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第四話「ツキが逃げ行く足音を止めろ」
何かが気にかかる
しおりを挟む「今日はごちそうさまでした」
「いえいえ、私の料理でよかったらいつでも食べに来てね。今日は、楽しかったわ」
瑠璃は下まで降りて見送ってくれた。
康成はこころとともにお辞儀をして駅へと向かおうとしたところで背後から瑠璃の悲鳴が聞こえて振り返る。
「あっ、大丈夫だから」
何があったのか瑠璃は尻餅をついて笑っていた。
大丈夫と言われてもそのまま帰ることも憚られる。瑠璃のもとへ戻ってみると「野良猫が飛び出してきて驚いただけだから」と苦笑いを浮かべていた。
そういうことか。
立ち上がった瑠璃はスカートの汚れを払っていた。
瑠璃はついていないというのとちょっと違うのかもしれない。そんな気がしてきた。
智也の言う通りなのだろう。
「また、遊びに来ますね」
「ええ、またね」
瑠璃の笑顔はみんなも笑顔にさせてくれる。そんな笑顔をしていた。
んっ、今、視線を感じた気がしたけど。誰もいないか。気のせいだろうか。康成は少し考えてさっき瑠璃を脅かした野良猫でもいたのかもしれないと思うことにした。そんな気配だった。ただちょっと寂し気な念もあったことが気にかかる。猫じゃなかったのだろうか。
「どうかした?」
「いや、なんでもない」
「そう。じゃ、瑠璃さん、またね」
瑠璃も「またね」と手を振って見送ってくれた。
瑠璃の姿が見えなくなったころ、こころが「ヤスくん、瑠璃さんのこと好きでしょ」と問い掛けてきて「えっ、そんなことないよ。笑顔が素敵だなと思っただけだよ」と返した。
「ふーん、そうなんだ」
これってヤキモチだろうか。康成は心が躍った。
「あっ、こころの笑顔も可愛くて好きだよ」
「やだ、もう」
こころがバシッと肩を叩いてきた。照れた顔もまたいい。けど、思ったよりも強く叩かれて肩が痛かった。
あれ、そういえばキンはどこへ行ったのだろう。さっきまで一緒にいたと思ったのに。
「こころ、キンはどこ行った」
「えっ、キンちゃん。いないね。やっぱりキンちゃんって神の使いかもね。もう神社に帰っているかもよ。それか、妖怪猫又かも」
まさか、そんなことって……。
んっ、あっ。
康成はなんとはなしに見上げた空に烏天狗らしき姿が目に留まる。明らかに鳥ではない。その足に猫らしき姿も確認できた。あれはキンか。
そうか、そういう手もあったのか。あれはきっと神成荘の小烏天狗だろう。もしかしたら今回は烏天狗も手伝ってくれるのかもしれない。けど、キンみたいに空を飛んで移動するのは勘弁してほしい。高いところは得意ではない。
「どうかした、ヤスくん」
「いや、なんでもないよ」
「もう、さっきからなんでもないばっかり」
「えっ、そうだったかな」
そういえばさっきの視線、小烏天狗だったろうか。いや、違う気がする。敵意は感じなかったから大丈夫だとは思うけど、どうにも気にかかる。
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