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第1章 鬼猫来る
11 猫の魂
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意気消沈した幸吉と照のもとを離れることができずに大和は猪田家に泊まることにした。大和も胸の奥に澱が溜まって身体が重く沈んでいた。それでもネオンの姿がないことに淡い期待を抱いていた。
ひょっこりと顔を覗かせるのではないかとつい縁側に目を向けてしまう。
獣医師の話だと毒物で亡くなっているという。きっと誰かが食べさせたに違いない。いったい誰がそんなことを。どうしても猫惨殺事件の犯人を思い浮かべてしまう。このへんに潜んでいるとしたら気をつけなくてはいけない。精神異常者のはずだ。猫だけじゃなく人に殺意を抱く可能性だってある。今日はやっぱり幸吉と照の家にいたほうがいい。
チーたちの遺体は明日、火葬してもらうことにした。段ボール箱の棺ではあるが庭の花を摘みチーたちの身体の上に乗せてあげて線香も立てた。
「チー、チコ、キト。ごめんな、守ってあげられなくて。苦しかったよな。酷いことする奴がいるものだ。ネオンはどうしているのかな。どこかで息絶えていたらどうしよう。チー、もし居場所がわかったら教えてくれよな」
大和はチーたちに向けてしばらく語りかけていた。そのあと、最後に手を合わせて「ゆっくり休んでね」と言葉を添えた。
夕飯は食欲がなくいらないと話していたのだが、幸吉が少しでも食べたほうがいいとお茶漬けを作ってくれた。梅干しが乗っている。
梅茶漬けはさっぱりしていて食べることができた。
「ネオンは生きているといいけどねぇ」
「そうだな」
「二人とも大丈夫だよ。きっとネオンは毒に気づいて逃げたはずだ」
大和はそう二人に話したが、心の中では不安でいっぱいだった。ネオンは警戒心が強いところがあった。危険を察知してくれたと信じたい。
テレビはつけているものの誰一人観ていない。お笑い番組をやっているようだ。笑い声が聞こえるだけでも違う。今は静寂が訪れることが一番恐ろしい。
「大和、私たちはそろそろ床につくよ」
「わかった。僕ももうちょっとしたら寝るよ」
「わかったよ。戸締りはしてあるけど、寝る前にもう一度確認してくれるかい」
大和は頷き、幸吉と照が寝室へ向かうのを見送った。
こんなことになってしまうなんて。どうにもやるせない。
大和は再びチーたちのもとへ行き座り込む。
ただ寝ているだけだったらよかったのに。
チーは犯人を見ているのだろうか。それとも毒入りのごはんがどこかに置かれていて食べてしまったのだろうか。本当に脱走した犯人の仕業なのだろうか。やり方を変えたのだろうか。そんなことはどうでもいい。誰かが毒入りのごはんを食べさせたことには違いないはずだ。チーが毒草を食べてしまったとは思えない。絶対に食べちゃいけない草はわかっていたはずだ。
「なあ、チー。犯人を見ていたら教えてくれよ。幽霊になって出て来てくれよ。僕には見えるはずだからさ」
カタ、カタカタカタ。
背後からの微かに聞こえる物音に振り返ると、座ってこっちをみつめるチーの姿がぼんやりと窓ガラスに映り込んでいた。
「チーだよな」
黙ったままだが間違になくチーだ。あっ、チコとキトもいる。
「犯人は誰なんだ。毒を食べさせた奴は誰なんだ」
返事はない。幽霊になっても人の言葉は話せないのか。何かテレパシー的なものでも使えないのだろうか。
あっ、チーたちがどこかへ行ってしまう。大和は立ち上がり窓へと近づく。
「チー」
チーは庭から道路の方へ歩いて行ったかと思うと振り返りじっとこっちをみつめた。もしかしたらネオンのところにでも連れて行ってくれるのかもしれない。大和はそう直感した。
「チー、待っていてくれ」
大和は幸吉に渡されていた鍵を持ち玄関へと向かう。しっかり鍵をかけてチーのいるところへと急ぐ。チーは自分の姿を確認するとゆっくりと歩き出した。いったいどこに向かうのだろうか。大和はチーの幽霊を追いかける。チコとキトもチーのまわりをうろちょろしている。チコとキトは死んだことに気づいていないのかもしれない。
それにしてもこのへんは静だ。まだ十時を回ったばかりなのに寝てしまっているのだろうか。窓から明かりが漏れている家もあるが、ほとんどが真っ暗だ。それこそ幽霊が出て来てもおかしくはない雰囲気だ。まあ、幽霊は怖くはない。慣れてしまえばなんてことはない。怨霊は別だが。
