時守家の秘密

景綱

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第二話「読心術奇譚書」

相変わらずの物の怪たち

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「おい、起きろ。もう昼だぞ」

 昼……だからなんだ。

「起きろ、起きろ。寝すぎると阿呆が増すぞ」

 まったく嫌味な奴だ。こんなことを口にする奴はただひとり。トキヒズミしかいない。
 そんなことよりも腹が痛い。ドンドン飛び跳ねやがって。本当にうるさい奴だ。起きればいいんだろう。

 あれ……。なんか変な夢を見ていたような。まあいいか。
 ちょっと待てよ、夢じゃないのかも。

 この感じは、あの時と同じだ。祖父の栄三郎が亡くなったときも変な夢みたいなものを見た。予知夢なのか。それとも夢を通してどこからか話してきているのか。もしもそうだとすると相当な霊力がある者ってことか。
 腹の上で飛び跳ねるトキヒズミを見遣り、ひとつ考えが浮かぶ。
 あのご老人は付喪神かもしれないな。いや、古書に何か霊的なものがとり憑いているってこともあるのか。付喪神だったら古書から手足が生えて動き回るんじゃないだろうか。トキヒズミみたいに。
 時守彰俊は、大口を開けて欠伸をした。

「ふん、まったく阿呆面しやがって。いくら休みだからとは言え、いつまでも寝腐っているんじゃない。脳が腐っちまうぞ」

 まったくこいつは小舅こじゅうとか。舅もいないのに小舅っていうのも変だが、それくらい口やかましい奴だ。
 トキヒズミの言葉はある程度聞き流す。これがここ一ヶ月で編み出した秘策だ。なんて、秘策と言えるほどのことじゃないか。正直自分が編み出したわけじゃない。栄三郎の真似をしているだけだ。

「おい、聞いているのか。まさか耳が腐っちまったのか」

 本当にうるさい奴だ。
 時間を巻き戻すって驚異的な力を秘めていなければどこかへ捨ててやるところだ。

「おーーーい。寝坊助、唐変木、ド阿呆」

 ああ、もう。うるさくてかなわいない。付喪神とはみんなそうなんだろうか。まだ、ブツブツ話していやがる。
 聞こえない、聞こえない。無視、無視。
 彰俊はかぶりを振ってトキヒズミから離れようと思ったら、背後から声をかけられた。

「依頼人来ない、つまらない。どっか連れて行って」

 こっちにも少々厄介な幼子がいる。どちらかというと甘えん坊タイプだろうか。だいぶ、アキの声も届くようになり、最近やっと甘えん坊だなと気づき始めたところだ。ただ気にかかることがひとつ。抑揚のなく棒読みで片言のしゃべり方をどうにかしてほしいとは思う。
 感情が読み難い。
 怖い笑顔は相変わらずだし。

 座敷童子猫なる不思議な存在だから、アキにも驚異的な能力がある。この無表情だがどことなく可愛らしさもある幼子に不思議な能力があるとは思えないだろう。前回はどこでもドアのような空間移動出来る扉を開いてくれたり、治癒能力であったりと活躍してくれた。所謂、物の怪だけど良い奴だ。

 ただ問題はもうひとつある。
 二重人格だってことだ。アキコの人格には対応に困る。

「なによ。あたいのこと邪魔者扱いするつもり。酷いじゃない。婚約した間柄だっていうのにさ」
「おい、おい。いつ婚約なんてした。俺はそんな覚えはないぞ」
「もう照れなくたっていいの。ア・キ・ト・シ」

 照れてなんていない。ああ、もうなぜこうなる。けど無下に扱うわけにもいかない。こいつは大切な仕事のパートナーだ。
 ああ、そんな目で見るな。

「あのさ、婚約じゃなくって仕事仲間として契約したんだろう」
「もう、つれないんだから」

 やっぱり困りものだ。どうしてそんな考えになる。思うに妄想癖が酷いんじゃないだろうか。物の怪と婚約する奴がどこにいる。いや、いないとは言えないのかもしれないが間違っても自分はそんなことはしない。
 どうせなら、霊感なんてないほうがよかったのかもしれない。そうだったら、栄三郎から変な仕事を押し付けられることも付喪神や座敷童子猫と過ごすこともなかった。
 幽霊や物の怪が見えちまうってのも疲れるし厄介だ。

