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第1章 鬼猫来る
13 鬼猫宿る(1)
しおりを挟む大和は死を覚悟した。
怨霊が取り憑いた者に対抗する術はない。神様や仏様と縁を結んでおけばよかった。力を貸してくれたかもしれない。
いや、待てよ。素戔嗚尊の生まれ変わりなら何か自分にも力があるのだろうか。自分の両手をみつめたがなんのパワーも感じない。やっぱりダメだ。
んっ、何かが後ろにいる。まさか挟み撃ちか。背中がゾワリとする。前に怨霊の取り憑いた成瀬が迫ってくる。背後からは正体不明の輩が迫っている。絶体絶命ってやつか。
すぐ後ろにいる。感じる。身体がその何者かに反応して鳥肌が立つ。気のせいだったらいいのだが、この世の者ではない雰囲気を背中で捉えている。
ごくりと生唾を呑み込み、抱いているネオンに「おまえだけでも生き残ってくれ」と声をかけた。その瞬間、ネオンの身体から光の粒が迸った。
な、なに。
眩しい。それでいて熱い。なのに抱いていられることが不思議だ。
大和は眩しさに瞼を閉じてしまう。刹那、背後から突風が背中にぶち当たった。同時に何者かが身体をすり抜けていく。
「な、なんだ。いてぇ。いてぇじゃねえかよ」
風が収まり瞼をあげると成瀬が蹲っていた。よく見ると成瀬は頬や手に傷を負っている。ナイフでも切り付けられたかのような何本もの赤い筋がくっきりと浮き上がっている。ふとカマイタチが頭に浮かんだが、そんなはずはない。いや、あるのか。
あっ、まさか……。
抱いていたはずのネオンが成瀬の向こう側で睨みを利かせていた。ネオンが助けてくれたのか。そうかあの切り傷は猫の爪の傷か。突風に紛れて攻撃をしたってことだろうか。
チーたちの敵討ちをしたのか。
大和にはそう思えた。けど、何か雰囲気が違う。あいつは本当にネオンなのか。毛の一本一本が微かに光っている。気のせいではない。
「出て来い、怨霊。我が相手だ。その者に手を出すな」
えっ、誰の声だ。もちろん、自分は何も口にしていない。成瀬の言葉ではない。他には誰もいないはずだけど。大和は誰もいないことを確認したあとネオンと目が合った。
まさか、ネオンが。いやいや、それはないだろう。ネオンは猫だ。
「鬼猫さん」
突然の背後の声にビクッとして振り向くと女の子が立っていた。いつの間に。誰もいなかったはずだ。君は誰だ。
んっ、今、『鬼猫さん』って。
まさか……。大和はネオンのほうに向き直る。ネオンではなく鬼猫なのか。
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