27 / 39
第三章 仲間は多いほうがいい
5 日曜日の朝から大騒ぎ
しおりを挟む突然にエマの泣き声が部屋に響き渡る。
目を覚ますとゴマと子猫たちが慌てて逃げていく姿が目に映る。
「エマ、どうしたんだよ」
「みっちゃんが、みっちゃんが死んじゃった」
えっ、みっちゃんってエマの友達のことだろう。死んじゃったのか。もしかして寝ている間にみっちゃんの幽霊が天国へ旅立っていったのか。
もふもふ様を見遣るとかぶりを振っていた。
「誰も見送ってないぞ。みっちゃんとやらは来ていない」
どういうことだ。
「エマ、落ち着こうか」
「みっちゃん、イヤだよ、行っちゃイヤだよ」
エマは泣き叫ぶばかり。どうしていいのやら。
「なに、どうしたの。エマ」
「ママ、みっちゃんが行っちゃったの」
母は僕に目を向けなにがどうなっているのか訊いてきた。僕が泣かしたわけじゃなくて、ただみっちゃんが死んじゃったって叫んでいて泣き止まなくてと話した。悪い夢でも見たのだろうか。
「もしかして夢の話?」
「わかんない。そうだとしてもエマの夢って正夢になることがあるからさ」
「ちょっと朝早いけどみっちゃんの家に電話してみるわね」
母はそう話して部屋を出ていった。
「エマ、みっちゃんが本当に死んじゃったのか」
「そうだよ、行っちゃったんだよ。イヤだ、イヤだ、イヤだ」
もふもふ様はかぶりを振っている。猫たちは部屋を出て扉の陰から顔を出して様子を窺っていた。
「エマ、みっちゃんとやらは死んでなどいないぞ。おいらにはわかる。泣くんじゃない。ほら、尻尾ふりふりゆらゆらり。踊って楽しもうじゃないか」
「死んじゃったもん。見たもん」
「それは夢だろう」
「違うもん、もふもふ様なんてあっちいけ」
どうやらなにを言ってもダメみたいだ。頑なになっている。そこへ母が戻って来てエマの前にしゃがみ込む。
「エマ、よく聞いて。みっちゃんは元気だったわよ。今、電話で話したんだから間違いないわ」
「えっ、話したの」
「そうよ、それでも信用しないなら会いにいけばいいんじゃない」
ヒックヒックと言わせて母をみつめるエマ。
「エマ、行く」
みっちゃんの家は道を挟んで三軒先にある。
「じゃ、僕も一緒に行くよ」
僕はエマと手を繋いでみっちゃんの家に足を向けた。エマは目を赤くしていた。まだ少しだけ瞳も潤んでいる。
「みっちゃん、死んでいないの」
「母さんが話したんだから死んでいないさ。大丈夫だ。きっとエマは悪い夢を見ただけさ」
「そうなのかな」
「そうだよ」
みっちゃんは家から飛び出して来た。
「エマちゃん、ミチコ元気だよ。ほら、ぴぴんのぴんだよ」
「本当だ。みっちゃんがいる。ぴぴんのぴんだ」
エマの顔が明るくなってホッとした。ただ『ぴぴんのぴん』ってどういう意味だろう。エマとみっちゃんしかわからない言葉だ。まあなんとなく予想はつくけど。おそらくピンピンしているってことだろう。つまり死んでなんかいないってことだ。エマの単なる夢で予知夢でもなんでもないってことだ。きっと。
僕はみっちゃんの母親に朝からすみませんと謝り自分の家に戻った。
もうエマはニコニコしている。さっきの泣き叫ぶエマはどこへいったのやら。
「エマ、みっちゃん元気でよかったな」
「うん、よかった」
エマは家の前でスキップしていたら転んでしまった。僕は慌ててエマに駆け寄り「大丈夫か」と声をかえた。泣いちゃうかもと思っていたら、僕のほうに顔を向けてニコリとして「ころんじった」と頭を掻いた。
「気をつけなきゃな」
「うん」
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる