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第三章
復讐心を燃やせ
しおりを挟む「道成、思い出すのです。わたくしの目を見るのです」
「うるさい、ぼくは道成じゃない。日蔭の神だ。ちっぽけな狐神の言葉など聞くものか」
早苗は真っ黒な蛇を背負う道成の目が一瞬揺らいだのを見逃さなかった。あの子は完全に穢れ神となってはいない。まだ人のときの心を残している。
早苗は胸に手を当てて道成の母の魂に語りかけた。
自分の魂なのに別人の魂のような不思議な感覚が胸の奥にある。
泣いている。もうひとりの自分が泣いている。前世の道成の母が泣いている。
「あなたは道成です。神になったとしても道成なのです。穢れ神になってはいけません。わかっているはずです。あのときの村人たちの気持ちをわかっているはずです。思い出すのです。真の神となるのです」
「う、うるさい、うるさい、うるさい」
『騙されるな。狐神の言葉はすべて嘘だ。おまえは村人たちに殺されたんだ。穢れた子だと疎まれて殺されたのだ。恨め、憎め、復讐心を燃やせ』
道成が背負う真っ黒な蛇がとぐろを巻いて目を赤く光らせている。
「いけません。その穢れ神の言葉を聞いてはいけません。あなたも同類になってもいいのですか。わたくしの目を見るのです」
『見るな。殺せ、狐神を殺せ。おまえの仇となる者を殺せ』
道成が頭を抱えて蹲る。
あの子も戦っている。
『殺せ、殺せ、皆殺しだ。血祭りだ。あの者たちを赦すな』
道成は獣のような咆哮をして立ち上がり狐神に向かってサバイバルナイフを振り上げた。
「道成、いけません」
早苗は思わずそう叫んでいた。自分じゃない。叫んだのは道成の母だ。
道成は一瞬動きを止めたがすぐに狐神の頭上にサバイバルナイフを振り下ろした。
真っ赤な鮮血があたりに飛び散った。
早苗は目を逸らして下を見る。
「は、駿。な、なんで」
えっ、駿。
足元に飛び散ってきた鮮血だと思っていたものをよく見ると血ではなく黒い塊だった。これは何。早苗は顔を上げて何が起きたのか前を見た。
サバイバルナイフで斬られたのは駿だった。
何がどうなっているの。
斬られたところから黒い塊が零れ落ちている。そうかと思ったら駿は消えてしまった。
「駿、駿、どこ。嫌だ、逝っちゃ嫌だ」
早苗は駿がいた場所へとふらふらと歩みを進めた。
「来てはいけません。早苗、止まりなさい」
狐神の言葉を無視して歩み続けた。
「そうだ、こっちへ来い。おまえも死ぬのだ」
道成の目が鈍く光り不敵な笑みを浮かべた。
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