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第四話「ツキが逃げ行く足音を止めろ」
問題解決の糸口
しおりを挟む「眺めがいいですね」
「そうでしょ。素敵でしょ。それにここすごく格安物件だったのよ。溜めた預金で買っちゃったの」
すごい、マンション購入できるくらいの預金があったってことか。格安といってもマンション購入は簡単じゃない。どれくらいしたのか気にはなるが訊くわけにはいかないか。
「瑠璃さん、ちなみにいくらくらいしたの」
おいおい、こころ。そこ訊いちゃうのか。そう思いつつ耳をダンボにしていた。
「えっ、いくらって」
瑠璃は苦笑いを浮かべて「はい、紅茶入れたの。どうぞ」と濃い茶褐色をした紅茶が入ったティーカップをテーブルに置く。やっぱり金額は言えないかと思ったのだが瑠璃は「一千万くらいかな」と答えてくれた。
一千万か。部屋数もわからないし正直このあたりのマンションの相場は知らない。マンションとしては安いのかもしれないけど、一千万は高額だ。そんな預金があることが驚きだ。あっ、一括購入したとは言っていないか。きっとローンだろう。
あれ、ちょっと待て。これってついているのではないか。格安物件購入できたのだろう。これでもついていないと言えるのだろうか。
「眺めもよくて安く買えてラッキーですね」
「そう私も思っていたんだけどね。最近、変な話を聞いちゃってね。ここ訳あり物件だったみたいで」
瑠璃の表情に陰りが見えた。
訳あり物件か。それってもしかして幽霊が出るとか、ここで何か事件があったとか。いやいや、それだけが訳あり物件じゃない。どこか部屋の作りがおかしいとか。見た感じだと大丈夫そうだけど。
「訳ありって」
こころは意外となんでもズバッと訊けるタイプだったようだ。
康成はこころと瑠璃の会話に耳を傾けていた。
「ここに住んでいた前の人がね。ここで亡くなっているの」
やっぱり、そういうことか。
「えっ、嫌だ」
こころは突然立ち上がって「まさかここで」と部屋を見回した。
「あっ、亡くなったのは奥の部屋みたい。けど事件とかそういうんじゃなくて病死みたいだけどね」
なるほど。それでも誰かが亡くなっていると思うと居心地はよくない。やっぱり、ついていないってことになるのだろうか。身内の人だったら気にならないけど、他人だから知ってしまったら気になるだろう。
なんて声をかけてあげたらいいのか。
「そうなんだ。病死なんだ」
こころはそう呟くと瞼を下ろして手を合わせていた。それを見た瑠璃もまた同じことをしていた。なら自分もと手を合わせて『やすらかに眠ってください。成仏してください』と心の中で祈った。
んっ、待てよ。ここには霊的なものを感じない。成仏はしているのかもしれない。だったら、何の問題もない。智也の言う通りただ単におっちょこいのマイナス思考の持ち主なだけかもしれない。
「瑠璃さん、幽霊とかは出ないんでしょ」
「まあね」
「なら、問題ないよ。格安でラッキーだよ」
「そう、なのかな」
「僕もそう思いますよ。きっと亡くなられた人も家族に見守られて旅立ったんだと思いますし」
「そうね。そう思えばいいのよね」
そうそう、悪いほうに考えてはいけない。考え過ぎて居もしない幽霊に怯えて幻覚を見てしまうこともある。そんな最悪な事態に自らしてしまったらダメだ。どうも瑠璃は後ろ向きになりがちだ。瑠璃をどう前向きな考えにさせたらいいのだろうか。
こころといたらいずれそうなっていくだろうか。年齢は離れているけど友達になるだけで違うかもしれない。誰かがいるってかなり違うと思う。ちょっと前の自分も正直前向きではなかった。目の前で智也の死を見てしまったのだから。しかも、自分のせいでしなせてしまったのだから。けど、祖母が救ってくれた。
「ニャニャ」
「あらあら、キンちゃんたら」
キンが瑠璃の膝の上に乗って丸くなっていた。キンと瑠璃の様子にこれだと康成は思った。ペットだ。自分もキンには救われた。もちろん、隣にいるこころにもだけど。
ひとりでいると余計なこと考えてしまうものだ。ずっと一緒にいられるペットがやっぱりいいかもしれない。
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