あれ、ここって。
いつの間にか自分のアパートの近くに来ていた。まさにチーが向かう先にアパートはある。見えてきた。そう思ったらチーの姿がフッと消えてしまった。
ひょっこりと顔を覗かせるのではないかとつい縁側に目を向けてしまう。
獣医師の話だと毒物で亡くなっているという。きっと誰かが食べさせたに違いない。いったい誰がそんなことを。どうしても猫惨殺事件の犯人を思い浮かべてしまう。このへんに潜んでいるとしたら気をつけなくてはいけない。精神異常者のはずだ。猫だけじゃなく人に殺意を抱く可能性だってある。今日はやっぱり幸吉と照の家にいたほうがいい。
チーたちの遺体は明日、火葬してもらうことにした。段ボール箱の棺ではあるが庭の花を摘みチーたちの身体の上に乗せてあげて線香も立てた。
「チー、チコ、キト。ごめんな、守ってあげられなくて。苦しかったよな。酷いことする奴がいるものだ。ネオンはどうしているのかな。どこかで息絶えていたらどうしよう。チー、もし居場所がわかったら教えてくれよな」
大和はチーたちに向けてしばらく語りかけていた。そのあと、最後に手を合わせて「ゆっくり休んでね」と言葉を添えた。
夕飯は食欲がなくいらないと話していたのだが、幸吉が少しでも食べたほうがいいとお茶漬けを作ってくれた。梅干しが乗っている。
梅茶漬けはさっぱりしていて食べることができた。
「ネオンは生きているといいけどねぇ」
「そうだな」
「二人とも大丈夫だよ。きっとネオンは毒に気づいて逃げたはずだ」
大和はそう二人に話したが、心の中では不安でいっぱいだった。ネオンは警戒心が強いところがあった。危険を察知してくれたと信じたい。
テレビはつけているものの誰一人観ていない。お笑い番組をやっているようだ。笑い声が聞こえるだけでも違う。今は静寂が訪れることが一番恐ろしい。
「大和、私たちはそろそろ床につくよ」
「わかった。僕ももうちょっとしたら寝るよ」
「わかったよ。戸締りはしてあるけど、寝る前にもう一度確認してくれるかい」
大和は頷き、幸吉と照が寝室へ向かうのを見送った。
こんなことになってしまうなんて。どうにもやるせない。
大和は再びチーたちのもとへ行き座り込む。
ただ寝ているだけだったらよかったのに。
チーは犯人を見ているのだろうか。それとも毒入りのごはんがどこかに置かれていて食べてしまったのだろうか。本当に脱走した犯人の仕業なのだろうか。やり方を変えたのだろうか。そんなことはどうでもいい。誰かが毒入りのごはんを食べさせたことには違いないはずだ。チーが毒草を食べてしまったとは思えない。絶対に食べちゃいけない草はわかっていたはずだ。
「なあ、チー。犯人を見ていたら教えてくれよ。幽霊になって出て来てくれよ。僕には見えるはずだからさ」
カタ、カタカタカタ。
背後からの微かに聞こえる物音に振り返ると、座ってこっちをみつめるチーの姿がぼんやりと窓ガラスに映り込んでいた。
「チーだよな」
黙ったままだが間違になくチーだ。あっ、チコとキトもいる。
「犯人は誰なんだ。毒を食べさせた奴は誰なんだ」
返事はない。幽霊になっても人の言葉は話せないのか。何かテレパシー的なものでも使えないのだろうか。
あっ、チーたちがどこかへ行ってしまう。大和は立ち上がり窓へと近づく。
「チー」
チーは庭から道路の方へ歩いて行ったかと思うと振り返りじっとこっちをみつめた。もしかしたらネオンのところにでも連れて行ってくれるのかもしれない。大和はそう直感した。
「チー、待っていてくれ」
大和は幸吉に渡されていた鍵を持ち玄関へと向かう。しっかり鍵をかけてチーのいるところへと急ぐ。チーは自分の姿を確認するとゆっくりと歩き出した。いったいどこに向かうのだろうか。大和はチーの幽霊を追いかける。チコとキトもチーのまわりをうろちょろしている。チコとキトは死んだことに気づいていないのかもしれない。
それにしてもこのへんは静だ。まだ十時を回ったばかりなのに寝てしまっているのだろうか。窓から明かりが漏れている家もあるが、ほとんどが真っ暗だ。それこそ幽霊が出て来てもおかしくはない雰囲気だ。まあ、幽霊は怖くはない。慣れてしまえばなんてことはない。怨霊は別だが。
あれ、ここって。
いつの間にか自分のアパートの近くに来ていた。まさにチーが向かう先にアパートはある。見えてきた。そう思ったらチーの姿がフッと消えてしまった。
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