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第一話「時歪の時計」
夢ではなかった
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父の洋治が運転する車で五時間かけて、栄三郎の住む家へ。
到着して家にあがるとすでに親戚一同が勢ぞろいしていた。
まだ朝の七時を回ったばかりだというのに、随分とみんな早いものだ。それに、みんなやけに慌ただしく動き回っている。いろいろと葬儀の準備をしているようだ。けど、そんなに動き回る必要なんかないと思うけど。葬儀屋さんに任せることになっているってさっき聞いたばかりだ。
んっ、なんだろう。違和感が……。何かがおかしい。
首を捻りながらも彰俊はじっくりと動き回っている親戚を観察し続けた。大広間と呼べるかなり広い畳部屋に、疲れ切ったように座り込む親戚たち。いや、祖父の突然の死に気持ちが沈んでいるのだろう。そんな親戚と相反して、その周りを行ったり来たりと忙しなくしている親戚たち。どうみても、おかしい。
あっ、向こう側が少し透けている。そういうことか。
あいつらは幽霊だ。
いつものことだ。生きている人間と幽霊との区別がつかないときがある。霊感が人並み外れて強いというのも疲れるものだ。まったくなにをそんなに動き回っているのだろうか。幽霊といったら陰に隠れて静かにしているものだろう。いや、それは生きている者が考える勝手なイメージだ。確かにそういう幽霊もいる。けど、生きている人と同じように活動している幽霊もいる。さっさと成仏してあの世へ行けばいいのに。そのほうがきっと楽しいはずだ。
んっ、そうでもないのだろうか。幽霊としてこの世を彷徨うことを楽しんでいる幽霊もいるのだろうか。ちょっと待てよ。あの幽霊は普通の幽霊とは違うのかもしれない。
どことなく光を帯びているような……。目の錯覚だろうか。低級な幽霊ではないのか。
ほら、そこにいる奴なんか笑っているじゃないか。
そう思っていたら右肩がほんわかと温かくなり振り返る。
幽霊がいて話しかけてきた。それも一人じゃない。不思議だ。温かみのある幽霊もいるのか。やっぱりこの幽霊たちは何かが違う。波動が違うのだろうか。高級霊ってことか。そうかもしれない。
「まだ、栄三郎は奥に寝ているぞ」
「ふん、おまえには後継者の資質があるようだ」
「まったくもって忙しいったらありゃしない」
「栄三郎には世話になったからな。お主も頑張れよ」
幽霊たちは勝手気ままに話しかけては通り過ぎていく。慣れとは恐ろしいものだ。まったく怖いという感情が湧いてこない。いや、ここにいる温かな気をも持つ幽霊だから怖さを感じないのだろう。おそらく、この家のご先祖様たちに違いない。この家を守っているのかもしれない。それにしても、何がそんなに忙しいんだか。
まあいい。それよりも栄三郎だ。
祖父の栄三郎の遺体がまだ家の奥の部屋に寝かされているらしい。それなら行ったほうがいい。そう思ったのだが親戚たちに声をかけられてなかなか行けない。
愛想笑いを浮かべて話に相槌を打っていたら、父が「じいちゃんに逢いにいこうか」と声をかけてきた。彰俊はホッと息を吐き立ち上がる。助かった。正直、親戚の話に付き合うのは疲れる。
栄三郎は顔に白い布をかけられて布団に寝かされていた。
父は栄三郎の顔にかけられた布を取り、「いままでありがとう。ゆっくり休んでくれな」と声をかけていた。
血色の悪い顔だがどことなく幸せそうな顔立ちにも見える。今にも笑いそうだ。なんとなくムクッと起き上がってきそうな雰囲気もある。そんなことはありえないけど、亡くなったなんていまだに思えない。実感がない。夢で逢ったせいかもしれない。夢じゃないかもしれないけど。
