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第五話 思い出を抱いて
【二】気のせいなのか
しおりを挟む「ハル、来たぞ」
「はい、はい。ちょっと待ってくださいよ」
柔らかな声とともに玄関扉が開き、ニコニコ顔のハルが現れた。
火乃花も「来た、来た」と飛んできたかと思ったら、グレンに抱きつき顎の下を撫で始めた。
なんだ、グレンに会いたかったのか。まあいいか。それよりも気になるのはメシだ。
「ハル、今日の昼飯はなんだ」
「おや、もう昼ごはんの心配かい。樹実渡は本当に食いしん坊だねぇ」
樹実渡は頭を掻いて苦笑いを浮かべた。
「まったく食べることしか頭にないんだから」
「うるさい、火乃花に言われたくないな」
「なによ、私も食いしん坊だって言いたいんでしょ。失礼しちゃう」
失礼なもんか。一緒に、よく食べているじゃないか。
「まあまあ、言い合いはそのへんにして中にあがりなさい。ちなみにお昼は、そうめんにしますからね。で、夜は焼肉でもしましょうかねぇ」
「おお、いいな」
「樹実渡、涎が出ているわよ。汚い」
なんだよ。汚いってことはないだろう。
「ニャニャ」
「そうだよな。汚くないよな」
樹実渡はグレンの頭を撫でて背中に飛び乗るとハルの家の中へと向かった。
「あっ、そっちは襖だ。突っ込むなよ」
「ニャ、ニャニャー」
「なに、そんな馬鹿じゃないって。そんなことは、わかっている。うわわっ」
なんで止まるんだ。
まったくグレンの奴。振り飛ばすなんて。
待てよ。まさかどこかに神様の眷属がいるのか。樹実渡はすぐに頭を振って考えを否定した。ここは神社じゃない。
それなら、なんで。
樹実渡は振り返り、グレンの顔をまじまじとみつめた。
なんだろう。何か嫌な予感がする。
窓の外で揺れる木の葉に目を向けて首を捻った。
気のせいだろうか。
「どうしたの、樹実渡」
「いや、なんか変なんだ」
「変って。頭でも打っておかしくなった」
「違うよ、火乃花」
「じゃ、もうお腹空いたとか」
「違うって」
「じゃ何よ」
「わからない」
「あっ、そう」
気のせいなのか。
「ニャ」
「グレン、やめろよ。どうしたってんだよ」
襟首を銜えられて玄関に連れて行かれてしまった。そうかと思ったら、火乃花も玄関に連れて来た。
「グレン、どうしたんだい。着物の裾を引っ張らないでおくれ」
どこかへ出掛けようっていうのか。
首を傾げて樹実渡は、グレンの元へ駆け寄った。
「落ち着け。昼にはそうめんが待っている。だから落ち着け」
樹実渡はそう言いつつも、何か違和感があった。それが何なのかはさっぱりわからない。なんだろう。耳がキーンって鳴る。
「なあ、火乃花。何か感じないか」
「えっ、何かってなに」
「何かは何かだ」
「樹実渡、変よ。グレンも変だけど。わたしは何も感じない」
「そっか、ならいいか。そうめんと焼き肉、早く食いてぇ」
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