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第四話「ツキが逃げ行く足音を止めろ」
寝ずに待っていた路子
しおりを挟む玄関扉を開けると微かにテレビの音が聞こえてきた。奥の部屋から明かりも漏れている。いつもだったら路子は寝ている時間なのにテーブルに肘をつけて見ているのか見ていないのかわからないテレビをぼんやりみつめていた
「路子さん」
路子は振り返り「おかえり」と優しい笑みを浮かべた。
「もしかして帰りを待っていてくれたんですか」
時計の針は午後十時を回っていた。無理して起きていなくてもよかったのに。心配してくれていたのだろう。きっと。
「まあねぇ。ちょっと気になっていたもんだから」
こころは路子の隣の席に座り「心配してくれたんだ。ありがとうね」と微笑んだ。
路子も頬を緩ませて「当たり前のことだよ」とこころの手を握った。
「それで、どうだったんだい」
路子は瑠璃のことが気になっているようで話を促してきた。
こころは今日のことをかいつまんで話しはじめると路子は頷きながら聞き入っていた。
「なるほどねぇ」
路子は少し黙り何かを考えているようだった。康成は路子が口を開くのを待つことにした。こころも同じ考えのようだ。
「一度、会ってみたいねぇ。そうだ、康成。瑠璃さんと会って何かを感じたりはしなかったのかい」
何か。どうだったろう。康成は天井に目を向けてひとつ深呼吸をした。
「これといって感じなかったと思うけど。ただよく転んだり足をぶつけたりする人だったかな」
「それだけかい。まだまだだねぇ」
どういうことだろう。まだまだって。まさか、何かが取り憑いているとか。
「もしかして霊的なものってこと」
「いや、まだそうとは言えないねえ。だから会ってみたいんだよ」
路子は会ってもいないのに何か感じ取っているのだろうか。それとも、智也から何か聞いているのだろうか。智也とは限らないか。路子の力は計り知れないところがあるから、いろんなところに情報網を張っているのかもしれない。神様や仏様の知り合いが多そうだし。
それにしても、何かあるとしたら気づけなかった自分はまだまだだ。
何かが瑠璃を転ばせているのだろうか。幽霊の気配はなかったと思うけど。気づかなかっただけなのだろうか。幽霊じゃないとしたら、なんだ。妖怪とか。まさか、それはないか。いや、ないとは言えない。
そういえば、瑠璃のことってわけじゃないけど気になることはあったか。
「あのさ、路子さん、関係あるかわからないけど瑠璃さんの家で一瞬だけ何かが光った気がしたんだよ。それに何かの視線を感じた。気のせいかもしれないけど」
「なるほど、そうかい。私が聞きたかったのはそれだよ」
路子は少し口角をあげていた。なにか思い当ることでもあるのだろうか。
「それって瑠璃さんと何か関係があるのかな」
「どうだろうねぇ。やっぱりここへ連れて来てもらったほうがよさそうだねぇ。それではっきりするだろうよ」
はっきりするか。
「じゃ、瑠璃さんに連絡してみるね」
こころは早速スマホを手に取りメールを送っているようだ。
「ニャニャッ」
「おっ、キン。おまえ、小烏天狗につかまれて飛んで帰っただろう」
「えっ、そうなの。そんなことできるの」
こころが口をポカンとあけてこっちに目を向けている。
キンの返事はない。当たり前だけど。いきなり話し出されても怖い。こころはキンの頭を撫でてひたすら「すごいね」と感心していた。
「そうか、小烏天狗と一緒にいたのかい。キンちゃんは流石だねぇ。ここへも一緒に連れておいで」
「フニャ」
な、なんだ、変な鳴き方して。そう思ったらキンがくしゃみをした。鼻がむず痒いだけだったのだろうか。それとも上空が寒くて風邪でも引いたのか。
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