9 / 53
第二話「読心術奇譚書」
相変わらずの物の怪たち
しおりを挟む「おい、起きろ。もう昼だぞ」
昼……だからなんだ。
「起きろ、起きろ。寝すぎると阿呆が増すぞ」
まったく嫌味な奴だ。こんなことを口にする奴はただひとり。トキヒズミしかいない。
そんなことよりも腹が痛い。ドンドン飛び跳ねやがって。本当にうるさい奴だ。起きればいいんだろう。
あれ……。なんか変な夢を見ていたような。まあいいか。
ちょっと待てよ、夢じゃないのかも。
この感じは、あの時と同じだ。祖父の栄三郎が亡くなったときも変な夢みたいなものを見た。予知夢なのか。それとも夢を通してどこからか話してきているのか。もしもそうだとすると相当な霊力がある者ってことか。
腹の上で飛び跳ねるトキヒズミを見遣り、ひとつ考えが浮かぶ。
あのご老人は付喪神かもしれないな。いや、古書に何か霊的なものがとり憑いているってこともあるのか。付喪神だったら古書から手足が生えて動き回るんじゃないだろうか。トキヒズミみたいに。
時守彰俊は、大口を開けて欠伸をした。
「ふん、まったく阿呆面しやがって。いくら休みだからとは言え、いつまでも寝腐っているんじゃない。脳が腐っちまうぞ」
まったくこいつは小舅か。舅もいないのに小舅っていうのも変だが、それくらい口やかましい奴だ。
トキヒズミの言葉はある程度聞き流す。これがここ一ヶ月で編み出した秘策だ。なんて、秘策と言えるほどのことじゃないか。正直自分が編み出したわけじゃない。栄三郎の真似をしているだけだ。
「おい、聞いているのか。まさか耳が腐っちまったのか」
本当にうるさい奴だ。
時間を巻き戻すって驚異的な力を秘めていなければどこかへ捨ててやるところだ。
「おーーーい。寝坊助、唐変木、ド阿呆」
ああ、もう。うるさくてかなわいない。付喪神とはみんなそうなんだろうか。まだ、ブツブツ話していやがる。
聞こえない、聞こえない。無視、無視。
彰俊はかぶりを振ってトキヒズミから離れようと思ったら、背後から声をかけられた。
「依頼人来ない、つまらない。どっか連れて行って」
こっちにも少々厄介な幼子がいる。どちらかというと甘えん坊タイプだろうか。だいぶ、アキの声も届くようになり、最近やっと甘えん坊だなと気づき始めたところだ。ただ気にかかることがひとつ。抑揚のなく棒読みで片言のしゃべり方をどうにかしてほしいとは思う。
感情が読み難い。
怖い笑顔は相変わらずだし。
座敷童子猫なる不思議な存在だから、アキにも驚異的な能力がある。この無表情だがどことなく可愛らしさもある幼子に不思議な能力があるとは思えないだろう。前回はどこでもドアのような空間移動出来る扉を開いてくれたり、治癒能力であったりと活躍してくれた。所謂、物の怪だけど良い奴だ。
ただ問題はもうひとつある。
二重人格だってことだ。アキコの人格には対応に困る。
「なによ。あたいのこと邪魔者扱いするつもり。酷いじゃない。婚約した間柄だっていうのにさ」
「おい、おい。いつ婚約なんてした。俺はそんな覚えはないぞ」
「もう照れなくたっていいの。ア・キ・ト・シ」
照れてなんていない。ああ、もうなぜこうなる。けど無下に扱うわけにもいかない。こいつは大切な仕事のパートナーだ。
ああ、そんな目で見るな。
「あのさ、婚約じゃなくって仕事仲間として契約したんだろう」
「もう、つれないんだから」
やっぱり困りものだ。どうしてそんな考えになる。思うに妄想癖が酷いんじゃないだろうか。物の怪と婚約する奴がどこにいる。いや、いないとは言えないのかもしれないが間違っても自分はそんなことはしない。
どうせなら、霊感なんてないほうがよかったのかもしれない。そうだったら、栄三郎から変な仕事を押し付けられることも付喪神や座敷童子猫と過ごすこともなかった。
幽霊や物の怪が見えちまうってのも疲れるし厄介だ。
「彰俊、遊ぼうよ」
んっ、アキか。
もうアキコからアキに入れ替わったのか。二重人格の入れ替わるタイミングってよくわからない。まあいいか。いずれ慣れるだろう。
「よし、依頼もないことだしトキヒズミに留守番してもらってどこかへ行くか」
「うん、行く」
うっ、背筋がゾクゾクッとする。どうにもアキの笑顔には寒気を感じてしまう。慣れないものだ。なんでそんな怖い笑顔になってしまうのだろう。やっぱり目のせいだろう。こいつの目は睨んでいるように映る。そういう部分もかわいいと思える奴もいるのかもしれないが、自分は苦手だ。なんだか見透かされているように感じてしまう。アキはそんなこと思っていないとわかってはいる。
早く慣れないと。
「おい、おいらは留守番などしないぞ。一緒に連れて行け。ぼんくら彰俊」
「トキヒズミ。その悪口をどうにかすれば連れて行ってやるぞ」
「ふん、悪口などではない。正直に話しているだけだ。おまえはド阿呆で唐変木でぼんくらではないか」
まったく腹が立つ。
「彰俊、遊びに行くなんてダメよ。いつ依頼が来るかわからないんだからね」
なんだ今度はアキコか。
「アキコは遊びに行きたくないのか」
「いいえ、行きたいわよ。彰俊とデートできるんなんて最高だもの。けどね。なんとなく依頼が来そうな予感がするの」
「そうか、おいらはしないけどな」
