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第一話「時歪の時計」
初任務、そして……(2)
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んっ、ここは。
気づくとどこかの住宅街に立っていた。
あっ、あの子だ。なんだかさっき会った彼女と雰囲気が違う。気持ちの問題だろうか。いや、それだけじゃないだろう。血色もよく元気溌剌って感じに見える。そりゃそうか。死んでしまうかもと沈んだ気持ちと死なんて考えていないだろう彼女とは印象が違くて当然だ。 やっぱり、生きている彼女のほうが綺麗で素敵だ。
制服姿なこともいいのかもしれない。制服フェチとかじゃないけど、なんとなくいい。
彼女は女子高生だったんだ。
「ねぇ、ちょっと。あたいがいるっていうのに、あの子に恋心抱くなんてどういう了見よ。わかっているの、彰俊。浮気はダメなんだからね」
なんだ、なんだ。急に何を言い出す。
「いきなりなんだ。俺はアキコと付き合っているのか。そんなつもりはないぞ」
「そんな酷い。あたいとは遊びだったのね」
「ちょっと、ちょっと」
「ド阿呆の分際で弄(もてあそ)ぶとはな。まったくどうしようもない奴だ」
「だから、違うだろうが」
トキヒズミの奴、おちょくっていやがる。けど、アキコは本気で自分のこと好きなのだろうか。それはそれで困る。それでもうまく付き合っていかなくてはいけない。もちろん仕事仲間としてだ。この仕事を続けていかなきゃいけないのだろうから。
「ほら、馬鹿なこと話していないでサッサと仕事しろ」
「じいちゃん。そうだよな」
「馬鹿なことじゃない。もういいわよ」
アキコはプイとそっぽを向いてなにも言わなくなった。
さてと、死神がどこかにいるはずだけど、えっとどこだろう。
あっ、あいつか。もしかして……あいつが死神か。
彼女の背後に死神と思われる者が近づいている。一見ストーカーかと思ってしまうがあれは人ではない。普通の人間のように映っているが、他の人には見えていないのかもしれない。とにかく、このままだとまずい。
「ちょっと待った」
彰俊は大声を張り上げて死神の肩に触れた。そのとたん、手が燃えるように熱くなり痺れ出し呻き声をあげる。
「阿呆、死神に触る奴があるか」
手は焼けただれてしまい、想像を絶する痛みに顔を歪めていた。歯を食いしばって痛みに耐える。
「ぼ、ぼく、出番」
素早い動きでアキがやってくると、自分の手を包み込むように触れて何かをぶつぶつ念じた。不思議なことに焼けただれケロイド状になっていた手がもとに戻っていく。ものの数分で赤みもなくなり完治してしまった。
凄い。まったく痛みを感じなくなった。
アキにはそんな力もあったのか。どこでもドアのような扉を出現させて場所を移動できたり、治癒能力もあったりとなんとも頼りになる存在だ。もちろん、トキヒズミの時を戻す力も凄いが、アキの力のほうを褒め称えたくなる。きっとそれはトキヒズミの口が悪いせいだろう。それだけではないか。時を戻すときの気持ち悪さのせいもあるか。
どうにもトキヒズミは苦手だ。あっ、アキコも苦手かもしれない。そういえばアキコにはどんな力があるのだろう。今のところ、何もしていないけど。何の力もないってことはないだろうな。
んっ、今はアキだろう。アキコじゃないよな。
「ぼ、ぼく。アキ」
アキコでないことにホッとする。その隣にいるトキヒズミをチラリと見遣り溜め息を漏らした。
「なんか文句でもあるのか、ド阿呆」
「いや、なにも」
「彰俊、まあ、これも経験だ。まだまだ学ぶことが多いからな。頑張るのだぞ」
「ああ、じいちゃん」
目の前にはキョトンとした顔をする依頼人の彼女が立ち尽くしていた。そりゃそうだ、突然見ず知らずの者に『ちょっと待った』と声をかけられたうえに苦しみ出すのだから。彼女には死神もトキヒズミもアキ&アキコも栄三郎も見えちゃいない。居るのは自分だけ。
彼女に声をかけたわけじゃないけど、彼女にしてみれば声をかけられたと思っても仕方がないことだ。
「あ、ごめん。人違いだった」
彰俊は苦笑いをしてそう告げた。死神も手帳を確認して間違いに気づいたようだ。まったく、もっとしっかり任務に取りかかってほしいものだ。
「どこにでも阿呆はいるものだ。まったく」
彰俊はトキヒズミに文句を言いかけてやめた。目の前に彼女がいるのに一人で怒ったりしたらそれこそ阿呆だ。ああ、腹が立つ。
絶対にトキヒズミは自分のことを馬鹿にしている。今に見ていろ。
彰俊は小さく息を吐き出して冷静になれと自分に言い聞かせた。
彼女の死はこれで免れた。きっとお礼を言われることもないんだろう。助けたということ自体彼女は認識していない。依頼人だということさえ知らない。それはかまわないのだが、恩人どころかおそらく不審者だと思っているに違いない。
それだけは避けたいところだが、話しかけるわけにもいかない。警察に通報されでもしたら最悪だ。ここは頭を下げて立ち去ろう。
ああ、もう残念でならない。
遠くで「サキ、どうしたの?」という声が耳に届く。彼女の名前は『サキ』というらしい。それだけわかっただけでもよしとしよう。正直、自分のタイプだ。それはどうでもいいことか。
死神はというと失態を犯すところだったと頭を下げてお礼を言うとパッと消え去ってしまった。
「任務完了だな」
「ああ」
簡単な任務だったにも関わらず、物凄い疲労感が残った。時を戻ることは尋常じゃない体力を使うようだ。
「さてと、わしはそろそろ行くとしよう。また、依頼が来たら来るからな。そうそう、おまえたちのことは、あの世にも伝えておくからな。時守家の管理者交代は無事完了したってな。ちなみにあの世界隈では、『時守なんでも相談所』なんて呼ばれているらしいぞ。まあ、普通の人には知られざる相談所ではあるがな」
『時守なんでも相談所』。なんだよそれは。なんでもってそんな便利屋みたいなネーミングはどうなんだ。まさか、トイレ掃除をしてくれなんて依頼はないだろうな。彰俊は溜め息を漏らすと変な依頼がないことを祈った。
果たして、この先どうなるのだろうか。
まあ、こいつらとうまくやっていくしかないか。
アキがまた怖い笑みを浮かべている。トキヒズミはいつの間にかただの懐中時計に成り代わり自分の胸ポケットに収まっていた。
ああ、眠い。眠くて堪らない。
「あっ、あたいが添い寝してあげるわよ」
それは遠慮したい。疲れが増しそうだ。
「なによ、嫌なわけ」
「いや、それはその……」
「遠慮しないで。あたいが疲れを癒してあげるからさ」
だから、余計に疲れる……。あっ、ダメだ、ダメ。変なことは考えちゃいけなかった。ほら、アキコが睨みつけている。
んっ、他にも誰かの視線が……。これは殺気か。
まさかな。きっと気のせいだ。恨まれる覚えはない。
気づくとどこかの住宅街に立っていた。
あっ、あの子だ。なんだかさっき会った彼女と雰囲気が違う。気持ちの問題だろうか。いや、それだけじゃないだろう。血色もよく元気溌剌って感じに見える。そりゃそうか。死んでしまうかもと沈んだ気持ちと死なんて考えていないだろう彼女とは印象が違くて当然だ。 やっぱり、生きている彼女のほうが綺麗で素敵だ。
制服姿なこともいいのかもしれない。制服フェチとかじゃないけど、なんとなくいい。
彼女は女子高生だったんだ。
「ねぇ、ちょっと。あたいがいるっていうのに、あの子に恋心抱くなんてどういう了見よ。わかっているの、彰俊。浮気はダメなんだからね」
なんだ、なんだ。急に何を言い出す。
「いきなりなんだ。俺はアキコと付き合っているのか。そんなつもりはないぞ」
「そんな酷い。あたいとは遊びだったのね」
「ちょっと、ちょっと」
「ド阿呆の分際で弄(もてあそ)ぶとはな。まったくどうしようもない奴だ」
「だから、違うだろうが」
トキヒズミの奴、おちょくっていやがる。けど、アキコは本気で自分のこと好きなのだろうか。それはそれで困る。それでもうまく付き合っていかなくてはいけない。もちろん仕事仲間としてだ。この仕事を続けていかなきゃいけないのだろうから。
「ほら、馬鹿なこと話していないでサッサと仕事しろ」
「じいちゃん。そうだよな」
「馬鹿なことじゃない。もういいわよ」
アキコはプイとそっぽを向いてなにも言わなくなった。
さてと、死神がどこかにいるはずだけど、えっとどこだろう。
あっ、あいつか。もしかして……あいつが死神か。
彼女の背後に死神と思われる者が近づいている。一見ストーカーかと思ってしまうがあれは人ではない。普通の人間のように映っているが、他の人には見えていないのかもしれない。とにかく、このままだとまずい。
「ちょっと待った」
彰俊は大声を張り上げて死神の肩に触れた。そのとたん、手が燃えるように熱くなり痺れ出し呻き声をあげる。
「阿呆、死神に触る奴があるか」
手は焼けただれてしまい、想像を絶する痛みに顔を歪めていた。歯を食いしばって痛みに耐える。
「ぼ、ぼく、出番」
素早い動きでアキがやってくると、自分の手を包み込むように触れて何かをぶつぶつ念じた。不思議なことに焼けただれケロイド状になっていた手がもとに戻っていく。ものの数分で赤みもなくなり完治してしまった。
凄い。まったく痛みを感じなくなった。
アキにはそんな力もあったのか。どこでもドアのような扉を出現させて場所を移動できたり、治癒能力もあったりとなんとも頼りになる存在だ。もちろん、トキヒズミの時を戻す力も凄いが、アキの力のほうを褒め称えたくなる。きっとそれはトキヒズミの口が悪いせいだろう。それだけではないか。時を戻すときの気持ち悪さのせいもあるか。
どうにもトキヒズミは苦手だ。あっ、アキコも苦手かもしれない。そういえばアキコにはどんな力があるのだろう。今のところ、何もしていないけど。何の力もないってことはないだろうな。
んっ、今はアキだろう。アキコじゃないよな。
「ぼ、ぼく。アキ」
アキコでないことにホッとする。その隣にいるトキヒズミをチラリと見遣り溜め息を漏らした。
「なんか文句でもあるのか、ド阿呆」
「いや、なにも」
「彰俊、まあ、これも経験だ。まだまだ学ぶことが多いからな。頑張るのだぞ」
「ああ、じいちゃん」
目の前にはキョトンとした顔をする依頼人の彼女が立ち尽くしていた。そりゃそうだ、突然見ず知らずの者に『ちょっと待った』と声をかけられたうえに苦しみ出すのだから。彼女には死神もトキヒズミもアキ&アキコも栄三郎も見えちゃいない。居るのは自分だけ。
彼女に声をかけたわけじゃないけど、彼女にしてみれば声をかけられたと思っても仕方がないことだ。
「あ、ごめん。人違いだった」
彰俊は苦笑いをしてそう告げた。死神も手帳を確認して間違いに気づいたようだ。まったく、もっとしっかり任務に取りかかってほしいものだ。
「どこにでも阿呆はいるものだ。まったく」
彰俊はトキヒズミに文句を言いかけてやめた。目の前に彼女がいるのに一人で怒ったりしたらそれこそ阿呆だ。ああ、腹が立つ。
絶対にトキヒズミは自分のことを馬鹿にしている。今に見ていろ。
彰俊は小さく息を吐き出して冷静になれと自分に言い聞かせた。
彼女の死はこれで免れた。きっとお礼を言われることもないんだろう。助けたということ自体彼女は認識していない。依頼人だということさえ知らない。それはかまわないのだが、恩人どころかおそらく不審者だと思っているに違いない。
それだけは避けたいところだが、話しかけるわけにもいかない。警察に通報されでもしたら最悪だ。ここは頭を下げて立ち去ろう。
ああ、もう残念でならない。
遠くで「サキ、どうしたの?」という声が耳に届く。彼女の名前は『サキ』というらしい。それだけわかっただけでもよしとしよう。正直、自分のタイプだ。それはどうでもいいことか。
死神はというと失態を犯すところだったと頭を下げてお礼を言うとパッと消え去ってしまった。
「任務完了だな」
「ああ」
簡単な任務だったにも関わらず、物凄い疲労感が残った。時を戻ることは尋常じゃない体力を使うようだ。
「さてと、わしはそろそろ行くとしよう。また、依頼が来たら来るからな。そうそう、おまえたちのことは、あの世にも伝えておくからな。時守家の管理者交代は無事完了したってな。ちなみにあの世界隈では、『時守なんでも相談所』なんて呼ばれているらしいぞ。まあ、普通の人には知られざる相談所ではあるがな」
『時守なんでも相談所』。なんだよそれは。なんでもってそんな便利屋みたいなネーミングはどうなんだ。まさか、トイレ掃除をしてくれなんて依頼はないだろうな。彰俊は溜め息を漏らすと変な依頼がないことを祈った。
果たして、この先どうなるのだろうか。
まあ、こいつらとうまくやっていくしかないか。
アキがまた怖い笑みを浮かべている。トキヒズミはいつの間にかただの懐中時計に成り代わり自分の胸ポケットに収まっていた。
ああ、眠い。眠くて堪らない。
「あっ、あたいが添い寝してあげるわよ」
それは遠慮したい。疲れが増しそうだ。
「なによ、嫌なわけ」
「いや、それはその……」
「遠慮しないで。あたいが疲れを癒してあげるからさ」
だから、余計に疲れる……。あっ、ダメだ、ダメ。変なことは考えちゃいけなかった。ほら、アキコが睨みつけている。
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まさかな。きっと気のせいだ。恨まれる覚えはない。
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