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第1章 鬼猫来る
5 捻じ曲がった心
しおりを挟む「狐さん、あの悪いおじさん捕まっちゃったよ。もうちょっと猫たちを懲らしめてほしかったのに」
庭にウンチしていく猫なんて赦せない。なにもしていないのにこっちまでとばっちりを受けたじゃないか。なんでママに怒られなきゃいけない。猫もママも嫌いだ。捕まった悪いおじさんだって大っ嫌いだ。まだまだ罰が必要だ。
「狐さん、あの悪いおじさんももっと苦しめてほしいな。猫ももっと懲らしめてほしいな。そういえば鬼猫ってなんだろう。こないだテレビのニュースで言っていたけど、確か狐さんも言っていなかったっけ。よくわからないけど、みんな苦しめばいい」
今日は狐からの声がしない。どうして何も話してくれないのだろう。
悪い人はもっといるのに。チラッとパパとママに目を向ける。もう怒鳴りつけるパパもママもいない。そこにいるけど、いないのと同じだ。凄く静かだ。
「パパ、ママ、悪い人は天罰がくだされるんだよ。パパとママがいけないんだからね。行きたくない学校に行けって言うからいけなんだからね」
パパとママは虚ろな目をして壁によりかかって人形みたいに座っていた。
なんだかお腹が空いてきた。
「ママ、何か作ってよ」
ママはふらふらと立ち上がってキッチンへと無言で向かう。
徹はつけっぱなしのテレビから聞こえる声に耳を傾けた。
男の子の行方不明事件のニュースだ。
「狐さん、僕をいじめた孝くんみつからないみたいだね。狐さんは居場所を知っているんでしょ。もしかして、もう死んじゃっているの」
徹はニヤリと笑みを浮かべて一人で語り掛ける。
「あっ、そうだ。もう一人嫌な人がいるんだ。この間、家の外を見ていたら僕を見ていた人がいてね。なんだか嫌な感じがしたんだ。きっと僕のこと馬鹿にしているんだ。あいつにも罰を与えてよ。名前はわからないけど、狐さんならわかるよね。あいつ、幽霊を見るみたいな目で見ていたんだよ。僕は死んでいないのに、失礼な奴でしょ」
気に入らない奴らはみんな天罰が下る。そうじゃなきゃ。
「そうだ狐さん、鬼猫も悪い奴なのかな。なら、鬼猫も苦しめてやらなきゃね」
あと誰がいるだろう。いじめっ子はみんな罰を受けている。パパもママも勝手に家に入って来た悪いおじさんも罰を受けている。
「狐さんはすごいよね。僕の願い事全部聞いてくれるんだから。頼りにしているよ、狐さん」
薄暗い部屋の中に灯る二つの蝋燭の火が目に留まる。蝋燭の火ってなんでこんなにも落ち着くのだろう。
徹はユラユラと揺らめく蝋燭の火をじっとみつめて口角を上げた。
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