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第2章 怨霊退治
6 つけ狙う霊
しおりを挟む「これで本当にチーたちともお別れだねぇ」
照は溜め息を漏らして項垂れている。
チー、チコ、キトは火葬場の片隅にあるペットを火葬する場所で火葬の順番を待つこととなる。あとは火葬場の職員に任せることにした。ペットの葬儀は頼まなかった。
幸吉、照とともに大和は手を合わせて火葬場をあとにする。何とも言えない気持ちが胸の奥にズシリと残る。
もうチーもチコもキトもいない。瞼を閉じればそこにいるのに、瞼をあげた瞬間に姿は消えてしまう。あまり悲しむと成仏できないと聞く。大和は楽しい思い出をなるべく思い出して笑顔になろう。
車にはネオンが待っていた。ネオンだけでも生きていることに感謝しよう。冷房で心地いいのかネオンは気持ち良さそうに寝ていた。今は鬼猫が宿っているけどネオンに違いない。
「ネオンが生きていてよかったよ」
「照さん」
照は涙を拭ってネオンを抱きかかえた。
『鬼猫、今はネオンでいてくれな』
『わかっている』
「大和、ネオンを大切にしておくれよ」
「もちろんだよ。こいつは家族みたいなものだからさ」
「そうだねぇ。ときどきでいいから連れて来ておくれよ」
「毎日連れて行くよ。どうせいつもごはん食べに行くんだから」
照は頷きながらネオンを撫でている。
「そうだ、大和。今日も夕飯は食べて行くだろう」
「もちろん」
んっ、なんだろう。なにか嫌な気を感じる。気のせいかではない。火葬場を出るときからずっと感じる。
『感じるか、鬼猫』
『いるな。車にしがみついている奴が』
『源のなんとかって奴か』
『違う奴だな』
違うのか。本当に狙われているってことなのか。次から次へと悪い霊がやってくる。今までそんなことなかったのに。
突然車がガクンと揺れて幸吉がブレーキを踏んだ。シートベルトのおかげで身体が前に飛ぶこともなく怪我もない。幸吉も照も大丈夫そうだ。鬼猫も大丈夫みたいだ。
「なに、どうしたんだい」
「いや、わからない。ハンドルが急に重くなったかと思ったら揺れて。なにがどうなっているのやら」
幸吉は動揺しているようだ。
車にしがみつく霊の仕業だ。
大和は車を降りて確認するとタイヤがパンクしていた。
「なにか踏んだのかもしれないねぇ」
いや、違う。
「大和、JAFを呼んでくれるかい」
幸吉にそう頼まれてスマホを取り出し連絡した。そのとき、歩道を歩いていた男が突然襲い掛かってきた。首を絞めつけてくる。抵抗するが物凄い力だ。死ぬ、誰か。意識が遠くなっていく。
『大和』
鬼猫の叫び声が心の奥底まで響いてきてハッと意識を取り戻す。気づくと首を絞めてきた男が倒れていた。もしかして鬼猫は気迫だけで男を気絶させたのだろうか。
ふいにどこからか視線を感じて見回すと交差点の向こう側に黒い影をみつけた。遠いところにいるにも関わらず
「道連れにしようと思ったのに」とはっきりと耳にした。
火葬場からずっとついて来ていたのはあいつなのか。パンクさせたのもあいつだろうか。なぜ、自分だったのだろうか。
『狙われていると言っただろう』
『なんで僕が狙われているんだよ』
『さあな。だが成瀬の事件と無関係ではないだろう』
素戔嗚尊の生まれ変わりだからだろうか。わからない。
「大和、どうしたんだい急に苦しそうにしてびっくりするじゃないかい」
「びっくりって照さん。今僕は首を……」
あれ、男はどこに行った。気絶して倒れていたはずだ。嘘だろう。今の男も幽霊だったのか。いや、交差点の向こうにいた幽霊がそうだったのか。人に取り憑いていたわけじゃなかったのか。
幽霊は立ち去ってくれたが、車はパンクしたまま。
しばらく経ってもJAFが来ない。大和は再び電話をしてみたところ、誰も電話を受けていないという。おかしな話もあったものだ。これも幽霊の仕業なのか。
そのあとJAFが到着するもパンクの状況がよくないと結局、レッカー車で運ばれてタイヤ交換をすることになってしまった。
思わぬ足止めをくらってしまった。
日も沈み、空腹で腹が鳴る。
愛莉はどうしているだろう。まあ、ひとりでも大丈夫だとは思うが妙に気にかかる。愛莉も襲われていたらどうしよう。スマホで連絡を取ろうとしても繋がらない。LINEも未読のままだし、メールしても返信はない。
とにかく早く帰らなきゃ。幸吉と照は車に乗り込み大和も後部座席に乗ろうとドアに手をかけた。
「みつけたぞ」
背後からの声に背筋がゾクゾクとした。
「鬼ども成敗してくれる」
成瀬だ。以前とずいぶん雰囲気が違う。やつれた顔をしている。取り憑いた怨霊の影響だろうか。ぎらつく目で睨みつけられると震えがくる。こけた頬と眼の下のクマ、飛び出しそうな眼球。大和は死神を連想してしまった。変わり果てた姿だが成瀬だとわかる。
成瀬はどこから仕入れてきたのか日本刀を手にしていた。盗んだのだろうか。ニヤリと不敵な笑みを湛えて刀を鞘から抜刀して近づいてくる。
なにか武器はないだろうか。それよりも今攻撃されるのはまずい。幸吉と照もいる。ここは逃げるが勝ちだ。大和は急いで車に乗り込み幸吉に早く車をだしてくれと叫んだ。
幸吉は最初どうしたという顔をしていたが、大和の指差すほうを見遣りすぐに車を出した。
「大和、外にいた奴はあの猫殺しじゃなかったか」
「そうだよ。あいつネオンを狙っていたんだよ」
「なんて奴だ。あっ、通報しなきゃ」
照は車の後方に目を向けていたが「どうやら大丈夫みたいだね」とホッとした顔をしていた。大和はスマホを取り出して警察に通報をした。
大丈夫じゃない。きっとあいつはまた現れるはずだ。成瀬は追っては来られないだろうけど、取り憑いている源頼光は追ってこられるはず。なのに、その気配は感じない。なぜだろう。
なにか企んでいるのだろうか。とりあえず幸吉と照に被害が及ばなかったことにホッとしつつ大和は後ろを見続けた。
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