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第3章 狐の涙
1 徹と狐
しおりを挟む「忌々しい鬼猫だ。この間の小娘も気に入らない。頼光、いるか」
「はい、ここに」
「鬼猫を即刻退治してまいれ。よいな」
「御意」
源頼光は煙の如く消え去った。
徹は朦朧としながらもそんな様子を目にしていた。今更ながら徹は間違っていたことに気がついた。とんでもない願いをしていた。自分のしてきた行いに震えがきた。隣で瞼を閉じて動かないパパとママが目に映る。もしかして死んでしまったのだろうか。
徹の頬にスッと涙が零れ落ちていく。
「ふん、おまえはまだ生かしておく。そこで今は寝ていろ」
「き、狐さん……。も、もうやめて」
「黙れ、静かにしろ。すべてはおまえが望んだことだろう。今更何を言う」
「だって。僕は」
「黙っていろと言っただろう」
赤い血のような色の瞳で睨む狐に徹は口を閉ざした。どうして、こんなことになってしまったのだろう。全部、自分が悪いのだろうか。どうしてこんな隠し部屋をみつけてしまったのだろう。こんな家に引っ越して来さえしなければ。
パパ、ママ。目を開けて。
「百目鬼の奴、思ったよりも役に立たなかったな。いや、最初からあいつは信用ならぬ奴だった。こうなったら、妖怪共をもっとこっちの世界に呼び込んでやろうか。ここには近づかせてなるものか」
妖怪。本当にそんなのいるのだろうか。
もしかして、目の前の狐も妖怪だったのだろうか。稲荷神社の狐じゃなかったのだろうか。この社はならなんなのだろう。
「誰か、誰か、助けて」
「ふん、命乞いか。人とは弱いものだ。自分勝手で醜い存在だ。おまえらがわらわたちを排除したのだぞ。その報いを受けることが当然ではないか。鬼猫はそんな人を救おうとしている。許せるはずがない」
「ごめんなさい。ごめんなさい。僕が悪かったの。だから、もうやめて」
「うるさい、黙っていろ。おまえはわらわにみんな苦しめと願っていればよい」
徹は隣にいるパパの袖を掴んで「パパ、起きてよ」と力ない言葉を投げかけた。
「くそっ、どいつもこいつも許せん。すぐに裏切る人間など許せるはずがない。それなのに、守ろうとする奴がいる。なぜだ」
「パパ、ママ」
「うるさいぞ、人の子」
「ごめんなさい」
徹は涙目になりながら謝り口を閉ざした。
あれ、なんだろう水音がする。気のせいだろうか。
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