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第0章 はじまり

天罰なのか呪いなのか(2)

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 ふと成瀬は思った。自分のような者が神社でご利益を得られるはずがない。あわよくば金目のものを盗もうと画策している奴がご利益だなんて片腹痛い。神様がそんな奴のこと助けてくれるはずがない。それに神主がいたとしても見抜かれるかもしれない。警察に連絡される可能性もある。だが今はそんなことを言っていられない。登るしかない。人がいることを期待するしかない。いい人を装いまずは食事にありつこう。

 どれくらい登っただろうか。
 開けた平らな場所に出た。だが、家らしきものはない。ぼんやりとする灯りがあるが、見た感じ小さな社と石碑のようなものが窺えるだけだ。

「くそっ、疲れ損じゃないか」

 そうだ、賽銭泥棒でもやろうか。そう思ったのだが、賽銭箱がない。もうダメだ。腹は減るし、疲れるし、やっていられない。

 こうなったら社の中に金目のものがないか探ってやる。念のため人の気配がないことを確認して社の扉をゆっくりと開く。

 うーん、猫の置物に大黒様か。見た感じ高価ではなさそうだ。
 ダメか。

 そういえば『鬼猫鎮神社』って書いてあったけど、鬼猫ってなんだ。『鎮』の文字は気にかかる。怨霊とか封印されているのではないだろうか。そう思ったらブルッと身体が震えてしまった。

 こんな時間に来る場所ではなかった。早いところここから離れたほうがいいかもしれない。夜の神社はあまり立ち寄らないほうがいいなんて話を聞いたことがある。なぜ、来てしまったのだろう。やっぱりついていないのかもしれない。これは改心しろと神様が言っているかもしれない。もう悪事はやめろと言っているのかもしれない。

 今更、悪事をやめることなんてできない。
 ここは一刻も早く帰るべきだ。

 成瀬は来た道を戻ろうと一歩踏み出したところで何かに足を取られて前のめりになり正面にある囲いの中へと倒れ込んでしまった。倒れ込んだとき、囲いにつけられていた注連縄を引っ張り落として踏みつけていた。

「いてぇ。なんだって、こんなところに石があるんだ」

 囲いの中の石に頭をぶつけてしまった。額に瘤ができてしまった。額を押さえた手には少し血がついていた。成瀬は立ち上がり石を踏みつけて罵声を浴びせた。その瞬間、あたりの木々が騒めき出して身体に電流が走り抜けた。

 いったい何が起きた。身体が痺れる。もしかしてこの石を踏みつけたせいか。雷でも落ちてきたのか。いや、落雷はなかったはずだ。何の音もしなかった。

「おまえか。封印を解いたのは」

 封印。なんのことだ。
 何気なく下に目を向けると石が二つに割れていた。これって、もしかしてかなりまずい状況じゃないのか。ちょっと待て、こんな簡単に石が割れるはずがない。もともとヒビでも入っていたのかもしれない。いやいや、それでも割れないだろう。どっちかと言えば自分の頭が割れちまう。やっぱり雷が落ちたのか。

 うぅっ、身体が燃えるように熱い。
 ああ、やめてくれ。

 目の前に真っ黒い影が浮き上がってきた。夜の闇ですらくっきりと浮かび上がる黒い影がゆらゆらと揺れていた。幻でも見ているのだろうか。

「おまえを余のしもべにしてやろうではないか。ありがたく思えよ」

 うぅっ……。
 息ができない。苦しい。頭が割れそうだ。

「や、や、やめてくれ」
「遠慮などすることはない。おまえのその闇に染まった心、余がもっと黒く染めてやろう。おまえにぴったりの者を与えてやろうではないか」

 首が締め付けられる。殺されるのだろうか。

 成瀬は気が遠くなっていくのを感じながら目の前にいる黒い影に目が留まる。顔が薄っすらと見え隠れしていた。影の者は昔の人が着るような服を纏っている。

「帝の命は絶対である。鬼を征伐するのだ。おまえの悪しき心をもっと解き放て」

 わけのわからない言葉を耳にして成瀬は完全に意識を失ってしまった。

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