「彰俊、遊ぼうよ」

 んっ、アキか。
 もうアキコからアキに入れ替わったのか。二重人格の入れ替わるタイミングってよくわからない。まあいいか。いずれ慣れるだろう。

「よし、依頼もないことだしトキヒズミに留守番してもらってどこかへ行くか」
「うん、行く」

 うっ、背筋がゾクゾクッとする。どうにもアキの笑顔には寒気を感じてしまう。慣れないものだ。なんでそんな怖い笑顔になってしまうのだろう。やっぱり目のせいだろう。こいつの目は睨んでいるように映る。そういう部分もかわいいと思える奴もいるのかもしれないが、自分は苦手だ。なんだか見透かされているように感じてしまう。アキはそんなこと思っていないとわかってはいる。
 早く慣れないと。

「おい、おいらは留守番などしないぞ。一緒に連れて行け。ぼんくら彰俊」
「トキヒズミ。その悪口をどうにかすれば連れて行ってやるぞ」
「ふん、悪口などではない。正直に話しているだけだ。おまえはド阿呆で唐変木でぼんくらではないか」

 まったく腹が立つ。

「彰俊、遊びに行くなんてダメよ。いつ依頼が来るかわからないんだからね」

 なんだ今度はアキコか。

「アキコは遊びに行きたくないのか」
「いいえ、行きたいわよ。彰俊とデートできるんなんて最高だもの。けどね。なんとなく依頼が来そうな予感がするの」
「そうか、おいらはしないけどな」
「トキヒズミは黙っていて」

 おっ、トキヒズミが黙り込んだ。こいつアキコには弱いのか。そういえばこんな場面を以前も見たような。トキヒズミの弱み発見か。

「アキコ、もうずいぶんと依頼は来ていないぞ。なあ、大丈夫じゃないのか」

 おお、トキヒズミが低姿勢だ。いつもこうならいいのに。それはそうと確かにトキヒズミの言う通り依頼はまったく来ていない。

「依頼かぁ。そういえば、あれから誰も来ないな。じいちゃんもあれから姿見せてくれないし」
「阿呆、栄三郎はあの世の人だ。そうそう来られるわけがないだろうが。閻魔様も特別扱いできぬ」

 なんだよ、また強気に戻ったのか。アキコには低姿勢でも自分にはそうならないってことか。
 んっ、その前に今なんて言った。
 幽霊がこの世に来るのに閻魔様の許可がいるのか。それってなんか間違っていないか。許可がいるとしたら神様なんじゃ。トキヒズミの言葉をすべて鵜呑みにすることは危険だろう。疑ってかかったほうがいい。

「どっか行こう」

 またアキに戻った。ころころ替わり過ぎだろう。
 彰俊は嘆息を漏らして、トキヒズミとアキを見遣る。

「そうだなよな、やっぱり行こう。気晴らしになるしな。アキ、アキコを説得しろ。いいな」
「うーむ」

 トキヒズミは腕組みして考え込んでいる。なんだ、どうした。いやいや、トキヒズミのことは気にするな。
 彰俊はトキヒズミから視線を外してアキに話しかけた。

「アキ、どこに行きたい?」
「公園」
「えっ、公園でいいのか」

 頷くアキ。

「おいおい、どうせならもっとゴージャスなところにしようじゃないか。ラスベガスとかでカジノ三昧とか」
「トキヒズミは黙れ」

 まったく行けるわけがないだろう。いや、行けないこともないのか。アキの力を使えば。いやいや、ダメだ。カジノなんか行ったら、全財産失っちまう。

「ふん、阿呆にはそんな甲斐性もないか。それに偉そうに『黙れ』だとはいいご身分だな」

 トキヒズミを無視して「アキ、どこの公園に行こうか」としゃがみ込みながら尋ねた。近所には何ヵ所か公園があった。

「桜井町公園がいい」
「わかった、よし行こう」

 彰俊は微笑み、アキの頭を撫でた。

「あたい、うれしい。もっと撫でて」

 彰俊は慌てて撫でていた手をどけた。なんでまたアキコに替わる。

「あのさ、桜井町公園に行こうってことになったんだが」
「いいわよ」
「いいのか」
「もちろんよ、桜井町公園だったらいいってあたいが言ったの。あたい正解が見えたの」

 そうなのか。けど、正解ってなんだ。ままいいか。
 トキヒズミがすぐ横で文句タラタラ喚いているが、気にせずに胸ポケットに押し込み桜井町公園へと向かった。歩
いて十分くらいのところにある広めの公園だ。小さいがグラウンドもある。草野球をしている時もあるし、ちょっと観戦するのもいいだろう。やっていたらの話だが。

 ポケット中から「公園なんかつまらん。まったく理解に苦しむぞ」との声を耳にしたが、もちろん無視を決め込んだ。

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