41 / 48
第4章 意趣返し
2 万事解決が一転
しおりを挟む「万事解決だのぉ。ふぉふぉふぉ」
「うむ、そうだな。蛭子」
九尾の狐の心が浄化されたようだ。ただ家はかなり燃えてしまっている。もうここには住めないだろう。徹たちの前に住んでいた人が意識を取り戻したとしてもここへは帰ってくることができない。どうするのだろうか。徹たちのことも心配だ。
鬼猫は大丈夫だと話すが、大和は気になってしかたがなかった。なぜだろう。妙に気にかかる。解決したのだろう。けど、胸の奥がどうにも疼く。
今回の騒動は九尾の狐が元凶だった。徹の病んだ心も元凶と言えるのかもしれない。
九尾の狐も徹も怨む心がなくなった今、悪いことが起こるはずがない。大丈夫だ。そのはずだ。なのに、どうにも落ち着かない。
「コクリよ、落ち着いたら我らのいる鬼猫鎮神社の鎮石に強力な結界を張る手伝いをしてもらえないだろうか」
「もちろん、なんでもやりますよ。償いはしなくてはいけませんからね」
「そうだ、よければ鬼猫鎮神社の隣に稲荷神社を建ててはどうだろう。あの地だったらあの家族たちも住む場所があるだろうし。なあ、愛莉」
「まあ、空き家は確かにあるけど、住めるかな」
「リノベーションとかなんとか言うやつがあるのだろう」
「そうだけど、お金の問題がね」
「そんなの大丈夫だろう。なあ、大黒、蛭子」
大黒様と恵比須様が頷いていた。本当に大丈夫なのだろうか。そんな急に金が舞い込んでくるなんてことはできないと思うけど。神様だったら不可能じゃないのか。いやいや、神様が一個人にそんな力を使っていいのか。それとも何か別な理由があるのだろうか。考えても答えは出てこないか。
ふと大和は徹のことが頭に浮かんだ。
「鬼猫、徹たちもなんとかならないのかな」
「そうだな。あの子には龍の守りがあったな。ついでだから龍神社も立ててしまおうか。そうすればあの龍も力が増すかもしれない。それには参拝者がたくさん来る必要があるが、なんとなかなるだろう」
いいかもしれない。
今だとSNSでご利益があると宣伝すればきっと参拝者は増えるはず。猫と狐と龍がいる神社ってだけで魅力的かもしれない。宣伝っていうのはちょっと言葉が悪いかもしれないけど。
「そろそろ、我らは帰るとしようか。大和、その剣は大黒に返さなくてはいけない。返したところで素戔嗚尊の力は失わない。ただ変な霊や妖怪に付き纏われる恐れがあるから気を付けるんだぞ。それは愛莉も同じだ」
大和は頷き「心配ないさ。なんとかなるよ。けど、なにかあったら呼ぶから来てくれよ」と話した。
「危険が及べば飛んできてやる。おまえは仲間だからな」
「ありがとう」
「あの愛莉はどうしたらいい」
「んっ、どうしたらというのは」
「鬼猫さん、愛莉は大和の、その、あの奥さんなんでしょ」
顔を赤らめてチラッとこっちに目を向けてくる。大和の心臓がドクンと跳ね上がる。何を言っている。
「それは前世の話で。今はそうじゃないだろう」
大和は慌ててそう告げる。
「えっ、じゃ大和は愛莉のこと嫌いなの。そうなんだ。そうよね、これといって取りえもないし。霊感が強くたって役に立たないし、片付けもできないし。子供だって思っているんでしょ」
「いや、そのそういうわけじゃなくてさ」
「じゃ、大人になったらプロポーズしてよね」
大和は照れながら頭を掻いた。なぜ、こうなってしまったのだろう。愛莉は可愛いけど、前世で夫婦だったからって。まあいいか。きっと愛莉も大人になったら別の男性のことを好きになっているかもしれない。なかったことになっている可能性だってある。けど、愛莉が大人になるまで待ってみるのも悪くない。
「大和、仲人は任せておけ。ふぉふぉふぉ」
「恵比寿様、それはその」
「じゃ、我がやってやるぞ」
「大黒様まで」
みんなの笑い声があたりにこだました。
「それじゃ、わらわはちょっと病院まで行ってくるとしようかな」
コクリはお辞儀をすると飛び跳ねるようにして駆けて行った。幽体離脱した家族のもとへ行くのだろう。これで意識が回復することは間違いない。たぶん。
んっ、あれ何か臭う。あれ、臭いが消えた。
おかしい。一瞬、焦げ臭く感じたのは気のせいだったろうか。
小首を傾げていると、今行ったばかりのコクリが戻って来た。
「大変だ。と、徹が危ない。みんな早く来てくれ」
徹が危ないってどういうことだ。
大和は鬼猫と目を合せて頷き駆け出した。
「大和、愛莉。我らは先に行くぞ」
鬼猫たちは闇に溶け込むようにして姿を消した。
大和と愛莉は駅へと向かった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
アポリアの林
千年砂漠
ホラー
中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。
しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。
晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。
羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。
リューズ
宮田歩
ホラー
アンティークの機械式の手に入れた平田。ふとした事でリューズをいじってみると、時間が飛んだ。しかも飛ばした記憶ははっきりとしている。平田は「嫌な時間を飛ばす」と言う夢の様な生活を手に入れた…。
焔鬼
はじめアキラ
ホラー
「昨日の夜、行方不明になった子もそうだったのかなあ。どっかの防空壕とか、そういう場所に入って出られなくなった、とかだったら笑えないよね」
焔ヶ町。そこは、焔鬼様、という鬼の神様が守るとされる小さな町だった。
ある夏、その町で一人の女子中学生・古鷹未散が失踪する。夜中にこっそり家の窓から抜け出していなくなったというのだ。
家出か何かだろう、と同じ中学校に通っていた衣笠梨華は、友人の五十鈴マイとともにタカをくくっていた。たとえ、その失踪の状況に不自然な点が数多くあったとしても。
しかし、その古鷹未散は、黒焦げの死体となって発見されることになる。
幼い頃から焔ヶ町に住んでいるマイは、「焔鬼様の仕業では」と怯え始めた。友人を安心させるために、梨華は独自に調査を開始するが。
『忌み地・元霧原村の怪』
潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。
渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。
《主人公は和也(語り部)となります》
奇怪未解世界
五月 病
ホラー
突如大勢の人間が消えるという事件が起きた。
学内にいた人間の中で唯一生存した女子高生そよぎは自身に降りかかる怪異を退け、消えた友人たちを取り戻すために「怪人アンサー」に助けを求める。
奇妙な契約関係になった怪人アンサーとそよぎは学校の人間が消えた理由を見つけ出すため夕刻から深夜にかけて調査を進めていく。
その過程で様々な怪異に遭遇していくことになっていくが……。
真名を告げるもの
三石成
ホラー
松前謙介は物心ついた頃から己に付きまとう異形に悩まされていた。
高校二年に進級をした数日後、謙介は不思議な雰囲気を纏う七瀬白という下級生と出会う。彼は謙介に付きまとう異形を「近づくもの」と呼び、その対処法を教える代わりに己と主従の契約を結ぶことを提案してきて……
この世ならざるものと対峙する、現代ファンタジーホラー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる