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第4章 意趣返し
2 万事解決が一転
しおりを挟む「万事解決だのぉ。ふぉふぉふぉ」
「うむ、そうだな。蛭子」
九尾の狐の心が浄化されたようだ。ただ家はかなり燃えてしまっている。もうここには住めないだろう。徹たちの前に住んでいた人が意識を取り戻したとしてもここへは帰ってくることができない。どうするのだろうか。徹たちのことも心配だ。
鬼猫は大丈夫だと話すが、大和は気になってしかたがなかった。なぜだろう。妙に気にかかる。解決したのだろう。けど、胸の奥がどうにも疼く。
今回の騒動は九尾の狐が元凶だった。徹の病んだ心も元凶と言えるのかもしれない。
九尾の狐も徹も怨む心がなくなった今、悪いことが起こるはずがない。大丈夫だ。そのはずだ。なのに、どうにも落ち着かない。
「コクリよ、落ち着いたら我らのいる鬼猫鎮神社の鎮石に強力な結界を張る手伝いをしてもらえないだろうか」
「もちろん、なんでもやりますよ。償いはしなくてはいけませんからね」
「そうだ、よければ鬼猫鎮神社の隣に稲荷神社を建ててはどうだろう。あの地だったらあの家族たちも住む場所があるだろうし。なあ、愛莉」
「まあ、空き家は確かにあるけど、住めるかな」
「リノベーションとかなんとか言うやつがあるのだろう」
「そうだけど、お金の問題がね」
「そんなの大丈夫だろう。なあ、大黒、蛭子」
大黒様と恵比須様が頷いていた。本当に大丈夫なのだろうか。そんな急に金が舞い込んでくるなんてことはできないと思うけど。神様だったら不可能じゃないのか。いやいや、神様が一個人にそんな力を使っていいのか。それとも何か別な理由があるのだろうか。考えても答えは出てこないか。
ふと大和は徹のことが頭に浮かんだ。
「鬼猫、徹たちもなんとかならないのかな」
「そうだな。あの子には龍の守りがあったな。ついでだから龍神社も立ててしまおうか。そうすればあの龍も力が増すかもしれない。それには参拝者がたくさん来る必要があるが、なんとなかなるだろう」
いいかもしれない。
今だとSNSでご利益があると宣伝すればきっと参拝者は増えるはず。猫と狐と龍がいる神社ってだけで魅力的かもしれない。宣伝っていうのはちょっと言葉が悪いかもしれないけど。
「そろそろ、我らは帰るとしようか。大和、その剣は大黒に返さなくてはいけない。返したところで素戔嗚尊の力は失わない。ただ変な霊や妖怪に付き纏われる恐れがあるから気を付けるんだぞ。それは愛莉も同じだ」
大和は頷き「心配ないさ。なんとかなるよ。けど、なにかあったら呼ぶから来てくれよ」と話した。
「危険が及べば飛んできてやる。おまえは仲間だからな」
「ありがとう」
「あの愛莉はどうしたらいい」
「んっ、どうしたらというのは」
「鬼猫さん、愛莉は大和の、その、あの奥さんなんでしょ」
顔を赤らめてチラッとこっちに目を向けてくる。大和の心臓がドクンと跳ね上がる。何を言っている。
「それは前世の話で。今はそうじゃないだろう」
大和は慌ててそう告げる。
「えっ、じゃ大和は愛莉のこと嫌いなの。そうなんだ。そうよね、これといって取りえもないし。霊感が強くたって役に立たないし、片付けもできないし。子供だって思っているんでしょ」
「いや、そのそういうわけじゃなくてさ」
「じゃ、大人になったらプロポーズしてよね」
大和は照れながら頭を掻いた。なぜ、こうなってしまったのだろう。愛莉は可愛いけど、前世で夫婦だったからって。まあいいか。きっと愛莉も大人になったら別の男性のことを好きになっているかもしれない。なかったことになっている可能性だってある。けど、愛莉が大人になるまで待ってみるのも悪くない。
「大和、仲人は任せておけ。ふぉふぉふぉ」
「恵比寿様、それはその」
「じゃ、我がやってやるぞ」
「大黒様まで」
みんなの笑い声があたりにこだました。
「それじゃ、わらわはちょっと病院まで行ってくるとしようかな」
コクリはお辞儀をすると飛び跳ねるようにして駆けて行った。幽体離脱した家族のもとへ行くのだろう。これで意識が回復することは間違いない。たぶん。
んっ、あれ何か臭う。あれ、臭いが消えた。
おかしい。一瞬、焦げ臭く感じたのは気のせいだったろうか。
小首を傾げていると、今行ったばかりのコクリが戻って来た。
「大変だ。と、徹が危ない。みんな早く来てくれ」
徹が危ないってどういうことだ。
大和は鬼猫と目を合せて頷き駆け出した。
「大和、愛莉。我らは先に行くぞ」
鬼猫たちは闇に溶け込むようにして姿を消した。
大和と愛莉は駅へと向かった。
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