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第2章 怨霊退治
8 隠し部屋の狐
しおりを挟む徹はじっとテレビの画面をみつめていた。
まっくらな部屋の中、煌々と光るテレビ画面だけが浮き上がっているようだった。
「行方不明中の中原孝くんが無事保護されました」
生きていたのか。残念。
徹はただじっとテレビ画面をみつめてニュースキャスターの声に耳を傾けていた。どうやら孝くんは意味不明なことを話しているみたい。気が変になってしまったのかも。入院をしているらしい。
「ふーん、化け物ね」
化け物に襲われたみたいだけど、化け物ってもしかしたら……。
徹は今閉じられている隠し部屋に目を向けた。
「やっぱり、狐さんが……。違うかな」
独り言を呟き、徐に立ち上がると本棚の一番下に不自然に置かれた狐の置物を押し込んで右に回した。
ガタガタと音を立てて本棚がスライドしていく。テレビからは『目玉を取られる』と叫んでいたとの話も聞こえてきた。目玉……。どういうことだろう。
窓もない真っ暗な部屋がそこにはあった。電気もその部屋にはない。徹は蝋燭に火をつけてゆっくりと部屋の中に入っていく。
少し行くと部屋の中なのに朱色の鳥居があってそこを潜ると朱色の社が見えてくる。不思議が空間だ。徹は蝋燭の火を社の両脇にある蝋燭に移すと持っていた蝋燭の火を消した。
どうしてこんな隠し部屋を前の家の人は作ったのだろう。ふと徹はそんなことを考えたがすぐに考えるのをやめた。
背後からはまだテレビの音声が聞こえてくる。
「最近、行方不明事件が増えていますね」
そんな声が耳に届く。
その行方不明者はみんな徹をいじめた子たちだった。同じ学校の同じクラスの子供五人が行方不明になっていることもあり警察は同一犯だと捜査をしているみたいだ。たまに自分の部屋の窓から外を見遣ると警察官の姿をみかける。
犯人が捕まるはずがない。だって犯人はきっとここの狐だ。呪いだ。
「狐さん、孝くんがみつかったみたいだよ。なんだか気が変になっちゃったみたいだけど。もう孝くんは終わりだね。他のみんなも同じなのかな」
社の中から不気味な笑い声がこだました。
「狐さん、そういえばさっき女の子のこといじめたでしょ。なんでなの。あの子は邪魔者なの。まあいいや。それと、パパとママがずっと眠ったままなんだ。どうしてなの。僕は眠れないのに」
またしても不気味な笑い声が響いてきた。
なぜか心の奥がズキリとした。そのとき、『本当にこれでよかったのか』と誰かに問い掛けられた気がして胸の奥が疼いた。
よかったのだろうか。パパとママに目を向けて、俯いた。なんだか身体がすごく重い。
「僕は孝くんと同じことをしているのかも。それって……やっぱりよくないことだ」
なんでそんなことをしてしまったのだろう。
「僕、僕、僕は……。ねぇ、狐さん、もう終わりにしようよ。もう嫌だよ。なんだか疲れちゃったし」
笑い声がぴたりと止まり、突然目の前に黒い影が浮き上がってきた。
「だ、誰なの」
黒い影が人の形になっていく。鎧兜を着た武将の姿が浮き上がってきた。
「ここはどこだ」
武将が目だけを動かして様子を窺っている。
「誰なの」
「ふん、うるさい。おまえに用はない。鬼はどこだ」
「鬼なんてここにはいないよ」
「黙れ、小僧。殺されたくはないだろう」
武将は社があることに気がついたのか。跪き頭を下げた。何かぶつぶつと話している。狐と話をしているのだろうか。そう思っていたら武将の姿がまた黒い影となって煙のように立ち昇っていった。
「狐さん、なにがどうなっているの。教えてよ」
「終わりにしたいのだろう」
「うん、そうだけど」
「ならば、望み通りにしてあげよう。おまえのおかげで十分な力をつけられたことには感謝する。あまり苦しまず楽にいかせてやろうではないか」
「うっ、き、狐さん……」
徹は胸が苦しくて身悶えた。
「パパ、ママ……」
「すまない、苦しまずにというのは無理なようだ。邪魔立てする者がいるようだからな」
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