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第2章 怨霊退治
7 何者かの視線
しおりを挟む愛莉は大和のアパートの近辺を散策していた。
うっかりスマホを置いてきてしまい引き返そうかと思ったが、誰も連絡をしてくる人はいないだろうとそのまま散策を続けた。誰かを呼ぼうかと思ったが大黒様も当麻蹴速も怨霊調査に忙しそうだったから声をかけなかった。だいたいの場所は教えてもらっていたから用事があればそこへ行けばいい。
そんなことよりもどうにも気にかかる場所があり散策をしている。
『確か、このへんだ』
大和と出会う前に一瞬だけ死臭を感じた。けど、どこからかはっきりしない。本当に死臭だったらずっと臭うはずなのに。何かが変だ。勾玉が微かに震えていた。同時に微弱だが妖気のようなものを肌に感じた。妖怪なのか怨霊なのか。
どこだろう。このへんで間違いないはず。
どこかの家に隠れているのかもしれない。それだと探すことは困難だ。一軒一軒、確認することはできない。この近所で不審者がいるなんて通報されても困る。
やっぱり鬼猫と一緒のときのほうがいいだろうか。
愛莉は一つ深呼吸をして集中しはじめた。第六感が近くだと告げている。間違いないはず。
逃走犯が潜伏している恐れもある。気を引き締めて取り掛からなきゃ。
ダメだ、わからない。右の家からも左の家からも何も感じない。次の家も次の次の家も怨霊の「お」の字も感じない。気のせいだったのだろうか。
早とちりってことだろうか。
んっ、感じた。突き刺さるような鋭い視線を感じる。
どこ、どこから。
おかしい。確かに感じたのに今は何も感じない。絶対にいる。禍々しい気だった。それが一瞬で消え去るなんて余程力のある者なのだろう。みつけても太刀打ちできないかもしれない。けど、そんな凄い力の持ち主がいるだろうか。逃げ出してしまったってことも考えられる。
きっと、そうに違いない。
あっ、甘い香りが……。
そう思った瞬間、睡魔が襲い掛かりガクンと膝から崩れ落ちてしまった。誰かの視線を感じたが愛莉には探ることはできなかった。眠い、眠くて堪らない。ダメだ、眠ってはいけない。お願いだから誰か力を貸して。
『喝!』
突然の声で身体がビクンとなり頭がスッキリとして睡魔がどこかへ消え去った。
危ない、危ない。誰かが意識を奪おうとしてきた。いったい誰なのだろう。愛莉は首から下げていた勾玉を取り出してギュッと握りしめた。声は勾玉からだった。
愛莉はすぐに立ち上がりあたりに気を配った。油断していた。ここまで強い力の持ち主がいるなんて。
ここから見える範囲にいるのは間違いない。今はなんの気配もない。感じないことが恐ろしい。
ここにいてはいけない。愛莉の心がそう告げている。
一人ではダメだ。鬼猫と一緒がいいだろう。大黒様と蹴速もいたほうがいいかもしれない。大和は足手纏いだからいなくていい。あっ、けど一人にするのは危険だ。力がないのに狙われているみたいだし。
まただ。確実に見られている。
どこだろう。
うぅっ……。胸が苦しい。
詮索はしてはいけない。いますぐ帰ろう。
愛莉は踵を返して大和のアパートへと駆け出した。そのとたん、膝に痛みを感じた。チラッと見遣ると膝が血で滲んでいた。さっき膝から崩れ落ちたときに怪我をしてしまったのだろう。たいしたことはない。あとで消毒でもしておこう。今は一刻も早くここから立ち去るべきだ。
きっとさっき感じたものは警告だ。怨霊だとしても相当強力な怨霊がいる。それとも妖怪だったのだろうか。まさか、本物の鬼がいるとか。本物の鬼は人を喰らうなんて話を聞く。
いったいこの町に何が起こっているのか、さっぱりわからない。
中途半端な詮索ではこっちがやられてしまう。綿密な打ち合わせが必要かもしれない。こないだはまったく作戦を練れなかった。とにかく鬼猫が帰ってきたら話をしよう。
えっ、なに。
今、違う気を微かに感じた。温かくて包まれるような気を。それでいて救いを求めているような。
愛莉は立ち止まり、振り返ってみたがどこから感じたのかわからなかった。ただ水の匂いが微かに鼻を掠めた。
あっ、雨。
雨の匂いを感じただけなのだろうか。愛莉は小首を傾げて空を仰ぎ見た。
雨脚が強くなる前に帰ろう。愛莉は大和の住むアパートへ向けて駆け出した。
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