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第三章 仲間は多いほうがいい
6 わが家に幸せの足音が訪れる
しおりを挟むエマは庭の隅っこで猫たちと遊んでいた。んっ、あれは幽霊か。女の子がいる。
「あのね、エマね。泥団子作るのうまいんだよ」
ゴマは泥団子に鼻先をつけてヒクヒクさせて匂いを嗅いでいた。
『やっぱり、これ食べものじゃないよな』
そんな顔つきに僕には映った。エマを上目遣いでみつめているゴマの顔はそう思っていそうだ。
「おもてなし、おもてなし。裏もないけどおもてなし」
なんじゃそりゃ。エマの歌に思わず笑ってしまった。
「エマ、なんだその変な歌は」
「えっとね、えっとね。もふもふ様が歌っていたの」
もふもふ様に目を向けると「なんだ、文句あるか。意味なんかないからな。なんとなく思いついて歌っただけだ」とぶつぶつ言ってきた。
「文句なんてないよ」
「そうか、ならいいけどさ」
「ところで、この子は」
「えっとね、ヒナちゃんだよ。ヒナちゃん、すごいんだよ。あのね、うんとね、なんだっけ」
なんだっけと言われても僕にはわからない。いったい何がすごいのだろう。
「この子は座敷童子だ」
えええ、座敷童子。うちに座敷童子が来たのか。これは家の中に招き入れたほうがいい。
「エマ、外は暑いからさ。中でおもてなししたらどうかな」
「うん、そうだね。ヒナちゃん、行こう」
エマはヒナと手を繋いで家の中へ入って行った。
「侑真、あの子はこの家に幸せをもたらしてくれるだろうな。まあ、いまでも幸せだろうけど」
「ああ、そりゃ今も幸せさ。父さんはいないのは寂しいけど楽しいし」
「おい、父さんはここにいるぞ」
そうだった。幽霊だけど父はいる。なんだか変だけど。
「あっ、侑真くん」
突然声をかけられて振り返るとそこにはチナが微笑んでいた。ドクンと心臓が跳ね上がる。チナがうちに来るなんて。さっそく、座敷童子効果か。
チナの目線が気になった。どうみてももふもふ様に目が向いている。電話で話していたけど、本当に見えるのだろうか。どう見ても視線はもふもふ様にいっている。嘘じゃなさそうだ。
「なあ、おいらが見えるのか」
頷くチナ。
「そりゃいいや。侑真の嫁さんにぴったりだ」
「ちょっと、もふもふ様。それは」
「なんだ、チナのこと嫌いなのか」
「いや、嫌いじゃないけどさ。今、そんなこと言わなくたって」
チナは笑っていた。
「私、侑真くんとだったらいいかなって思うよ」
えっ、今のって……。まさか、そんなことって。僕は顔が熱くなった。
「よかったな。まあ、まだ先は長い。それまで同じ思いでいたらいいけどな」
「なんだよ、もふもふ様。そんなこと言うなよ」
「じゃ、お邪魔だろうからおいらはエマのところに行くぞ」
ニヤニヤ顔でもふもふ様はフッと消え去った。
「やっぱり、侑真くんも見えているんだね」
「まあね。けど、僕はこれのおかげだけど」
僕はポケットから水晶玉を取り出してチナに見せた。
「ふーん、そうか。それにしてもこれ綺麗ね」
チナとそんな会話をしていたら突然、二階から「あああ、アッチッチのチュッチュクチュ―だ」との大声が飛んできた。
エマの奴、まったく。本当に暑くてしかたながい。
「お兄ちゃん、また真っ赤だな、真っ赤だな~になっちった」
チナは口を押えて笑っている。エマに黙れと叫んでやりたいところだけど、チナがいるからやめておくことにした。
それにしてもなんて可愛らしい笑顔なんだろう。エマが向日葵ならチナはカスミソウってところだろうか。
「あのさ、ここ暑いからさ。中に入ろうか」
「うん」
家に入ると母が出て来て「いらっしゃい」とニコリとした。
「おじゃまします」
「もう身体のほうは大丈夫なの」
「はい。ただまだ足がちょっと痛むけど大丈夫です」
「そう、早く治るといいわね」
「母さん、なにか飲み物お願い」
「そうね、暑いものね」
僕はチナに肩を貸してゆっくりと二階へと上がっていった。階段の上でエマがニヤニヤして覗き込んでいた。ゴマももふもふ様も覗いていた。
「うわっ」
チナが突然大きな声をあげて僕はびっくりしてしまった。原因はすぐにわかった。天井の近くのありえない位置からさっきの女の子が覗いていたからだ。座敷童子もチナには見えているようだ。
「チナちゃん、大丈夫だよ。あれは座敷童子だよ」
そう教えるとパッと瞳が輝いた。階段下から心配そうに母が声をかけてきたが、大丈夫だよと言うとすぐにキッチンのほうへと戻っていった。
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