第7回キャラ文芸大賞奨励賞ありがとうございました。

キャベツの妖精、ぴよこ三兄弟 〜自宅警備員の日々〜

ほしのしずく
キャラ文芸
キャベツの中から生まれたひよこ? たちのほっこりほのぼのLIFEです🐥🐤🐣

あなたになりたかった

月琴そう🌱*
キャラ文芸
カプセルから生まれたヒトとアンドロイドの物語 一人のカプセルベビーに一体のアンドロイド 自分たちには見えてない役割はとても重い けれどふたりの関係は長い年月と共に他には変えられない大切なものになる 自分の最愛を見送る度彼らはこう思う 「あなたになりたかった」

『古城物語』〜『猫たちの時間』4〜

segakiyui
キャラ文芸
『猫たちの時間』シリーズ4。厄介事吸引器、滝志郎。彼を『遊び相手』として雇っているのは朝倉財閥を率いる美少年、朝倉周一郎。今度は周一郎の婚約者に会いにドイツへ向かう二人だが、もちろん何もないわけがなく。待ち構えていたのは人の心が造り出した迷路の罠だった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

Halloween Corps! -ハロウィンコープス-

詩月 七夜
キャラ文芸
■イラスト作成:魔人様(SKIMAにて依頼:https://skima.jp/profile?id=10298) この世とあの世の狭間にあるという異世界…「幽世(かくりょ)」 そこは、人間を餌とする怪物達が棲む世界 その「幽世」から這い出し「掟」に背き、人に仇成す怪物達を人知れず退治する集団があった その名を『Halloween Corps(ハロウィンコープス)』! 人狼、フランケンシュタインの怪物、吸血鬼、魔女…個性的かつ実力派の怪物娘が多数登場! 闇を討つのは闇 魔を狩るのは魔 さりとて、人の世を守る義理はなし ただ「掟」を守るが使命 今宵も“夜の住人(ナイトストーカー)”達の爪牙が、深い闇夜を切り裂く…!

処理中です...