鬼猫来るーONI-NEKO KITARUー

景綱

文字の大きさ
上 下
17 / 48
第1章 鬼猫来る

13 鬼猫宿る(1)

しおりを挟む

 大和は死を覚悟した。
 怨霊が取り憑いた者に対抗する術はない。神様や仏様と縁を結んでおけばよかった。力を貸してくれたかもしれない。

 いや、待てよ。素戔嗚尊の生まれ変わりなら何か自分にも力があるのだろうか。自分の両手をみつめたがなんのパワーも感じない。やっぱりダメだ。

 んっ、何かが後ろにいる。まさか挟み撃ちか。背中がゾワリとする。前に怨霊の取り憑いた成瀬が迫ってくる。背後からは正体不明の輩が迫っている。絶体絶命ってやつか。

 すぐ後ろにいる。感じる。身体がその何者かに反応して鳥肌が立つ。気のせいだったらいいのだが、この世の者ではない雰囲気を背中で捉えている。

 ごくりと生唾を呑み込み、抱いているネオンに「おまえだけでも生き残ってくれ」と声をかけた。その瞬間、ネオンの身体から光の粒がほとばしった。

 な、なに。

 眩しい。それでいて熱い。なのに抱いていられることが不思議だ。

 大和は眩しさに瞼を閉じてしまう。刹那、背後から突風が背中にぶち当たった。同時に何者かが身体をすり抜けていく。

「な、なんだ。いてぇ。いてぇじゃねえかよ」

 風が収まり瞼をあげると成瀬がうずくまっていた。よく見ると成瀬は頬や手に傷を負っている。ナイフでも切り付けられたかのような何本もの赤い筋がくっきりと浮き上がっている。ふとカマイタチが頭に浮かんだが、そんなはずはない。いや、あるのか。

 あっ、まさか……。

 抱いていたはずのネオンが成瀬の向こう側で睨みを利かせていた。ネオンが助けてくれたのか。そうかあの切り傷は猫の爪の傷か。突風に紛れて攻撃をしたってことだろうか。

 チーたちの敵討ちをしたのか。

 大和にはそう思えた。けど、何か雰囲気が違う。あいつは本当にネオンなのか。毛の一本一本が微かに光っている。気のせいではない。

「出て来い、怨霊。我が相手だ。その者に手を出すな」

 えっ、誰の声だ。もちろん、自分は何も口にしていない。成瀬の言葉ではない。他には誰もいないはずだけど。大和は誰もいないことを確認したあとネオンと目が合った。

 まさか、ネオンが。いやいや、それはないだろう。ネオンは猫だ。

「鬼猫さん」

 突然の背後の声にビクッとして振り向くと女の子が立っていた。いつの間に。誰もいなかったはずだ。君は誰だ。

 んっ、今、『鬼猫さん』って。
 まさか……。大和はネオンのほうに向き直る。ネオンではなく鬼猫なのか。

しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

アポリアの林

千年砂漠
ホラー
 中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。  しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。  晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。  羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。

リューズ

宮田歩
ホラー
アンティークの機械式の手に入れた平田。ふとした事でリューズをいじってみると、時間が飛んだ。しかも飛ばした記憶ははっきりとしている。平田は「嫌な時間を飛ばす」と言う夢の様な生活を手に入れた…。

歩きスマホ

宮田歩
ホラー
イヤホンしながらの歩きスマホで車に轢かれて亡くなった美咲。あの世で三途の橋を渡ろうとした時、通行料の「六文銭」をモバイルSuicaで支払える現実に——。

限界集落

宮田歩
ホラー
下山中、標識を見誤り遭難しかけた芳雄は小さな集落へたどり着く。そこは平家落人の末裔が暮らす隠れ里だと知る。その後芳雄に待ち受ける壮絶な運命とは——。

『忌み地・元霧原村の怪』

潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。 渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。 《主人公は和也(語り部)となります》

鉄と草の血脈――天神編

藍染 迅
歴史・時代
日本史上最大の怨霊と恐れられた菅原道真。 何故それほどに恐れられ、天神として祀られたのか? その活躍の陰には、「鉄と草」をアイデンティティとする一族の暗躍があった。 二人の酔っぱらいが安酒を呷りながら、歴史と伝説に隠された謎に迫る。 吞むほどに謎は深まる——。

奇怪未解世界

五月 病
ホラー
突如大勢の人間が消えるという事件が起きた。 学内にいた人間の中で唯一生存した女子高生そよぎは自身に降りかかる怪異を退け、消えた友人たちを取り戻すために「怪人アンサー」に助けを求める。 奇妙な契約関係になった怪人アンサーとそよぎは学校の人間が消えた理由を見つけ出すため夕刻から深夜にかけて調査を進めていく。 その過程で様々な怪異に遭遇していくことになっていくが……。

禊(みそぎ)

宮田歩
ホラー
車にはねられて自分の葬式を見てしまった、浮遊霊となった私。神社に願掛けに行くが——。

処理中です...