52 / 59
第四話「ツキが逃げ行く足音を止めろ」
瑠璃とともにやってきた者
しおりを挟む瑠璃が路子の家にやってきた。
「いらっしゃい」
「今日はお招きありがとうございます。これお口にあうかわかりませんけど、シフォンケーキ作ってきたんです」
「おやおや、気を使わなくてよかったんだけどねぇ」
路子は目が三日月みたいになり口元をほころばしていた。
瑠璃は居間に通されると促さるまま座った。
康成はなんとなく玄関外が気になり見回してみたが特に何も変わったところはなかった。誰かの視線を感じた気がしたのに。玄関扉を閉めて、再びサッと扉を開けてみた。
んっ、あれは。
一瞬だがふさふさの尻尾が見えた。気のせいじゃないと思う。
「康成、いいから来なさい」
路子に声をかけられて居間へと足を向ける。
瑠璃とこころが笑い声をあげて話し込んでいた。そこに混ざろうと思ったのだが路子に手招きされてキッチンのほうへと向かう。
「なに、路子さん」
「気づいたんじゃないかい」
「えっ、気づいたって……。もしかして、狐のこと」
路子はにんまりとして頷いた。
さっきのふさふさの尻尾はどう見ても狐だ。
狐が何か関係あるのだろうか。まさか狐が瑠璃に災いを招いている張本人なのか。災いというのは大袈裟か。
「路子さん、あの狐が悪さをしているのか。なら退治しなきゃ」
「馬鹿だねぇ。康成はまだ修行が足りないようだねぇ」
「えっ、違うの」
康成は少し考えて、そういえば悪意も敵意も感じない。康成は、先日瑠璃が見送ってくれたときのことが頭に浮かんだ。寂しい気持ちが伝わってきたことを思い出す。
あれはさっきの狐の念だったのかもしれない。
寂しいってどういうことだろうか。
「何か気づいたかい、康成」
「あの狐は寂しいのかなって」
「ほほう、いいところついているね」
「狐と話せないのかな。あいつすぐに隠れてしまうみたいだし難しいのかな」
「おいらが連れて来てやるよ」
突然の声に振り返ると小烏天狗がいた。いつの間に。キンまでいるじゃないか。そういえば路子が連れて来るように話していたと思い出す。
「シユウかい」
「路子様、お久しぶりです」
シユウっていうのか。
「様っていうのはよしておくれよ。ところでハネンはいないのかい」
「いるよ、ここにいるよ」
小烏天狗がもうひとり登場した。小さくても身なりは山伏みたいな恰好だった。天狗とはやはり違う。小さくても立派な翼があるし、嘴が目につく。
「狐のことは無理に連れて来ることはないねぇ」
「そうなのか。じゃ、おいらたち必要ないのか」
「いや、天眼の力を借りたい」
天眼の力⁉
どんな力だろう。
「そうか、よかった。これでひとつ徳が積める。ハネンよかったな」
「うん、よかった。よかった」
「路子さん、天眼の力って何」
「おや、康成は知らなかったのかい。そうだねぇ。簡単に言ったらあらゆるものを見通す力ってことかねぇ。未来や過去も見ることができるだろう」
未来や過去を見通す。そんなのありなのか。未来は知りたいけど、見ないほうがいいようなきもする。過去も同じか。そういえば子龍のスイケイに未来を見せてもらったじゃないか。あれも天眼の力なのか。なら、子烏天狗じゃなくてもよかったのでは。そう思ったがきっと何かあるのだろう。路子が呼んだのだから。
「それでどうする」
「そうだねぇ。瑠璃さんがよく転ぶようになったきっかけのようなものを知りたいねぇ」
「お安い御用だ」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ニンジャマスター・ダイヤ
竹井ゴールド
キャラ文芸
沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。
大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。
沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる