日蔭の神域 ~クローバーに込められた念い~

景綱

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第二章

災厄が降りかかる

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 ありえないことが唐突にやってきた。
 突然の解雇だ。いや、嫌な予感はしていた。それが解雇だったとは……。身に覚えのない仕事のミスを押し付けられて即解雇。そんな理不尽なことがあるのか。
 思い出しただけで腹が立つ。パワハラ上司なんてくそくらえ。
 酔わずにいられない。飲みまくってすべてを忘れろ。なんならこのまま突然死しても構わない。

「くそったれぇ。俺がいったい何をした」

 叫んだところで気が晴れることはない。どんなに飲んでも酔えなかった。『閉店です』の声で店を追い出されるように家路につく。もう明日なんか来なくてもいい。

「俺はこの世に未練はない。誰か俺をどこかへ連れて行け」

 誰もいない路地裏で狂ったように叫んだ。だが鬱憤うっぷんが晴れることはなかった。
 なんでこんなことになってしまったのだろう。ミスなんてしていない。いや、気づかないだけでとんでもないミスを犯していたのだろうか。そんなはずはない。人一倍頑張っていたつもりだ。それなのに無職になってしまうなんて。最悪だ。なんだか泣きたくなってきた。
 ついていない。運のない奴っていうのがいる。それが自分だ。ダメな男だ。情けない男だ。どうしようもない救いようのない男だ。

『蔭地駿、おまえは本当にダメ男なのか。不運で情けなくて役立たずな男なのか。違うだろう。このままでいいのか。本当に未練がないのか。どうなんだ、ド阿呆』

 自分で自分を罵った。
 近所迷惑だろうが関係ないとばかりに「うおぉーーー」と叫ぶ。

「ふん、やっぱりその魂、捨てちゃいなよ」
「んっ、誰だ。『たま』ってなんだ」

 どこかでそんな言葉を耳にしたような。
 んっ⁉ 『たま』ってまさか……。すぐにかぶりを振った。空耳だ、何も聞こえない。あれは悪い夢だ。現実のことじゃない。
 駿はあたりに目を向けて誰もいないことにホッと胸を撫で下ろす。どうやら飲み過ぎたようだ。
 大きく息を吐き、俯いた。何を安堵している。解雇だぞ。解雇だなんて、ありえない。受け入れるのか。明日から無職だぞ。それでいいのか。それなら訴えるか。いいや、訴えたところで勝ち目はない。向こうには有能な顧問弁護士だっている。たった一人で立ち向かえるわけがない。それなら、どうすりゃいい。すべて忘れて再就職先をみつけろとでも言うのか。

 ああ、この先どうやって暮らしていけばいいのだろう。
 溜め息を漏らして項垂れる。ダメだ、ダメだ。さっさと嫌なことは忘れて仕事を探そう。前向きに。それが一番だ。そうだな、それしかないか。けど、けど、けど、腹が立つ。誰だ、自分を陥れた奴は。
 ふと上司の顔が浮かぶ。絶対にあいつだ。
 駿は文句を呟きつつダラダラと歩き家路についた。

「だから、『その魂、捨てちゃいなよ』」

 またその言葉か。

「そんな醜い魂を抱いているからそうなるんだ。聞く耳を持たないからいけなんだ。このままだと未来はないよ。いや、どう足掻いても未来はないか。ぼくが君の未来を断つからね」

 すぐさま声の方へと振り返る。不敵な笑みを湛えた男の子がいた。だがすぐに男の子の姿は景色に溶け込むように消えてしまった。
 身体が一気に冷え込んでいく。
 あの男の子は……交差点の……。違う、違う。あれは夢だ。現実じゃない。そうだろう。もしもそうじゃないとしたら自分はどうなるのだろう。

『不幸の乱れ打ち』との言葉がふと浮かぶ。

 まさかこの最悪な事態を招いたのは……。
 駿は男の子が消えた暗闇をじっとみつめていた。

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