栄三郎の顔をじっと見る父は頬を涙で濡らしていた。突然過ぎる死に、父もいろんな思いが込み上げているのだろう。そんな思いに触れて自分も目頭が熱くなってくる。そのとき、栄三郎が笑みを浮かべてドクンと心臓が揺れた。
死人が笑うわけがない。目を擦りもう一度栄三郎の顔を見る。ほら、笑ってなどいない。そうだとしたら笑ったのは……。
『じいちゃん、いるのか』
部屋のあちこちに目だけ動かして気配を探る。
「もちろんいるぞ。時歪の時計を渡さなきゃいけないからな」
今の声は確かに栄三郎だ。どこだ、どこにいる。
時歪の時計って、もしかして。やはりあれは夢じゃなかったのか。現実にあったことなんだろうか。そうかもしれない。ふと懐中時計が脳裏に浮かぶ。
時歪の時計か。時を巻き戻す時計とかなんとか。そんなもの実際にあるのか。
あっ……いた。
栄三郎が部屋の入り口に立っていた。けど、布団にも横になっている。彰俊は交互にふたりの栄三郎を見遣る。何度目か入り口に目を向けたとき「わしは幽霊だ。はっはっは」と物凄く楽しそうな顔をしていた。そりゃそうだ。わかっているさ。けど、なんか不思議だ。
「彰俊よ、ちょっと外へおいで」
「でも」
「んっ、何か言ったか」
父がこっちに振り向き問い掛けてきた。
「あ、なんでもないよ。そうだ、俺ちょっと庭の方行ってみたいんだけどいいかな」
「ああ、それは構わない。行ってきなさい」
彰俊は頷き、栄三郎の待つ庭へと歩みを進めた。
なんだか変な感じだ。祖父の栄三郎はすでに亡くなっているのに話せるのだから。こういうとき、霊感があってよかったと思う。これは自分だけの特権だ。これが悪霊だったら話は違ってくる。まあ、それは当たり前のことか。誰だって悪霊と話なんてしたくはない。けど、来ちまう。目が合ったらすごい勢いで迫って来る。
思い出してしまった。
彰俊はかぶりを振って嫌な記憶を振り払う。こんなこと思い出したら、また悪霊がやって来てしまうかもしれない。忘れろ。それが一番だ。
「彰俊、おい。どうかしたか」
「あっ、いやなんでもないよ」
「そうか、なら蔵まで来てくれ。そこに時歪はある」
「蔵かぁ。昔、勝手に入って怒られたっけ」
彰俊は頬を緩ませ栄三郎に顔を向けた。
「そんなこともあったな。懐かしいものだ。が、もうそんなこともなくなってしまうんだな。もっとおまえに伝えたいことがあったんだが」
「今、話してくれればいいじゃないか。俺は幽霊が見えるんだから、いつだって話せるよ」
「はっはっは。そうだな。でもな、わしはいずれあの世に旅立たねばいけないからな。そんな簡単に逢えなくなってしまうんだよ。それがこの世とあの世の理だ」
逢えなくなるのか。あの幽霊たちみたいにこの世に残るって選択はしないのか。しないよな。あの世へ行くのが普通だ。あいつらが変わっているだけだ。いや、変わっているわけじゃないのだろうか。あの世のことなんてよくわからない。だからといって教えてもらうつもりもないけど。
あの世か。いずれ旅立ってしまうのか。栄三郎に目を向けて小さく息を吐く。
なんだか胸が痛い。
「おいおい、そんなに落ち込まなくても。すぐにいなくなるってわけじゃない。おまえが一人前になるまではいるから気にするな」
それって、自分がまだ一人前じゃないってことか。否定はできないけど。そういうことなら、一人前になれなきゃずっといられるってことか。いや、それはダメだ。早く一人前にならなきゃ栄三郎が成仏できない。そんなかわいそうなことできない。
んっ、かわいそうなのか。どうなのだろう。再び栄三郎に目を向ける。
「んっ、どうした。顔に何かついているか」
「あっ、いや」
「なんだ、変な奴だな」
栄三郎と話をしていたらいつの間にか蔵の前に着ていた。
なんとなく肌寒い。背筋がゾクゾクッとした。この感じは嫌な霊でもいるのかもしれない。
「ほれ、行くぞ」
栄三郎はスッと蔵の中に消えてしまう。
「ちょっと、じいちゃん。扉開けてもらわないと入れないよ」
扉を叩き、中に声をかける。すると、閉ざされた扉からにゅっと顔だけ飛び出してきて、思わず仰け反って尻餅をついてしまった。
「あはは、すまん。ちょっと待っていろよ」
顔が引っ込み、軋む音をたてながら扉が少しずつ開き始めた。扉が開いた瞬間、なんとも言えない独特の匂いがふわりと漂ってくる。これって古い本の匂いかも。一瞬嫌悪感を抱いたが、すぐにそんな嫌な感じじゃなくなっていった。不思議とワクワクしてきた。あまり見られない物がこの蔵には存在する。ガラクタも紛れているだろうけど、高価な値打ちものもある。
「彰俊、良からぬことを考えるんじゃないぞ。ここにある物は、付喪神と化しているものが多いからな。つまり年代ものの価値あるものが多いということだ。気を付けて扱わなくてはいけないぞ。売ろうだなんて考えるな。そこのところを肝に銘じろよ」
「はい」
栄三郎はお見通しか。そりゃそうか。金目のものがあればそう考えるのが普通だ。栄三郎が大切にしていたものだろうから売ろうだなんてことはしない。絶対にとは言えないけど。もしかしたら、両親が売ろうと考えるかもしれない。それは自分にはとめられない。
「彰俊、ほら受け取れ。他のものには手を触れるんじゃない。危険も孕んでいるからな。下手をすると命を取られるぞ」
命を取られる……。確かに、ちょっとだけ嫌な気も感じる。さっき感じた寒気はそのせいか。俺のことを快く思っていない者もいるかもしれない。いや、者ではなく物か。いやいや、付喪神ならば者でいいのか。どちらにせよ気を付けなきゃ。
ブルッと身体を震わせ、手渡された物に目をやる。夢で見た懐中時計そのものだった。
裏側にも『時歪』とある。間違いない。
これが時間を巻き戻す時計なのか。本当にそんなことありえるのだろうか。過去に戻れるってことだろう。巻き戻すだけなのだろうか。未来にはいけないのだろうか。
「じいちゃん……」
あれ、ここは。
気づくと蔵の外に出ていた。しかも栄三郎の姿はどこにもなく、生ぬるい風が頬を撫でていく。なんとなく「またな」と声をかけられたように感じた。
到着して家にあがるとすでに親戚一同が勢ぞろいしていた。
まだ朝の七時を回ったばかりだというのに、随分とみんな早いものだ。それに、みんなやけに慌ただしく動き回っている。いろいろと葬儀の準備をしているようだ。けど、そんなに動き回る必要なんかないと思うけど。葬儀屋さんに任せることになっているってさっき聞いたばかりだ。
んっ、なんだろう。違和感が……。何かがおかしい。
首を捻りながらも彰俊はじっくりと動き回っている親戚を観察し続けた。大広間と呼べるかなり広い畳部屋に、疲れ切ったように座り込む親戚たち。いや、祖父の突然の死に気持ちが沈んでいるのだろう。そんな親戚と相反して、その周りを行ったり来たりと忙しなくしている親戚たち。どうみても、おかしい。
あっ、向こう側が少し透けている。そういうことか。
あいつらは幽霊だ。
いつものことだ。生きている人間と幽霊との区別がつかないときがある。霊感が人並み外れて強いというのも疲れるものだ。まったくなにをそんなに動き回っているのだろうか。幽霊といったら陰に隠れて静かにしているものだろう。いや、それは生きている者が考える勝手なイメージだ。確かにそういう幽霊もいる。けど、生きている人と同じように活動している幽霊もいる。さっさと成仏してあの世へ行けばいいのに。そのほうがきっと楽しいはずだ。
んっ、そうでもないのだろうか。幽霊としてこの世を彷徨うことを楽しんでいる幽霊もいるのだろうか。ちょっと待てよ。あの幽霊は普通の幽霊とは違うのかもしれない。
どことなく光を帯びているような……。目の錯覚だろうか。低級な幽霊ではないのか。
ほら、そこにいる奴なんか笑っているじゃないか。
そう思っていたら右肩がほんわかと温かくなり振り返る。
幽霊がいて話しかけてきた。それも一人じゃない。不思議だ。温かみのある幽霊もいるのか。やっぱりこの幽霊たちは何かが違う。波動が違うのだろうか。高級霊ってことか。そうかもしれない。
「まだ、栄三郎は奥に寝ているぞ」
「ふん、おまえには後継者の資質があるようだ」
「まったくもって忙しいったらありゃしない」
「栄三郎には世話になったからな。お主も頑張れよ」
幽霊たちは勝手気ままに話しかけては通り過ぎていく。慣れとは恐ろしいものだ。まったく怖いという感情が湧いてこない。いや、ここにいる温かな気をも持つ幽霊だから怖さを感じないのだろう。おそらく、この家のご先祖様たちに違いない。この家を守っているのかもしれない。それにしても、何がそんなに忙しいんだか。
まあいい。それよりも栄三郎だ。
祖父の栄三郎の遺体がまだ家の奥の部屋に寝かされているらしい。それなら行ったほうがいい。そう思ったのだが親戚たちに声をかけられてなかなか行けない。
愛想笑いを浮かべて話に相槌を打っていたら、父が「じいちゃんに逢いにいこうか」と声をかけてきた。彰俊はホッと息を吐き立ち上がる。助かった。正直、親戚の話に付き合うのは疲れる。
栄三郎は顔に白い布をかけられて布団に寝かされていた。
父は栄三郎の顔にかけられた布を取り、「いままでありがとう。ゆっくり休んでくれな」と声をかけていた。
血色の悪い顔だがどことなく幸せそうな顔立ちにも見える。今にも笑いそうだ。なんとなくムクッと起き上がってきそうな雰囲気もある。そんなことはありえないけど、亡くなったなんていまだに思えない。実感がない。夢で逢ったせいかもしれない。夢じゃないかもしれないけど。
栄三郎の顔をじっと見る父は頬を涙で濡らしていた。突然過ぎる死に、父もいろんな思いが込み上げているのだろう。そんな思いに触れて自分も目頭が熱くなってくる。そのとき、栄三郎が笑みを浮かべてドクンと心臓が揺れた。
死人が笑うわけがない。目を擦りもう一度栄三郎の顔を見る。ほら、笑ってなどいない。そうだとしたら笑ったのは……。
『じいちゃん、いるのか』
部屋のあちこちに目だけ動かして気配を探る。
「もちろんいるぞ。時歪の時計を渡さなきゃいけないからな」
今の声は確かに栄三郎だ。どこだ、どこにいる。
時歪の時計って、もしかして。やはりあれは夢じゃなかったのか。現実にあったことなんだろうか。そうかもしれない。ふと懐中時計が脳裏に浮かぶ。
時歪の時計か。時を巻き戻す時計とかなんとか。そんなもの実際にあるのか。
あっ……いた。
栄三郎が部屋の入り口に立っていた。けど、布団にも横になっている。彰俊は交互にふたりの栄三郎を見遣る。何度目か入り口に目を向けたとき「わしは幽霊だ。はっはっは」と物凄く楽しそうな顔をしていた。そりゃそうだ。わかっているさ。けど、なんか不思議だ。
「彰俊よ、ちょっと外へおいで」
「でも」
「んっ、何か言ったか」
父がこっちに振り向き問い掛けてきた。
「あ、なんでもないよ。そうだ、俺ちょっと庭の方行ってみたいんだけどいいかな」
「ああ、それは構わない。行ってきなさい」
彰俊は頷き、栄三郎の待つ庭へと歩みを進めた。
なんだか変な感じだ。祖父の栄三郎はすでに亡くなっているのに話せるのだから。こういうとき、霊感があってよかったと思う。これは自分だけの特権だ。これが悪霊だったら話は違ってくる。まあ、それは当たり前のことか。誰だって悪霊と話なんてしたくはない。けど、来ちまう。目が合ったらすごい勢いで迫って来る。
思い出してしまった。
彰俊はかぶりを振って嫌な記憶を振り払う。こんなこと思い出したら、また悪霊がやって来てしまうかもしれない。忘れろ。それが一番だ。
「彰俊、おい。どうかしたか」
「あっ、いやなんでもないよ」
「そうか、なら蔵まで来てくれ。そこに時歪はある」
「蔵かぁ。昔、勝手に入って怒られたっけ」
彰俊は頬を緩ませ栄三郎に顔を向けた。
