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第二章
真夜中の火事
しおりを挟む消防車と救急車のサイレンが鳴り響く。
うるさくて眠れやしない。駿は眠たい目を擦りベッドから抜け出しカーテンを開け放つ。
鮮やかなオレンジ色が目に飛び込んできて圧倒される。
闇夜を照らす巨大松明だ。違う、違う。火事だ。
天をも焦がそうと高く燃え盛る炎。バチバチと音を立てて目の前の家が焼けていく。まわりでは炎に向けて放水をする消防士たち。真夜中だというのに野次馬もちらほら見える。
うわっ。炎に包まれた家が崩れ始めた。あのときと同じだ。駿は炎をじっとみつめて立ち尽くしていた。
「俺のせいだ。俺の……。父さん、母さん、ごめん」
駿は足に力が入らずその場に蹲る。やめてくれ、嫌だ。こんなもの見せないでくれ。
「ごめん、ごめん、ごめん。俺もあのとき死ねばよかったんだ」
誰もいない部屋でひとり謝り続けた。
どれくらいそうしていただろうか。わからないがそれほど時間は経っていないのかもしれない。涙しながら大声で謝罪したせいなのか単に時間経過のせいなのかわからないが少し落ち着いてきた。
そのとき泣き叫ぶ声が鼓膜を震わせた。駿はハッとして窓の外へ目を向けた。
あっ、あんなところに泣き叫ぶ男の子が。
あの子、危ない。火に近過ぎる。
『誰か』
窓を開けてそう叫ぼうとしたところにひとりの消防士が駆けつけて安全な場所に避難させていた。よかった。あれ、同じようなこと経験しなかっただろうか。これってデジャブ現象だろうか。
なんだかモヤモヤする。
ああ、ダメだ。やっぱり火事を目の当たりにすると父と母のことを思い出してしまう。火は怖い。あのときの火事はやっぱり自分が原因だったのではないだろうか。正直、よく覚えていない。
離れているはずなのにここにいても熱を感じる。熱い。
燃えて黒く焦げていく家がなぜかおもちゃの家に思えてきた。建てるのは大変なのにあんなにも簡単に崩れてしまうなんて。
まだ火の手は上がったまま。なかなか鎮火しない。
それにしてもどうして火事なんかに。火元はなんだ。今は午前二時十五分。皆、寝ているだろう。そんなことないのだろうか。もしかして放火か。
あれ、あそこで燃えているのは稲荷神社か。
あっ、き、狐だ。
真っ赤な瞳をしてこっちをじっとみつめてくる。目力の強さに駿は心臓が止まるかと思った。
どうして、なんで睨む。何か悪いことをしただろうか。社が燃えてしまったから怒っているのだろうか。そうだとしてもそれは自分のせいじゃない。
駿は狐から目を逸らして気持ちを落ち着かせようとした。
いったい、なんだっていうのだろう。
狐。稲荷神社。何か思い出しかけたのだがすぐに闇へと消えてしまった。何か忘れていることがあるような。駿は首を傾げて再びさっき狐がいたあたりへ目を向けた。
狐の姿はもうなかった。目の錯覚だったのだろうか。稲荷神社の社も見えない。そんなことってあるのだろうか。小さい社だったから燃え崩れて跡形もなく消えてしまったのだろうか。
「パパーーー、ママーーー」
突然の叫び声に駿はそっちへ顔を向けた。
男の子が叫んでいた。
まさかあの子の両親が家の中に取り残されているのか。そうだとしたら……。考えるまでもない。もう生きていないだろう。
ギュッと胸が締め付けられた。両親の死。他人事ではない。自分と同じような境遇になってほしくはない。けど……。
駿は暴れる炎をみつめてすぐに目を伏せた。
『可哀想に』
「えっ、可哀想って今言ったの。それってぼくのこと」
な、なに。誰だ。窓の外の男の子に視線を移しドキッとする。声が聞こえたのか。そんな馬鹿な。ありえない。聞こえるはずがない。心の中で思っただけで声に出していない。
男の子がこっちをじっとみつめている。
えっ、なぜ、どうして。
背筋が凍りつき一気に身体が強張っていく。
なんで、なんで、なんで。ああ、胸が痛い。苦しい。なんで……。それでも男の子から目が離せない。見ちゃダメだ。逃げろ。でも、どこに。
とにかく早くあの子から目を逸らせ。そうじゃないときっととんでもないことが起きる。そう直感した。ダメだ、やっぱりダメだ。目を離すことができない。
男の子は泣いているどころか不敵な笑みを浮かべている。なんだ、何を持っている。あれは四葉のクローバーか。なぜそんなものを見せつけてくる。
来るな、こっちに来るな。離れているはずなのに男の子の顔がすぐ近くにあるように思えてきた。男の子の顔がはっきりとしてくる。
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