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後ろのチョコマカさん
しおりを挟む散歩というか健康のために歩いたほうがいいという話はよく耳にする。
ただ夏の暑い最中に散歩はしたくない。だからと言って、冬の寒い時期にもしたくない。ならば、春と秋はというと結局面倒だと歩かない。
『なんだ季節は関係ないじゃないか』
そう突っ込まれても文句は言えない。苦笑いをして終わりだ。それじゃダメだ。
一応言っておくがまったく歩かないなんてことはない。それだけは覚えておいてほしい。
私のことはいいとして、きちんと毎日散歩している人はいる。暑くても寒くても雨が降っていたとしても散歩を欠かさずしている人がいる。偉いとしか言いようがない。完全に日課になっているのだろう。そんなお婆さんが近所にいる。他にも犬の散歩を毎朝している人はいる。
なら犬を飼えばいいのではなんて思うかもしれないが、そう単純なものでもないような気がする。一瞬、お隣さんのウェリッシュコーギーを借りて……。そう思ったが、そんなに親しくないから無理だ。つぶらな瞳でみつめてくることがある。可愛いって思う。猫も好きだが犬も好きだ。ただちょっとだけ猫に軍配があがる。
あれ、なにを話していたっけ。
そうそう散歩だ。
自分自身に言いたい。運動不足なのだから少しくらい歩けと。
毎日散歩を欠かさずするお婆さんを見倣わなくちゃいけない。
このままだと間違いなく体重増量確定だ。いいのか、それで。
ウインナーソーセージやインスタントコーヒーの『今だけ、増量中』だったら「おお、ラッキー」と喜ぶだろう。けど、体重の増量はいらない。断固として拒否する。そう思うのなら運動をしろって話だ。歩くだけで違ってくるはず。一日、八千歩くらいは歩いておきたいところだ。
腹の周りの肉をさっさとどうにかしろ。
私は腹を見て、溜め息を吐く。
「ああ、ぜい肉の馬鹿野郎」
すべては運動をしない私が悪い。以前の私を思い出せ。
そうそう、私もきちんと歩いていた時もあった。そのときのことを話そう。ただ歩いていたときの話をしても面白くない。やっぱり、楽しい出来事じゃなきゃね。私のぜい肉話じゃ楽しめない。
「つまらない」との一言で終わりだ。そうならないためにも、猫様に登場してもらわなくては。
「出番ですよ。お猫様」
思い出しただけでもにんまりしてしまうことがあった。
あれはいつ頃のことだったか、もう三、四年前くらいのことだろうか。二匹の子猫がいた。
この子たちはわが家の飼い猫の友達というか彼女というか奥さんというか。とにかく通い猫さんの子供。
このことは思い出すだけでにんまりしてしまう。あっ、ひとりでにんまりしてすみません。『早く話せ』って話だ。
「はい、話します」
『さてと、散歩にでも行くか』と玄関を開けると二匹の子猫が遊んでいた。もうその姿だけでメロメロだ。
二匹であっちこっち走り回って転がって。
「それ行けー。とりゃー」とでもいった感じだろうか。
その子猫がなぜかすごく懐いてしまってね。通い猫の母猫を可愛がっていたから信頼してくれていたのかもしれない。
懐いてくれることは嬉しいことだ。だが、散歩する後ろをチョコマカとした足取りでついて来てしまう。想像してみてほしい。
二匹のチョコマカさん、可愛すぎだろう。けど危ない。車が来たら大変だ。
「ダメ、ダメ、ついて来ちゃダメだよ」
子猫たちはそんなことはおかまいなしで「待って、待って、一緒に行く」とでも思っているのかどこか楽し気について来てしまう。こんなことって初めてだ。
小さな足で一生懸命ちょこちょこと歩みを進めてくる。それも二匹。どこかおぼつかない足取りを見ちゃうと、やっぱり、『チョコマカさん』ってネーミングがぴったりな気がする。
正直、ずっとこうしていたい。こんな心が弾む光景をずっと見ていたい。
子猫が言葉を話せたら、きっと「わーい、わーい。楽しいな」と口にしているだろう。そんな気がしてならない。子猫が笑っているように感じてしまう。夢のようだ。けど、すぐに我に返ってこのままじゃいけないと思い直す。
「ふたりとも、お母さんのところへ戻って。車が来たら危ないからさ」
子猫は関係なくちょこちょことついてくる。
お願いだから戻って、ついて来ないでとの思いは伝わらない。危ないということを理解していない。
私が止まれば一緒に止まるけど、再び歩き出せばまたついて来る。『ストップ』との言葉は意味を持たない。これはダメだ。散歩どころではない。
大人の猫だったら途中まで来たとしても追い駆けてくることはほぼない。けど追い駆けて来るのは子猫だ。無邪気な子猫たちだ。
なんとなくだが子猫が「大丈夫だよ、平気だよ。ねぇねぇ、車ってなーに」みたいに問いかけてきている顔に見えてしまうのは気のせいだろうか。間違いなく気のせいだ。
このままだとどこまでもついて来てしまいそうだ。この先は国道だ。車がひっきりなしに走っている。仕方がない、散歩は中止しよう。引き返そう。それしか選択肢はなかった。
ふと私は思った。
こうして一緒に散歩してくれる人がいたのなら……。もちろん、猫じゃない誰かさんだ。
以前のように歩き続けることができるのだろうか。きっとできるだろう。楽しくね。
あっ、以前のようにといってもそのときもひとりで散歩していたけどね。それでもパートナーがいたら楽しいと思うのは当然だろう。喧嘩をする可能性もあるけど。そんなこと考えたくはない。
そんな馬鹿みたいな妄想をする自分がいた。
ちなみに六万歩くらい歩いたことはある。あのときと今では体重が十キロ近く違う。歩くってダイエットにもなるという証拠だ。まあ、そこまで歩かなくてもいいとは思うけど。そういうときもあったなと思い出すだけで懐かしい。
『脱・ぜい肉』『阻止せよ、体重増量』
強く意識をもとうじゃないか。
チョコマカさんがついて来ていると思って歩こう。それがいい。
そう言いつつ、運動もせずに部屋でパソコンをカチャカチャとさせているかもしれないけどね。
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