「そんなこともあったな。懐かしいものだ。が、もうそんなこともなくなってしまうんだな。もっとおまえに伝えたいことがあったんだが」
「今、話してくれればいいじゃないか。俺は幽霊が見えるんだから、いつだって話せるよ」
「はっはっは。そうだな。でもな、わしはいずれあの世に旅立たねばいけないからな。そんな簡単に逢えなくなってしまうんだよ。それがこの世とあの世の理だ」
逢えなくなるのか。あの幽霊たちみたいにこの世に残るって選択はしないのか。しないよな。あの世へ行くのが普通だ。あいつらが変わっているだけだ。いや、変わっているわけじゃないのだろうか。あの世のことなんてよくわからない。だからといって教えてもらうつもりもないけど。
あの世か。いずれ旅立ってしまうのか。栄三郎に目を向けて小さく息を吐く。
なんだか胸が痛い。
「おいおい、そんなに落ち込まなくても。すぐにいなくなるってわけじゃない。おまえが一人前になるまではいるから気にするな」
それって、自分がまだ一人前じゃないってことか。否定はできないけど。そういうことなら、一人前になれなきゃずっといられるってことか。いや、それはダメだ。早く一人前にならなきゃ栄三郎が成仏できない。そんなかわいそうなことできない。
んっ、かわいそうなのか。どうなのだろう。再び栄三郎に目を向ける。
「んっ、どうした。顔に何かついているか」
「あっ、いや」
「なんだ、変な奴だな」
栄三郎と話をしていたらいつの間にか蔵の前に着ていた。
なんとなく肌寒い。背筋がゾクゾクッとした。この感じは嫌な霊でもいるのかもしれない。
「ほれ、行くぞ」
栄三郎はスッと蔵の中に消えてしまう。
「ちょっと、じいちゃん。扉開けてもらわないと入れないよ」
扉を叩き、中に声をかける。すると、閉ざされた扉からにゅっと顔だけ飛び出してきて、思わず仰け反って尻餅をついてしまった。
「あはは、すまん。ちょっと待っていろよ」
顔が引っ込み、軋む音をたてながら扉が少しずつ開き始めた。扉が開いた瞬間、なんとも言えない独特の匂いがふわりと漂ってくる。これって古い本の匂いかも。一瞬嫌悪感を抱いたが、すぐにそんな嫌な感じじゃなくなっていった。不思議とワクワクしてきた。あまり見られない物がこの蔵には存在する。ガラクタも紛れているだろうけど、高価な値打ちものもある。
「彰俊、良からぬことを考えるんじゃないぞ。ここにある物は、付喪神と化しているものが多いからな。つまり年代ものの価値あるものが多いということだ。気を付けて扱わなくてはいけないぞ。売ろうだなんて考えるな。そこのところを肝に銘じろよ」
「はい」
栄三郎はお見通しか。そりゃそうか。金目のものがあればそう考えるのが普通だ。栄三郎が大切にしていたものだろうから売ろうだなんてことはしない。絶対にとは言えないけど。もしかしたら、両親が売ろうと考えるかもしれない。それは自分にはとめられない。
「彰俊、ほら受け取れ。他のものには手を触れるんじゃない。危険も孕んでいるからな。下手をすると命を取られるぞ」
命を取られる……。確かに、ちょっとだけ嫌な気も感じる。さっき感じた寒気はそのせいか。俺のことを快く思っていない者もいるかもしれない。いや、者ではなく物か。いやいや、付喪神ならば者でいいのか。どちらにせよ気を付けなきゃ。
ブルッと身体を震わせ、手渡された物に目をやる。夢で見た懐中時計そのものだった。
裏側にも『時歪』とある。間違いない。
これが時間を巻き戻す時計なのか。本当にそんなことありえるのだろうか。過去に戻れるってことだろう。巻き戻すだけなのだろうか。未来にはいけないのだろうか。
「じいちゃん……」
あれ、ここは。
気づくと蔵の外に出ていた。しかも栄三郎の姿はどこにもなく、生ぬるい風が頬を撫でていく。なんとなく「またな」と声をかけられたように感じた。
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