時守家の秘密

景綱

文字の大きさ
44 / 53
第六話「怪しき茶壷と筆」

とんでもない瑞穂の証言

しおりを挟む

 そうかそんなことがあったのか。
 この急須、いや茶壷は確かに命の恩人だ。

「それだけじゃないんだ。燈子は何度も瑞穂の先を見通す力で救われたんだ。だがその甲斐もなく燈子は逝っちまったがな」

 死神のお偉いさんからこっぴどく叱られたらしい。
 人の命の長さは決まっている。それを勝手に変えようとするとは何事だと。
 それはそうなのかもしれない。人にはそれぞれ寿命ってものがある。おそらく燈子は事故で亡くなることになっていたのだろう。
 茶壷の瑞穂は間違ったことをしたのかもしれない。けど、そうしたくなるくらい栄三郎と燈子のことが好きだったのだろう。
 彰俊は大きく息を吐き出して瑞穂を見遣る。

「そんな大切なものだとは知らずに申し訳ない。ごめんな瑞穂」

 彰俊が頭を下げると瑞穂は狼狽えた。

「いや、その、あの。わ、わたくしは……」
「舟雲はどこでなにをしようとしている。お願いだ、瑞穂。教えてくれ。また間違いをおかしているのではないのか。違うのか。正すのなら今だぞ」
「栄三郎……」

 瑞穂は栄三郎を見たあとこっちにも目を向けて溜め息を漏らす。

「ああ、もう。仕方がありません。舟雲を裏切るようで辛いですがお話します」
「わたくしは先を見通す力があります。それは栄三郎も知っているとは思いますが、以前よりもその力が増しているようでして。ずいぶん先の未来が見えてしまったのです」

 瑞穂はチラッとこっちに目を向けてすぐに下を向き吐息を漏らす。

「どうした瑞穂」
「わたくしはダメですね。またしても人の運命を変えようとするなんて」

 どういうことだろう。またこっちを見た。何か自分と関係があるのだろうか。

「大丈夫だ、今なら取り返しがつく。舟雲が関わっているのだろう。それなら早く止めなければ。今度は厳重注意だけでは済まないぞ」
「わかっています。ですが、話してもよいものか。正直、迷っています」

 栄三郎と向き合い瑞穂は項垂れた。
 そんなに話し辛いことなのだろうか。
 あっ、またこっちを見た。やっぱり自分が関係しているのは間違いなさそうだ。

「あのさ、もしかして俺がいたら話し辛いのか」
「あっ、いや、その」
「図星だな。それじゃじいちゃんに話してくれればいいよ。今回。俺は関わらない方がいいんだろうから」
「おい、待て。ボケナス。おまえが関係するのであるならここにいるべきだ」

 トキヒズミの言葉に栄三郎も頷き、瑞穂の肩に手を置くと話を促した。

「わかりました。すべてを話します」

 彰俊はごくりと生唾を呑み込み瑞穂の話を待った。
 果たしてどんな未来が見えたのだろう。やっぱり命を狙われたことと関係しているのだろうか。沙紀が狙われたのも関係あるってことだろうか。わからない。どうにも繋がりが見えない。瑞穂は悪者には見えない。何か理由があってそうしてしまったのだろうとは思うのだが、それがなんなのか。
『すべてを話します』とは言ったもののなかなか口を開こうとしなかった。それでも何も言わずに待った。すぐに文句を言い出しそうなトキヒズミでさえ黙っていた。深刻な問題を抱えていると雰囲気で伝わってくる。
 瑞穂は深呼吸をひとつするとこっちに向き直り土下座をした。

「命を奪おうとして申し訳ありませんでした」

 突然のことに彰俊は言葉が出てこなかった。

「沙紀さんのこともわたくしたちの仕組んだものです。舟雲が考えたことですがわたくしも手を貸したことは事実です。本当に申し訳ございません」
「いや、あの。俺は今生きているわけだし。頭を上げてくれよ」

 顔をあげた瑞穂は涙目になっていた。

「こんなお優しい方を亡き者にしようとしていただなんてわたくし、恥ずかしいです」
「それで、なぜこんなことを」
「はい、きちんと話します。すべては時守家のためと思っておりました」

 時守家のため。自分と沙紀が死ぬことがか。
「おい、何をいっている。彰俊は阿呆かもしれぬが死んでしまっては時守家のこの仕事をする者がいなくなってしまうではないか」
「じいちゃんまで阿呆って言わなくても」

 栄三郎は頭を掻いて笑って誤魔化して「それで瑞穂、時守家の仕事をする者がいなくなっては意味がないであろう。時守家のためにならぬであろう」と話を逸らした。

「栄三郎、その通りです。ですが、そうなったとしても時守家のあとを継ぐ者は現れるものです。ですが……。生かしておくとこの者はいずれ結婚し子供を授かることに」
「それはめでたいことじゃないか」
「はい、そうです。ですが、その子が火事を引き起こしてしまうのです。そして……皆死に、お家断絶。そう見えてしまったのです」

 なるほど。
 自分がいなくなれば子供が産まれることはない。それで命を……。いやいや、そこまでしなくてもどうにか火事を食い止めればいいんじゃないのか。

「言いたいことはわかります。ですが、どういうわけかわたくしたちの力が失っている姿が見えたのです。もちろん、トキヒズミもです。なので、舟雲がこのようなことを考えてしまったのです」

 遠い未来のことだ。正直、本当にそうなるのかと疑問だ。というか想像がつかない話だ。瑞穂を信じるしかないのだろうけど。

「それで舟雲は今何をしている」

 瑞穂は目を見開き「そうでした。舟雲はアキコを連れ出して沙紀のもとへ行ったはずです」と告げた。
 沙紀のもとへ。なぜだ。しかもアキコを連れて行ったって。
 彰俊は首を捻った。

「あの、これは言わないほうがいいかと思いましたが、やはり言うべきですね。そうでないと謎が解けないでしょうから」

 何を言おうとしているのだろう。正直、見当がつかない。

「あの、ですね。実はさっき話した火事を引き起こすという子供の母親が沙紀なのです」
「えええええーーーーーーー」

しおりを挟む
感想 53

あなたにおすすめの小説

パクチーの王様 ~俺の弟と結婚しろと突然言われて、苦手なパクチー専門店で働いています~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 クリスマスイブの夜。  幼なじみの圭太に告白された直後にフラれるという奇異な体験をした芽以(めい)。 「家の都合で、お前とは結婚できなくなった。  だから、お前、俺の弟と結婚しろ」  え?  すみません。  もう一度言ってください。  圭太は今まで待たせた詫びに、自分の弟、逸人(はやと)と結婚しろと言う。  いや、全然待ってなかったんですけど……。  しかも、圭太以上にMr.パーフェクトな逸人は、突然、会社を辞め、パクチー専門店を開いているという。  ま、待ってくださいっ。  私、パクチーも貴方の弟さんも苦手なんですけどーっ。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月
キャラ文芸
「皇帝になったら、迎えに来る」幼なじみとのそんな約束を律儀に守っているうちに結婚適齢期を逃してしまった私。彼は無事皇帝になったみたいだけど、五年経っても迎えに来てくれる様子はない。今度会ったらぶん殴ろうと思う。皇帝陛下に会う機会なんてそうないだろうけど。嘆いていてもしょうがないので結婚はすっぱり諦めて、“神仙術士”として生きていくことに決めました。……だというのに。皇帝陛下。今さら私の前に現れて、一体何のご用ですか?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...