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第二章 幽霊たちのおもてなし
5 三匹の子猫の運命は如何に
しおりを挟む神社の裏か。
結構草が生えて探すのは大変だ。それに思ったよりも広い。どうしよう。早くみつけてあげなきゃいけないのに。僕はポケットから水晶玉を取り出して願った。
『子猫たちの居場所を教えて』と。
じっと水晶玉をみつめていたけど、なにも変化はなかった。ダメか。狐神様が一緒にきてくれたらいいのに。そう思ったけど、狐神様の言葉が思い出された。
『引き止めておく』
そうか、あのままじゃあの世に行っちゃうのか。
ここは僕が頑張るしかない。
「グゥギャギャッ」
えっ、ゴマか。
腰くらいまである草がガサガサと揺れている。その揺れがどんどん前へと進んで行く。
「ゴマ、そっちにいるのか」
「グゥギャ」
僕は揺れる草を頼りに草を掻き分けて前へと進む。稲荷神社の裏側を越えてどんどん進む。きっと、ゴマが居場所を教えてくれる。
あっ、草の揺れが止まった。同時にゴマが鳴く。
そこか。そこにいるのか。
草むらの奥に桜の木があった。その向こう側に三匹の子猫が倒れていた。
いた。すぐに子猫に触れてみた。まだ温かい。心臓が動いていないような気がする。いや、そんなことはない。大丈夫だ。よくわからないだけだ。
「ゴマ、行くぞ」
僕は三匹の子猫を抱きかかえて家に急ぐ。
稲荷神社の裏側を通り過ぎるとき、白狐が何も言わずにじっとこっちをみつめていた。すごい威圧感があった。わが家の狐神様とは何もかもが違う。これぞ神様って感じだ。僕は会釈だけして走り抜けていく。その瞬間、背中を風が押した。
あれ、なんだろう。いつもよりも足が早くなっているような。身体が軽い。すごい、すごい。あっという間に家に着いた。
「母さん、エマ、子猫みつけた。早く動物病院に行こう。死んじゃうよ、この子たち」
二階から駆け降りてくるエマ。狐神様はいつも通りエマの頭の上だ。母は車のキーを手にしてすぐに飛び出して来た。
「侑真、エマ、行くわよ」
動物病院には十分もかからずに到着した。
その間、エマは子猫たちに声をかけていた。きっと大丈夫だ。子猫の魂も一緒について来ている。完全に幽霊となっていない。消えてしまいそうな命の糸だがまだ魂と身体を繋いでいる。
「先生、先生」
僕は動物病院に入るなりすぐに呼びかけた。
順番待ちをしている人たちがいたけど、緊急事態だ。先に診てもらわなくてはいけない。
看護師が出て来て僕が抱えていた子猫たちを見てくれた。看護師も緊急性を確認したのかすぐに診察室へと通してくれた。
子猫たちに心肺蘇生術を施しはじめた。一匹は先生が、もう一匹は看護師が、残りの一匹は母がすることになった。猫の場合は口を押えて鼻に息を吹き込むのか。ただ心臓マッサージだけは母はすることができず先生と交代していた。
ふと狐神様へ目を向けると子猫の魂たちが狐神様の尻尾にじゃれついていた。
僕も何かしてあげたい。そう思いエマに声をかけた。
「エマ、子猫の魂たちに何か食べさせてあげよう。きっと生き返る助けになるはずだ」
エマは頷き「もふもふ様、ミルクをだして」とお願いしていた。
先生たちは心肺蘇生術をしていてこっちのことはまったく見ていない。大丈夫だ。
「ほらほら、美味しいミルクだよ。ほれほれ、ほいほい。ゴクゴク飲みな」
狐神様が華麗なステップを踏んでいる。子猫の魂たちがその様子に釘付けになっていた。狐神様のステップは意味があるのか疑問だ。
ダメか。飲まないのか。
「みんな、飲んで。おいしいよ。うまうまだよ。ごくごく、ごっくんして」
子猫の魂たちがミルクの入った器に近づき匂いを嗅ぎはじめた。
あっ、飲むか。じっと様子を見守っていると一匹がペロリと舌を出してミルクを飲みはじめた。やった。一匹が飲むのを見た二匹が同時に飲みはじめた。
よし、飲んだ。
蘇生術を施している先生のほうへ目を向けると、ピクピクと子猫の足が少し動いた。弱々しいが鳴き声もあげた。
気づくと子猫の魂の姿は消えていた。残っているのは綺麗になった空っぽの皿だけ。
子猫たちは生き返ることができた。けどしばらくは入院するらしい。
エマがなかなか帰ろうとしなくてちょっと困ったが気持ちはよくわかる。
「大丈夫かな。子猫大丈夫かな。やっぱりここにいる。そばにいる。エマ、子猫といる」
エマはそればかり繰り返していたが母に諭されて家に帰ることになった。
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