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第2章 怨霊退治
5 作戦会議
しおりを挟むな、なんだこれは。
大和は部屋に入るなりに目を疑った。一夜にしてこんなに部屋が散らかるなんて。
「おい、なんでこんなに部屋が汚いんだよ」
「ご、ごめん。でも、愛莉のせいじゃないからね」
「どういうことだよ」
「だって、変な幽霊が暴れてきたんだもん」
幽霊ってまさかさっきの……。
「身に覚えがあるんでしょ」
愛莉はねめつけるような目をしていた。
「まあな。けど、この荒れようはないだろう」
「ちゃんと綺麗にするわよ。それでいいんでしょ。細かいんだから」
愛莉はテーブルに置きっぱなしの食べ終えたカップラーメンの器をゴミ箱に捨て、飲みかけのジュースのペットボトルを飲み干してそれもゴミ箱へポイッと。お菓子の袋もゴミ箱へ。
全部、同じゴミ箱に捨ててしまって。あとで分別しないといけない。そう思いつつも黙認してしまった。
そのあと、ぐちゃぐちゃになっていた布団も直しはじめた。
本当に幽霊だけのせいだろうかと疑問もあったが咎めることはしなかった。
「さてと、今後のことを話そうではないか」
「今後といっても僕は何もできないけど」
「そうよね。大和はただ霊感が強いだけだもんね」
いきなり呼び捨てか。それもそうだがなんだか癇に障る言い方だ。可愛い顔をしているけどちょっと生意気だ。間違ってはいないけどもうちょっと言い方ってものがあるだろう。もしかして、掃除させたことを腹立たしく思っているのだろうか。
「なによ、愛莉の顔になにかついているの」
「いや、べつに」
「まあまあ、仲違いはせずに」
鬼猫に仲裁されてなんとも不思議な気分になった。口を利く以外はどう見てもどこにでもいる猫だ。そのうち慣れるだろうけど。
「鬼猫さん、ごめん。大和もごめん」
「あ、いや、こっちこそごめん」
そう素直に謝られると調子が狂う。もうちょっと強気できてもいいのに。あれ、何を考えているのだろう。もしかして自分はMかも。そんなことはどうでもいい。
大和はふと思った。というか感じるものがある。
この子はきっといい子なのだろうけど、どこか無理をしているところもあるような。なにか背負っているものが違うようにも感じられる。それと時折、別の女性の姿が現れることも気にかかる。多重人格とかではなくて本当に背後にスッと登場してはスッと消え去る。悪霊が憑いているわけではなくて、あれは前世なのか。いや守護霊なのか。一人ではない。何度も生まれ変わっているのかもしれない。
なんだろう、何か心の奥が疼く。なにかを思い出しかけたのにすぐに頭の奥に引っ込んでしまった。
「どうかしたの」
「いや、音場さんの背後の人が気になってね」
「えっ、背後って何よ。変な霊でも憑いているの」
「そうじゃなくて」
愛莉との会話に鬼猫が「それは愛莉の前世であり守護霊だ」と口を挟んできた。
なんだどっちも正解だったのか。
「鬼猫さん、そうなの。あっ、もしかして綺麗な女性じゃない」
「うむ、そうだな」
「そうか、あの人がいるんだ。たまに見えるときはあるんだけどね。守ってくれているのね。あっ、それと大和、音場さんじゃなくて愛莉でいいわよ」
いやいや、会ったばかりの人に下の名前を呼び捨てで呼ぶのは無理だ。けど『音場さん』というのも他人行儀だろうか。他人だけどなんとなく身近な存在にも思える。不思議だけど。
「愛莉ちゃんでもいいかな」
「いいけど」
「愛莉、なんかいつもと違う気がするぞ。こいつを意識しているのか」
「えっ、な、なによ。もう鬼猫さんの馬鹿」
どういうことだ。
鬼猫は咳払いをひとつして本題に入ろうと話した。
「あの逃走中の成瀬のことだよな。怨霊が憑いているみたいだったけど。誰って言っていたっけ」
大和は鬼猫の頭を思わず撫でて訊いてしまった。
「おい、やめてくれ」
「あっ、ごめん。つい、いつもの癖で」
「まあ、しかたがないか」
「それで誰だっけ」
「源頼光だ。だが、あの者はもともと怨霊ではないはず。操る者がいるはずだ」
「操る者ね。怨霊にさせた人がいるってことかな」
愛莉が話に割り込んできた。
「今は何とも言えない。人なのか妖怪なのかそれとも操る者も怨霊なのか」
「鬼猫さんでもわからないの」
「うむ、いろんな気が入り混じっていてはっきりしない」
なんでこんなことに巻き込まれてしまったのだろう。今のところ大黒様と力士の姿は見えないけど、どうしているのだろうか。
『源頼光』か。源といったら頼朝とか義経を思い出すけど、きっと関係あるのだろう。実在した人物かもよくわからない。酒呑童子を退治したとか話していた。酒呑童子は実在しないだろう。
ダメだ、考えれば考えるほどわけがわからなくなっていく。正直、歴史は苦手だ。名前くらいは聞いたことがあるような気もするけど。
そもそも素戔嗚尊も実在したのかと疑問を感じる。神話とかで出てくる人物だろう。いや神か。モデルになる実在の人物がいたのだろうか。
「ねぇ、話を聞いているの」
「えっ、あっ、ごめん。ちょっと考え事をしていた」
「もう、しょうがないな。とにかくあの成瀬に取り憑いている源頼光をどうにかしても解決しないってこと。元凶となる誰かをみつけなきゃいけないの。わかる」
「わかる」
「なんだか頼りないな」
大和は苦笑いを浮かべることしかできなかった。
「なんだか、鬼嫁と尻に敷かれた旦那みたいだな」
「な、何を言っているのよ。鬼猫さん、さっきから変なこと言わないで」
鬼猫は口角をあげて「すまない」と呟き「大和は大丈夫だ。大黒が力を与えてくれるはずだからな」と付け加えた。
「そうなの」
愛莉がじっとこっちをみつめてきて思わず目を逸らしてしまった。なんだろう、見た目は幼い感じで可愛らしいのにその目の奥に色気を感じる。さっきの前世であり守護霊である女性のせいだろうか。それだけではないような気もするがよくわからない。
「今、大黒と蹴速が源頼光の隠れ家を探っている。まだ成瀬の身体に取り憑いているであろうからみつかるのは簡単だと思うが、その先の存在に辿り着けるかどうかが問題だ。二人を待とう」
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