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第二章『猫神学園に入学だ』
お昼だ、お昼
しおりを挟むなんだかいい匂いがしてきた。
ごちそうの匂いだ。
心寧はパチリと目を開くと鼻をヒクヒクさせる。おいしいごはんはどこ。
「まったく、落ちこぼれに食わせるメシはないってんだ」
ミヤビと目が合い、キッと睨みつけた。
「なによ、落ちこぼれだなんてひどいじゃない」
「ひどくない。四時間目の授業、おまえ聞いていたのか。グッスリ夢の国だっただろう。マルと一緒だな」
えっ、四時間目。
そういえば、まったく記憶にない。もう、なんでそんなことに。
そうだ体育の授業でクタクタになって寝ちゃったんだ。あっ、コマチも怖い顔している。そりゃそうだ。それだけのことをしてしまったんだから。
ごはん抜きと言われてもしかたがない。
反省しなきゃ。
ああ、もう。なんていい匂いなの。けど、我慢。
授業中に寝るだなんて、もう。バカ、バカ、バカ。
「わたし、ちょっと外の風に当たってくる」
「えっ、心寧ちゃん。お昼ごはんの時間だよ。行くなら食べてからにしなよ」
本当にムサシはやさしい。けど、やっぱり食べる資格がない。
「ありがとう。けど、わたし授業で寝ちゃったし。ここはやっぱり食べちゃいけない気がするの」
「なに、言っているの。四時間目はみんな寝ていたんだよ」
えっ、そうなの。聞けば、四時間目は瞑想の時間らしかった。けど、、みんな寝てしまったらしい。マネキ先生もはじめてのことだからしかたがないと寝かせておいてくれたみたい。
「あはは、騙されてやんの」
もうミヤビのいじわる。じゃなんでコマチが怖い顔をしているの。んっ、コマチってもともとそういう目つきだったのかも。それに厳しい子だって思っているからコマチの顔が怖く見えてしまったのだろう。そうか。それじゃ食べてもいいのか。
「はい、はい。お昼ごはんの時間です。今から料理を配りますからね」
マネキ先生が大きな台車を押して入って来た。あれ、もうひとりいる。誰だろう。そんなことよりごはんだ、ごはん。
たまらくいい香りが教室に広がっていく。
順番に料理が運ばれていく。
早く、早く、こっちにも運んで。
「はい、どうそ」
「ありがとう」
運ばれてきたのはサンマを焼いたものと鶏のササミをゆでたものだった。
おお、これはごちそうだ。乙葉には悪いけど、カリカリのキャットフードとは全然違う。あれはあれでおいしいとは思うけど、やっぱり魚と肉が出てきたらこっちのほうがいいに決まっている。
心寧はササミにかぶりつこうとしたがマネキ先生に止められてしまった。
「みんな、みんな。食べるのはちょっと待って。きちんと『いただきます』と言ってからだよ。それにこちらにいる方はおいしい料理を作ってくれたイコマさんだ。お礼を言おうね」
心寧は真っ先に「イコマ先生、ありがとう」と大きな声で叫んだ。それに続けとみんなも「ありがとう」と口にした。
「あら、あら、あたしは先生じゃないのよ。それでも先生だなんて呼ばれるとうれしいわね」
「それじゃ、みんないただこう」
「はい、いただきます」
全員の言葉が重なり合って教室に響く。
心寧はササミにかぶりつく。口の中においしさが広がっていき「うま、うま、うま」と唸りながらほおばった。サンマもパクリ。
ああ、最高。天にも昇る心地だ。
「このサンマ、おいらみたいに太っていて脂のっていてうまいな。北海道産か。こっちのササミもいける。宮崎産の地鶏じゃないのか」
「あら、すごいのね。食べただけでよく産地までわかるわね」
イコマが驚いた表情をしている。
「あはは、おいらの舌は特別なんだ。それはそうとデザートはないのか。材料さえあればおいらが手作りのスイーツ作ってやるのにな」
「ノワールくん、残念だけどデザートはなしだ。けど、おいしい特製ミルクはあるぞ」
「そうか、残念。だけど特製なのか。それならミルクでもいいか」
「なあ、先生。特製ってなにが違うんだ」
やっぱりミヤビがつかかってきた。
「んっ、違いかい。それは猫のお腹にもやさしいミルクってことだ。このミルクならお腹を壊すことはない。だから安心して飲みなさい」
「おいらはいつもそれ飲んでいるぞ」
「おっ、そうか。ノワールくんはいろいろ知っているようだから、今度お昼の献立会議にも参加してもらおうかな。どうですイコマ先生」
「嫌ですよ。マネキ先生まで。あたしは先生じゃなんですから。けど、ノワールくんの献立会議参加はいいと思います」
「やったー。それならそのときはデザートも提案しようっと」
ノワールってただの食いしん坊じゃないのか。料理もできるっぽいし、産地を当てるなんてすごい。
それに引き換え自分はただの食いしん坊だ。心寧はすぐに頭を振り、自分は自分。これからがんばっていけばいいの。きっと大丈夫。
『がんばれば、きっと報われる』
そうでしょ、お母さん。
猫神学園に来てよかった。そう思える日がきっと来るはず。
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