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霊界アドバイザー黒神
神様候補者
しおりを挟む初任務は神様候補者の説得か。
難しいのだろう。きっと。
どんな人なんだろう神様候補者って。神様候補になるくらいだからいい人なんだろうとは思うが想像がつかない。
寧々の話では神様だけじゃなく妖怪や死神候補の対応もするらしい。幽霊の手助けっていうのもあるらしい。
まさかこんな会社があるとは思わなかった。
死んでもいろいろ大変なのかもしれない。地獄より大変なところはないだろうけど。
「ほら、この人なんか良さそうよ」
寧々に候補者リストを見せてもらいその人の顔を見遣る。
見た感じはどこにでもいるような平凡な顔だ。だがかなりの善行をしている。本人は善行をしているつもりはないようだ。どんなに嫌なことされた相手だとしても困っていれば助けてあげるという所謂お人好しだ。
自分が苦労するだけなのになぜそこまでするのだろう。ある意味すでに神様的な人かもしれない。
俺にはできない。
いい人ほど短命だなんて話を聞くが本当なんだな。二十三歳、心筋梗塞で死亡か。そうとうストレス溜め込んでいたんじゃないだろうか。
『柳田智』
この人にしよう。
おや、目の錯覚だろうか。なんだか心筋梗塞の文字に重なって違う文字が見える。えっと、なんて書いてあるのだろう。文字だっていうのはわかるがどうにもはっきりしない。目がおかしくなったわけじゃないだろう。
「ちょっと、これ変じゃないか」
「なに、なに」
寧々はリストをじっと見遣り顔を強張らせた。どうしたのだろう。
「どうかしたか」
「早いところ対応してあげないと大変なことになる。この人、放っておいたら自殺しちゃうかも」
「自殺」
「そう、心筋梗塞の裏側で自殺という文字が蠢いているの。だから自殺だけは阻止しないと。せっかく神様候補なのに地獄行きになっちゃう」
確かにそれは大変だ。
「あのさ、もしも自殺してしまったら俺みたいにここに連れてくればいいんじゃないのか」
「ダメ、それはできない。黒神は閻魔の計らいがあったから特別なの。特別なんてそうそうできるものじゃない」
そうか。そりゃそうだ。特別措置だって話していた。それじゃどうする。急いでそいつのところに行ったほうがいいのか。
「おっ、いたいた」
うわっ、まぶしい。
「なんだそんなにわしの頭は光っているか。いやいや、そんなことはどうでもいい。言い忘れたことがある。黒神覚、おまえを営業主任に任命する。以上。それじゃ頑張れよ」
それだけ言うと社長室に戻ってしまった。
「おい、こら、待て。ハゲ社長。なんでこいつが営業主任なんだよ。あたいは、あたいはもう二百七十年働いているっていうのにさ。おかしいだろう。馬鹿にしてんじゃねぇぞ。目ん玉ひっくり返して奥歯ガタガタいわせてやろうか。あたいはずっと平社員なのか。おい、出て来い。鍵かけやがったな」
寧々が扉をドンドン叩き喚いている。
やめろと止めたいところだが巻き添えを喰らいそうで何もできずにいると猿渡がどこからともなくやってきて寧々の頭を撫でた。その瞬間、寧々はおとなしくなって「ごめんなさい」と平謝りをしていた。
なんだかな。
んっ、もしかして頭を撫でてやればおとなしくなるのか。そうかもしれない。これは覚えておいて損はない。
「ねぇ、黒神。私の上司になっちゃったけどため口でもいい。ダメなら敬語使うけど」
「いいよ。ため口でも」
寧々の顔が晴れやかになり「ありがとう」との言葉と同時に腕に頬ずりをし出した。
可愛い女の子にこんなことされるとなんだか照れる。けど、猫又なんだった。しかもそうとうな高齢だ。二百七十年働いているっていったい何歳なのだろう。そう思ったら頬ずりする寧々を引き剥したくなったがそのままにしておいた。また豹変されたら嫌だからだ。
「あのさ、仕事のことだけど」
「あっ、そうだったね」
「『柳田智』。この人に決めようと思うんだけど、どうしたらいいと思う。急いだほうがいいだろう」
「うん、うん、そうだね。この人、救ってやんないとね。それじゃまずは定番のアルバイト情報誌掲載作戦からにしようか。手っ取り早いし」
「アルバイト情報誌」
「そう、そう。これ」
寧々が取り出したのはまさしくアルバイト情報誌。ただ聞いたこともない名前の情報誌だ。『ANY』だって。訊けば『ANOYO』の略だとか。『どれか』という意味の『ANY』じゃないのか。どうにも縁起の悪い名前だ。そういえばここの会社名がそうだった。ここはあの世とこの世の狭間だって言っていたのに会社名は『ANOYO』なのか。細かいこと気にしても仕方がないか。
「なあ、こんなんでうまくいくのか。こんな怪し気な情報誌なんて手に取らないんじゃないのか」
「大丈夫、そこは抜け目ないわ。ちゃんと見つけて読むよう仕向けるの。もちろん、ネットにも掲載するわよ。ただし柳田さんしかみつけられないように細工はするけどね。必ずどっちか見るからさ」
そうなのか。そんなことができるのか。
それにしても怪し過ぎるアルバイト募集記事だ。
『日給一万円。神様求む。あなたは今日から神様です。ここで一緒にみんなを救いましょう』
こんなんで『はい、なります』なんてなるはずがない。それに神様の日給が一万円ってどうなのだろう。神様って大変そうだし安いんじゃ。そういう問題じゃないか。
よく見りゃ、『死神募集中!』だの『妖怪になりませんか』なんてものもある。おかしなアルバイト情報誌だ。
まあこれを見て本当に神様や死神や妖怪になるとは思わないだろう。何かイベントで着ぐるみでも着るのかと思うのかもしれない。いや、そんなこと思わないか。ふざけたアルバイト情報誌だと捨てられるのがオチだ。違うのか。
寧々はうまくいくって確信しているような雰囲気だけど。
どうなるか、とにかくやってみよう。
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