霊界アドバイザー黒神

景綱

文字の大きさ
上 下
8 / 11
霊界アドバイザー黒神

新米神様は辛い?

しおりを挟む
 柳田智は心筋梗塞にて永眠。
 デジタル妖怪は現れることはなく無事天に召された。
 もちろん、死後本人には真実を話した。死については納得してくれたようだが神様になることについては腑に落ちない点が多々あるようだ。わからなくもない。

 日給一万円と言ったが死んでしまっては使いようがない。それならその金はどこにと思えば霊界積み立て貯金として溜まっていくという。通帳まである。それは徳を積んでいるということになるらしく生まれ変わったときにその分いい人生を送れるという。
 これは良いことじゃないかと思っただろう。だが違う。柳田の場合は神様になったのだから生まれ変わることはない。
 納得できないだろう。けど神様として皆の願いを叶えることで幸せな気分を味わえる。はたしてこれが良いのか悪いのか。その人の考え方次第だろう。

 俺は御免だ。
 柳田も同じ考えなのかもしれない。

「黒神、もう神様なんてやりたくない」

 三ヶ月経った今になってそんなことを言い出した。

「どうした。もう弱音を吐いているのか。柳田、もっと頑張れ」
「けど、願いと言ったら『どうか神様、競馬で大当たりしますように』とか『宝くじ一等が当たりますように』とか『イケメンと出会えますように』とかでさ。もっと切実な悩みはないのかよ。なんだか溜め息ばっかり出ちまう」

 そういうことか。それにしても柳田は神様らしくない。親しみやすいという点ではいいのかもしれないが、まだまだ修行が足りないと言えよう。

「そう言う願いはスルーすりゃいいだろう。けど、相手をよく見てから判断しないとな。かなり切羽詰まって神頼みしかないって来ている奴もいるかもしれないからな」
「切羽詰まってって」
「例えば会社が倒産しそうで金がいるとか。保証人になってしまったあげく借金返済をしなくちゃならなくなったとかさ」
「そうか。確かにそうだな」
「あっ、だからってすぐに宝くじを当てさせて終わりってのも違うぞ。どんだけそいつが頑張っているかだ。苦労するのもそいつのためだ。うまい具合に会社を立て直せるように導くようにしてやればいい。借金についても同じだ。頑張った分だけ返済ができるように仕向けてやればいい。そうじゃないとそいつの人生が狂っちまうかもしれないからな」

 柳田は深く頷いていた。

「わかった。やってみる」

 気づけば柳田の目がキラキラしていた。神様としてヤル気が漲っている。

「なんだか黒神のほうが神様みたいではないか。ふぉふぉふぉ」

 うぉっ、びっくりした。
 いつから社長は隣にいたんだ。神出鬼没な人だ。
 あっ、当たり前か。ここにいるのは皆死んでいる者なんだから。

「うまくやっているようですね。黒神は意外と神様の育成に向いているのかもしれませんね」

 な、なんだ。今度は猿渡か。
 ここの奴らは皆脅かすのが好きなのか。残るは寧々か。寧々には脅かされてたまるか。
 そこだ。
 ペシッ。

「痛い。何すんだ、この野郎。主任だからって暴力振るっていいと思うなよ。返り討ちにしてやる」
「ごめん、ごめん。そんなつもりじゃ」

 そうだ。頭を撫でればいい。寧々の爪攻撃を紙一重のところでかわして頭を撫でる。豹変がすぐに解除されてとろんとした目をして喉を鳴らす寧々。

「こっちこそ、ごめん。つい怒ってしまって。わざとじゃないんでしょ」
「ああ、もちろん。振り返ったら手が当たっちまったんだよ」
「ならいいや」

 ホッと胸を撫で下ろす。
 あれ、柳田がいない。帰ったのか。まあ納得してくれたんだろうからいいだろう。まだまだ神様としては新米だ。俺が教えてやれることはしてやらないといけないだろう。それもここの仕事のひとつみたいだから。
 んっ、新米は俺も同じか。そのわりにはいろいろわかっているのはなぜだろう。人でいるときからそういう奴だったのだろうか。もしかしたらそうかもしれない。

「あれ、ベンチに誰かいる」

 本当だ。外のベンチに誰かがいる。女性か。あの人は地獄行きなのだろうか。それとも天国行きか。特別措置でここにってことはないだろう。そうそうあるものではないらしいからここに来ることはない。寧々も誰か来ると報告を受けていないから間違いないだろう。けど、あのベンチは俺が座っていたところと同じだ。

 俺は女性をじっとみつめた。
 あれ、なぜだろう。あの人を見ていたら涙が……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

引き出しのモトちゃん

深瀬ミズ
絵本
子供が描いたような絵をイメージして作った緩い挿絵の絵本です。 アートに親しめるようにコラージュや、コンクリートポエトリー(眺める詩)も入れてます。 あらすじ: 主人公の女の子の机には秘密があった。女の子が最後に目にしたものとは… 子供の頃に現れるイマジナリーフレンドをテーマとした作品です。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

コント:通信販売

藍染 迅
ライト文芸
ステイホームあるある? 届いてみたら、思ってたのと違う。そんな時、あなたならどうする? 通販オペレーターとお客さんとの不毛な会話。 非日常的な日常をお楽しみください。

月曜日の方違さんは、たどりつけない

猫村まぬる
ライト文芸
「わたし、月曜日にはぜったいにまっすぐにたどりつけないの」 寝坊、迷子、自然災害、ありえない街、多元世界、時空移動、シロクマ……。 クラスメイトの方違くるりさんはちょっと内気で小柄な、ごく普通の女子高校生。だけどなぜか、月曜日には目的地にたどりつけない。そしてそんな方違さんと出会ってしまった、クラスメイトの「僕」、苗村まもる。二人は月曜日のトラブルをいっしょに乗り越えるうちに、だんだん互いに特別な存在になってゆく。日本のどこかの山間の田舎町を舞台にした、一年十二か月の物語。 第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます、

はじまりと終わりの間婚

便葉
ライト文芸
画家を目指す夢追い人に 最高のチャンスが舞い降りた 夢にまで見たフィレンツェ留学 でも、先立つ物が… ある男性との一年間の結婚生活を ビジネスとして受け入れた お互いのメリットは計り知れない モテないおじさんの無謀な計画に 協力するだけだったのに 全然、素敵な王子様なんですけど~ はじまりから想定外… きっと終わりもその間も、間違いなく想定外… ミチャと私と風磨 たったの一年間で解決できるはずない これは切実なミチャに恋する二人の物語 「戸籍に傷をつけても構わないなら、 僕は300万円の報酬を支払うよ 君がよければの話だけど」

瞬間、青く燃ゆ

葛城騰成
ライト文芸
 ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。  時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。    どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?  狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。 春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。  やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。 第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作

処理中です...