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霊界アドバイザー黒神
新米神様は辛い?
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柳田智は心筋梗塞にて永眠。
デジタル妖怪は現れることはなく無事天に召された。
もちろん、死後本人には真実を話した。死については納得してくれたようだが神様になることについては腑に落ちない点が多々あるようだ。わからなくもない。
日給一万円と言ったが死んでしまっては使いようがない。それならその金はどこにと思えば霊界積み立て貯金として溜まっていくという。通帳まである。それは徳を積んでいるということになるらしく生まれ変わったときにその分いい人生を送れるという。
これは良いことじゃないかと思っただろう。だが違う。柳田の場合は神様になったのだから生まれ変わることはない。
納得できないだろう。けど神様として皆の願いを叶えることで幸せな気分を味わえる。はたしてこれが良いのか悪いのか。その人の考え方次第だろう。
俺は御免だ。
柳田も同じ考えなのかもしれない。
「黒神、もう神様なんてやりたくない」
三ヶ月経った今になってそんなことを言い出した。
「どうした。もう弱音を吐いているのか。柳田、もっと頑張れ」
「けど、願いと言ったら『どうか神様、競馬で大当たりしますように』とか『宝くじ一等が当たりますように』とか『イケメンと出会えますように』とかでさ。もっと切実な悩みはないのかよ。なんだか溜め息ばっかり出ちまう」
そういうことか。それにしても柳田は神様らしくない。親しみやすいという点ではいいのかもしれないが、まだまだ修行が足りないと言えよう。
「そう言う願いはスルーすりゃいいだろう。けど、相手をよく見てから判断しないとな。かなり切羽詰まって神頼みしかないって来ている奴もいるかもしれないからな」
「切羽詰まってって」
「例えば会社が倒産しそうで金がいるとか。保証人になってしまったあげく借金返済をしなくちゃならなくなったとかさ」
「そうか。確かにそうだな」
「あっ、だからってすぐに宝くじを当てさせて終わりってのも違うぞ。どんだけそいつが頑張っているかだ。苦労するのもそいつのためだ。うまい具合に会社を立て直せるように導くようにしてやればいい。借金についても同じだ。頑張った分だけ返済ができるように仕向けてやればいい。そうじゃないとそいつの人生が狂っちまうかもしれないからな」
柳田は深く頷いていた。
「わかった。やってみる」
気づけば柳田の目がキラキラしていた。神様としてヤル気が漲っている。
「なんだか黒神のほうが神様みたいではないか。ふぉふぉふぉ」
うぉっ、びっくりした。
いつから社長は隣にいたんだ。神出鬼没な人だ。
あっ、当たり前か。ここにいるのは皆死んでいる者なんだから。
「うまくやっているようですね。黒神は意外と神様の育成に向いているのかもしれませんね」
な、なんだ。今度は猿渡か。
ここの奴らは皆脅かすのが好きなのか。残るは寧々か。寧々には脅かされてたまるか。
そこだ。
ペシッ。
「痛い。何すんだ、この野郎。主任だからって暴力振るっていいと思うなよ。返り討ちにしてやる」
「ごめん、ごめん。そんなつもりじゃ」
そうだ。頭を撫でればいい。寧々の爪攻撃を紙一重のところで躱して頭を撫でる。豹変がすぐに解除されてとろんとした目をして喉を鳴らす寧々。
「こっちこそ、ごめん。つい怒ってしまって。わざとじゃないんでしょ」
「ああ、もちろん。振り返ったら手が当たっちまったんだよ」
「ならいいや」
ホッと胸を撫で下ろす。
あれ、柳田がいない。帰ったのか。まあ納得してくれたんだろうからいいだろう。まだまだ神様としては新米だ。俺が教えてやれることはしてやらないといけないだろう。それもここの仕事のひとつみたいだから。
んっ、新米は俺も同じか。そのわりにはいろいろわかっているのはなぜだろう。人でいるときからそういう奴だったのだろうか。もしかしたらそうかもしれない。
「あれ、ベンチに誰かいる」
本当だ。外のベンチに誰かがいる。女性か。あの人は地獄行きなのだろうか。それとも天国行きか。特別措置でここにってことはないだろう。そうそうあるものではないらしいからここに来ることはない。寧々も誰か来ると報告を受けていないから間違いないだろう。けど、あのベンチは俺が座っていたところと同じだ。
俺は女性をじっとみつめた。
あれ、なぜだろう。あの人を見ていたら涙が……。
デジタル妖怪は現れることはなく無事天に召された。
もちろん、死後本人には真実を話した。死については納得してくれたようだが神様になることについては腑に落ちない点が多々あるようだ。わからなくもない。
日給一万円と言ったが死んでしまっては使いようがない。それならその金はどこにと思えば霊界積み立て貯金として溜まっていくという。通帳まである。それは徳を積んでいるということになるらしく生まれ変わったときにその分いい人生を送れるという。
これは良いことじゃないかと思っただろう。だが違う。柳田の場合は神様になったのだから生まれ変わることはない。
納得できないだろう。けど神様として皆の願いを叶えることで幸せな気分を味わえる。はたしてこれが良いのか悪いのか。その人の考え方次第だろう。
俺は御免だ。
柳田も同じ考えなのかもしれない。
「黒神、もう神様なんてやりたくない」
三ヶ月経った今になってそんなことを言い出した。
「どうした。もう弱音を吐いているのか。柳田、もっと頑張れ」
「けど、願いと言ったら『どうか神様、競馬で大当たりしますように』とか『宝くじ一等が当たりますように』とか『イケメンと出会えますように』とかでさ。もっと切実な悩みはないのかよ。なんだか溜め息ばっかり出ちまう」
そういうことか。それにしても柳田は神様らしくない。親しみやすいという点ではいいのかもしれないが、まだまだ修行が足りないと言えよう。
「そう言う願いはスルーすりゃいいだろう。けど、相手をよく見てから判断しないとな。かなり切羽詰まって神頼みしかないって来ている奴もいるかもしれないからな」
「切羽詰まってって」
「例えば会社が倒産しそうで金がいるとか。保証人になってしまったあげく借金返済をしなくちゃならなくなったとかさ」
「そうか。確かにそうだな」
「あっ、だからってすぐに宝くじを当てさせて終わりってのも違うぞ。どんだけそいつが頑張っているかだ。苦労するのもそいつのためだ。うまい具合に会社を立て直せるように導くようにしてやればいい。借金についても同じだ。頑張った分だけ返済ができるように仕向けてやればいい。そうじゃないとそいつの人生が狂っちまうかもしれないからな」
柳田は深く頷いていた。
「わかった。やってみる」
気づけば柳田の目がキラキラしていた。神様としてヤル気が漲っている。
「なんだか黒神のほうが神様みたいではないか。ふぉふぉふぉ」
うぉっ、びっくりした。
いつから社長は隣にいたんだ。神出鬼没な人だ。
あっ、当たり前か。ここにいるのは皆死んでいる者なんだから。
「うまくやっているようですね。黒神は意外と神様の育成に向いているのかもしれませんね」
な、なんだ。今度は猿渡か。
ここの奴らは皆脅かすのが好きなのか。残るは寧々か。寧々には脅かされてたまるか。
そこだ。
ペシッ。
「痛い。何すんだ、この野郎。主任だからって暴力振るっていいと思うなよ。返り討ちにしてやる」
「ごめん、ごめん。そんなつもりじゃ」
そうだ。頭を撫でればいい。寧々の爪攻撃を紙一重のところで躱して頭を撫でる。豹変がすぐに解除されてとろんとした目をして喉を鳴らす寧々。
「こっちこそ、ごめん。つい怒ってしまって。わざとじゃないんでしょ」
「ああ、もちろん。振り返ったら手が当たっちまったんだよ」
「ならいいや」
ホッと胸を撫で下ろす。
あれ、柳田がいない。帰ったのか。まあ納得してくれたんだろうからいいだろう。まだまだ神様としては新米だ。俺が教えてやれることはしてやらないといけないだろう。それもここの仕事のひとつみたいだから。
んっ、新米は俺も同じか。そのわりにはいろいろわかっているのはなぜだろう。人でいるときからそういう奴だったのだろうか。もしかしたらそうかもしれない。
「あれ、ベンチに誰かいる」
本当だ。外のベンチに誰かがいる。女性か。あの人は地獄行きなのだろうか。それとも天国行きか。特別措置でここにってことはないだろう。そうそうあるものではないらしいからここに来ることはない。寧々も誰か来ると報告を受けていないから間違いないだろう。けど、あのベンチは俺が座っていたところと同じだ。
俺は女性をじっとみつめた。
あれ、なぜだろう。あの人を見ていたら涙が……。
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