「トキヒズミは黙っていて」
おっ、トキヒズミが黙り込んだ。こいつアキコには弱いのか。そういえばこんな場面を以前も見たような。トキヒズミの弱み発見か。
「アキコ、もうずいぶんと依頼は来ていないぞ。なあ、大丈夫じゃないのか」
おお、トキヒズミが低姿勢だ。いつもこうならいいのに。それはそうと確かにトキヒズミの言う通り依頼はまったく来ていない。
「依頼かぁ。そういえば、あれから誰も来ないな。じいちゃんもあれから姿見せてくれないし」
「阿呆、栄三郎はあの世の人だ。そうそう来られるわけがないだろうが。閻魔様も特別扱いできぬ」
なんだよ、また強気に戻ったのか。アキコには低姿勢でも自分にはそうならないってことか。
んっ、その前に今なんて言った。
幽霊がこの世に来るのに閻魔様の許可がいるのか。それってなんか間違っていないか。許可がいるとしたら神様なんじゃ。トキヒズミの言葉をすべて鵜呑みにすることは危険だろう。疑ってかかったほうがいい。
「どっか行こう」
またアキに戻った。ころころ替わり過ぎだろう。
彰俊は嘆息を漏らして、トキヒズミとアキを見遣る。
「そうだなよな、やっぱり行こう。気晴らしになるしな。アキ、アキコを説得しろ。いいな」
「うーむ」
トキヒズミは腕組みして考え込んでいる。なんだ、どうした。いやいや、トキヒズミのことは気にするな。
彰俊はトキヒズミから視線を外してアキに話しかけた。
「アキ、どこに行きたい?」
「公園」
「えっ、公園でいいのか」
頷くアキ。
「おいおい、どうせならもっとゴージャスなところにしようじゃないか。ラスベガスとかでカジノ三昧とか」
「トキヒズミは黙れ」
まったく行けるわけがないだろう。いや、行けないこともないのか。アキの力を使えば。いやいや、ダメだ。カジノなんか行ったら、全財産失っちまう。
「ふん、阿呆にはそんな甲斐性もないか。それに偉そうに『黙れ』だとはいいご身分だな」
トキヒズミを無視して「アキ、どこの公園に行こうか」としゃがみ込みながら尋ねた。近所には何ヵ所か公園があった。
「桜井町公園がいい」
「わかった、よし行こう」
彰俊は微笑み、アキの頭を撫でた。
「あたい、うれしい。もっと撫でて」
彰俊は慌てて撫でていた手をどけた。なんでまたアキコに替わる。
「あのさ、桜井町公園に行こうってことになったんだが」
「いいわよ」
「いいのか」
「もちろんよ、桜井町公園だったらいいってあたいが言ったの。あたい正解が見えたの」
そうなのか。けど、正解ってなんだ。ままいいか。
トキヒズミがすぐ横で文句タラタラ喚いているが、気にせずに胸ポケットに押し込み桜井町公園へと向かった。歩
いて十分くらいのところにある広めの公園だ。小さいがグラウンドもある。草野球をしている時もあるし、ちょっと観戦するのもいいだろう。やっていたらの話だが。
ポケット中から「公園なんかつまらん。まったく理解に苦しむぞ」との声を耳にしたが、もちろん無視を決め込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
パクチーの王様 ~俺の弟と結婚しろと突然言われて、苦手なパクチー専門店で働いています~
菱沼あゆ
キャラ文芸
クリスマスイブの夜。
幼なじみの圭太に告白された直後にフラれるという奇異な体験をした芽以(めい)。
「家の都合で、お前とは結婚できなくなった。
だから、お前、俺の弟と結婚しろ」
え?
すみません。
もう一度言ってください。
圭太は今まで待たせた詫びに、自分の弟、逸人(はやと)と結婚しろと言う。
いや、全然待ってなかったんですけど……。
しかも、圭太以上にMr.パーフェクトな逸人は、突然、会社を辞め、パクチー専門店を開いているという。
ま、待ってくださいっ。
私、パクチーも貴方の弟さんも苦手なんですけどーっ。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜
二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。
そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。
その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。
どうも美華には不思議な力があるようで…?
行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする
九條葉月
キャラ文芸
「皇帝になったら、迎えに来る」幼なじみとのそんな約束を律儀に守っているうちに結婚適齢期を逃してしまった私。彼は無事皇帝になったみたいだけど、五年経っても迎えに来てくれる様子はない。今度会ったらぶん殴ろうと思う。皇帝陛下に会う機会なんてそうないだろうけど。嘆いていてもしょうがないので結婚はすっぱり諦めて、“神仙術士”として生きていくことに決めました。……だというのに。皇帝陛下。今さら私の前に現れて、一体何のご用ですか?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる