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第4章 意趣返し
3 意趣返し
しおりを挟む「苦しいか。怖いか」
死にたくない。誰か、助けて……。
『孝くん、ごめんなさい。許して』
「おまえは死ね」
「死ね」
「死ね」
「死ね」
「死んでしまえ」
息苦しくて霞む目にふらりふらりと近づく影が五つ。
病室に五人の子供たちが合唱するみたいに『死ね』と口にしながら入って来た。行方不明になったいじめっ子たちだ。
片目がないことに気づくと、恐怖と苦しさに徹はパニックを起こしそうになる。
『ごめんなさい、ごめんなさい。許して。僕が悪かった。僕、死にたくないよ。孝くん、ごめんなさい。みんな、ごめんなさい』
『怨霊ども近づくな』
蛇のような小さな龍が淡い光を纏い五人の子供たちの足を止めてくれた。だが、孝の手の力が緩むことはなかった。
「あはははは。僕は止められないよ。ちっぽけな龍には止められないよ」
意識が朦朧としてきた。
もう、ダメだ。
徹は涙目になりながら孝の顔をみつめた。なぜだかわからないけど別人に見えた。人でさえないように思えた。
徹の思考はもう停止しようとしていた。諦めるしかない。もう死ぬしかない。抵抗していた手はだらりとして力が抜けていく。
『龍さん、もういいよ。僕は罰を受けなきゃいけないみたい。死にたくないけど、僕は孝くんたちに悪いことをしちゃったんだからこうなる運命だったんだ、きっと。龍さん、ありがとうね。守ってくれていたんでしょ。気づかなくてごめんね』
徹はゆっくりと瞼を閉じた。
誰かの声がした気がしたが徹には何を言っているのかわからなかった。ただ何かが寄り添う感覚だけが胸元にあった。じんわりとするあたたかな水のようなものもポタリと感じた。気のせいかもしれないけど。
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