霊界アドバイザー黒神

景綱

文字の大きさ
上 下
4 / 11
霊界アドバイザー黒神

神様候補者

しおりを挟む

 初任務は神様候補者の説得か。
 難しいのだろう。きっと。
 どんな人なんだろう神様候補者って。神様候補になるくらいだからいい人なんだろうとは思うが想像がつかない。
 寧々の話では神様だけじゃなく妖怪や死神候補の対応もするらしい。幽霊の手助けっていうのもあるらしい。
 まさかこんな会社があるとは思わなかった。
 死んでもいろいろ大変なのかもしれない。地獄より大変なところはないだろうけど。

「ほら、この人なんか良さそうよ」

 寧々に候補者リストを見せてもらいその人の顔を見遣る。
 見た感じはどこにでもいるような平凡な顔だ。だがかなりの善行をしている。本人は善行をしているつもりはないようだ。どんなに嫌なことされた相手だとしても困っていれば助けてあげるという所謂いわゆるお人好しだ。
 自分が苦労するだけなのになぜそこまでするのだろう。ある意味すでに神様的な人かもしれない。
 俺にはできない。
 いい人ほど短命だなんて話を聞くが本当なんだな。二十三歳、心筋梗塞で死亡か。そうとうストレス溜め込んでいたんじゃないだろうか。

柳田智やなぎださとし

 この人にしよう。
 おや、目の錯覚だろうか。なんだか心筋梗塞の文字に重なって違う文字が見える。えっと、なんて書いてあるのだろう。文字だっていうのはわかるがどうにもはっきりしない。目がおかしくなったわけじゃないだろう。

「ちょっと、これ変じゃないか」
「なに、なに」

 寧々はリストをじっと見遣り顔を強張らせた。どうしたのだろう。

「どうかしたか」
「早いところ対応してあげないと大変なことになる。この人、放っておいたら自殺しちゃうかも」
「自殺」
「そう、心筋梗塞の裏側で自殺という文字がうごめいているの。だから自殺だけは阻止しないと。せっかく神様候補なのに地獄行きになっちゃう」

 確かにそれは大変だ。

「あのさ、もしも自殺してしまったら俺みたいにここに連れてくればいいんじゃないのか」
「ダメ、それはできない。黒神は閻魔の計らいがあったから特別なの。特別なんてそうそうできるものじゃない」

 そうか。そりゃそうだ。特別措置だって話していた。それじゃどうする。急いでそいつのところに行ったほうがいいのか。

「おっ、いたいた」

 うわっ、まぶしい。

「なんだそんなにわしの頭は光っているか。いやいや、そんなことはどうでもいい。言い忘れたことがある。黒神覚、おまえを営業主任に任命する。以上。それじゃ頑張れよ」

 それだけ言うと社長室に戻ってしまった。

「おい、こら、待て。ハゲ社長。なんでこいつが営業主任なんだよ。あたいは、あたいはもう二百七十年働いているっていうのにさ。おかしいだろう。馬鹿にしてんじゃねぇぞ。目ん玉ひっくり返して奥歯ガタガタいわせてやろうか。あたいはずっと平社員なのか。おい、出て来い。鍵かけやがったな」

 寧々が扉をドンドン叩き喚いている。
 やめろと止めたいところだが巻き添えを喰らいそうで何もできずにいると猿渡がどこからともなくやってきて寧々の頭を撫でた。その瞬間、寧々はおとなしくなって「ごめんなさい」と平謝りをしていた。
 なんだかな。
 んっ、もしかして頭を撫でてやればおとなしくなるのか。そうかもしれない。これは覚えておいて損はない。

「ねぇ、黒神。私の上司になっちゃったけどため口でもいい。ダメなら敬語使うけど」
「いいよ。ため口でも」

 寧々の顔が晴れやかになり「ありがとう」との言葉と同時に腕に頬ずりをし出した。
 可愛い女の子にこんなことされるとなんだか照れる。けど、猫又なんだった。しかもそうとうな高齢だ。二百七十年働いているっていったい何歳なのだろう。そう思ったら頬ずりする寧々を引き剥したくなったがそのままにしておいた。また豹変されたら嫌だからだ。

「あのさ、仕事のことだけど」
「あっ、そうだったね」
「『柳田智』。この人に決めようと思うんだけど、どうしたらいいと思う。急いだほうがいいだろう」
「うん、うん、そうだね。この人、救ってやんないとね。それじゃまずは定番のアルバイト情報誌掲載作戦からにしようか。手っ取り早いし」
「アルバイト情報誌」
「そう、そう。これ」

 寧々が取り出したのはまさしくアルバイト情報誌。ただ聞いたこともない名前の情報誌だ。『ANY』だって。訊けば『ANOYOあのよ』の略だとか。『どれか』という意味の『ANY』じゃないのか。どうにも縁起の悪い名前だ。そういえばここの会社名がそうだった。ここはあの世とこの世の狭間だって言っていたのに会社名は『ANOYO』なのか。細かいこと気にしても仕方がないか。

「なあ、こんなんでうまくいくのか。こんな怪し気な情報誌なんて手に取らないんじゃないのか」
「大丈夫、そこは抜け目ないわ。ちゃんと見つけて読むよう仕向けるの。もちろん、ネットにも掲載するわよ。ただし柳田さんしかみつけられないように細工はするけどね。必ずどっちか見るからさ」

 そうなのか。そんなことができるのか。
 それにしても怪し過ぎるアルバイト募集記事だ。

『日給一万円。神様求む。あなたは今日から神様です。ここで一緒にみんなを救いましょう』

 こんなんで『はい、なります』なんてなるはずがない。それに神様の日給が一万円ってどうなのだろう。神様って大変そうだし安いんじゃ。そういう問題じゃないか。

 よく見りゃ、『死神募集中!』だの『妖怪になりませんか』なんてものもある。おかしなアルバイト情報誌だ。
 まあこれを見て本当に神様や死神や妖怪になるとは思わないだろう。何かイベントで着ぐるみでも着るのかと思うのかもしれない。いや、そんなこと思わないか。ふざけたアルバイト情報誌だと捨てられるのがオチだ。違うのか。

 寧々はうまくいくって確信しているような雰囲気だけど。
 どうなるか、とにかくやってみよう。

しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【R15】メイド・イン・ヘブン

あおみなみ
ライト文芸
「私はここしか知らないけれど、多分ここは天国だと思う」 ミステリアスな美青年「ナル」と、恋人の「ベル」。 年の差カップルには、大きな秘密があった。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

暴走族のお姫様、総長のお兄ちゃんに溺愛されてます♡

五菜みやみ
ライト文芸
〈あらすじ〉 ワケあり家族の日常譚……! これは暴走族「天翔」の総長を務める嶺川家の長男(17歳)と 妹の長女(4歳)が、仲間たちと過ごす日常を描いた物語──。 不良少年のお兄ちゃんが、浸すら幼女に振り回されながら、癒やし癒やされ、兄妹愛を育む日常系ストーリー。 ※他サイトでも投稿しています。

峽(はざま)

黒蝶
ライト文芸
私には、誰にも言えない秘密がある。 どうなるのかなんて分からない。 そんな私の日常の物語。 ※病気に偏見をお持ちの方は読まないでください。 ※症状はあくまで一例です。 ※『*』の印がある話は若干の吸血表現があります。 ※読んだあと体調が悪くなられても責任は負いかねます。 自己責任でお読みください。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

処理中です...