涙が呼び込む神様の小径

景綱

文字の大きさ
上 下
41 / 59
第三話「大樹の声に耳を傾けて」

しあわせってこういうことかも

しおりを挟む

「康成、今度こそお疲れ様だな」
「そうだな。智也はあのふたりのことどう思う」
「あいつらは大丈夫だ。守られている。それも康成が後押ししたからだ。あいつら自身がやる気にならなきゃ意味がなかったからな」
「まあ、確かに」
「あいつらの心はご先祖様にも通じたはずだ。力を貸してくれるはずだよ」
「そうか、それなら心配いらないな」

 そうかあの二人の守護霊は観音様くらいの霊格あるご先祖様なのか。きっと、そうなのだろう。スイケイは何も言わなかったけど、絶対にあいつが呼び寄せたに違いない。あっ、あいつなんて口にしたら罰が当たるかも。気をつけなきゃ。

 んっ、雨脚が強くなってきた。

「悪い、智也。また話はあとでな」
「おお、路子さんによろしくな」

 康成は駆け足で家に向かった。
 康成はパーカーのフードを頭にかぶりチラッと空を仰いだ。龍の姿は見えなかったけど、きっとどこかで見守ってくれているのだろう。





「おかえりなさい」
「ただいま」

 こころが出迎えてくれた。

「大丈夫だったの。何か問題が起こったんでしょ」
「ああ、無事解決したよ。今度こそね」
「そう、ならよかった。夕飯、みんな待っていてくれているから食べよう」
「えっ、そうなのか。先に食べていてよかったのに」

 康成はキッチンに向かうとテーブルに皆のニコリとする顔があった。

「ご苦労様」

 路子がごはんを丁度テーブルに置くところだった。料理は今できたばかりなのか湯気が立っていて良い香りを届けてくれる。まるで、帰る時間がわかっていたみたいだ。

「ウニャ」

 んっ、キンか。まさか、キンが帰ってくること教えたのか。いや、それはないか。康成は席に着きテーブルの料理を見遣る。
 なんだか豪華じゃないか。エビチリにトンカツに筑前煮。ローストビーフもあるのか。

「康成くん、食べようか。ほら、美味しそうな筑前煮だよ」

 敏文がニコリとする。

「ヤスくんはエビチリのほうがいいよね」

 麻帆が海老を箸で掴み頬張った。一瞬、食べさせてくれるのかと期待したが違った。そんなことするわけないか。こころだったら、もしかしたら。いや、こころもそんなことはしない。そんな関係ではないから。

「違うわよ。ヤスくんはトンカツが好きなのよ」

 こころが一切れのトンカツをごはんの上に乗せてきた。どうせなら、『あーん』なんてしてくれたらいいのに。だから、そういう関係じゃないだろう。すぐに変な妄想を振り払う。
 それはそうと、なんだか皆変な感じだ。解決させてきたからなのか。優し過ぎないか。

「康成、たくさんお食べ。おまえを労ってやりなさいと観音様が来てくれたんだよ。観音様だよ。これは凄いことだよ」
「えっ、本当に」
「ああ、もう感動したねぇ。そこまで康成の霊格が上がっているとは思わなかったからねぇ」

 なるほど、だからこんなに豪華な料理なのか。
 観音様か。あの二人のもとにいた観音様だろうか。いや、二人の守護霊は観音様ではない。じゃ、どうして観音様が来たのだろう。どっちにしろ、本当にありがたい話だ。感謝して食べなきゃいけない。

「それじゃ、いただきます」

 康成は敏文のススメてくれた筑前煮も麻帆がススメてくれたエビチリもこころがススメてくれたトンカツも口に頬張った。

「ちょっと、そんなに口に入れたら喉を詰まらせてしまうじゃないか。まったく康成はしかたがないねぇ」

 路子の言葉に皆がこっちに向いて笑みを浮かべていた。
 幸せって言葉はこういうときに使う言葉だ。あの二人もそうなってほしい。勉強は大事だけどそれだけがすべてじゃない。慶太の小説がどの程度のものかはわからないけど、もしかしたらすごい文才があるかもしれない。雄大の絵は素人目にも迫力あるものだった。応募すればもしかしたらなにかしらの賞を獲れる可能性もある。あくまでも個人的な感想だけど。
 あの二人の未来が楽しみだ。

「ヤスくん、どうしたのニヤニヤしているよ」

 こころの言葉にハッとなった。ニヤついていた。あっ、皆が見ている。

「えっ、あっ、そう。ちょっと今日会った二人の子のこと考えていたんだ。小説家とイラストレーターになりたいって話していたからさ。うまくいくといいなって」

 康成は頭を掻いて照れ笑いを浮かべた。

「ウニャ」
「なんだよ、キン。なんか言いたいことがあるなら言ってみろよ」
「何を言っているんだい。キンは言葉を話せないだろう」

 路子の指摘にまた皆の笑い声がこだました。


しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

座敷童に見込まれました:金運が少しよくなったので、全国の公営ギャンブル場を周って食べ歩きします

克全
キャラ文芸
小説化になろうにも遅れて投稿しています。アルファポリス第1回キャラ文芸大賞に応募すべく書き始めた作品です。座敷童を預けられた主人公が小さな金運を掴み、座敷童を連れて全国の公営ギャンブル場を巡っり、キャンブル場とその周辺を食べ歩く。引退馬の悲惨な状況を知り、ギャンブルで勝ったお金で馬主となろうとしたり、養老牧場を設立しようとしたりする。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

チョコレートは澤田

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「食えば?」 突然、目の前に差し出された板チョコに驚いた。 同僚にきつく当たられ、つらくてトイレで泣いて出てきたところ。 戸惑ってる私を無視して、黒縁眼鏡の男、澤田さんは私にさらに板チョコを押しつけた。 ……この日から。 私が泣くといつも、澤田さんは板チョコを差し出してくる。 彼は一体、なにがしたいんだろう……?

俺様当主との成り行き婚~二児の継母になりまして

澤谷弥(さわたに わたる)
キャラ文芸
夜、妹のパシリでコンビニでアイスを買った帰り。 花梨は、妖魔討伐中の勇悟と出会う。 そしてその二時間後、彼と結婚をしていた。 勇悟は日光地区の氏人の当主で、一目おかれる存在だ。 さらに彼には、小学一年の娘と二歳の息子がおり、花梨は必然的に二人の母親になる。 昨日までは、両親や妹から虐げられていた花梨だが、一晩にして生活ががらりと変わった。 なぜ勇悟は花梨に結婚を申し込んだのか。 これは、家族から虐げられていた花梨が、火の神当主の勇悟と出会い、子どもたちに囲まれて幸せに暮らす物語。 ※3万字程度の短編です。需要があれば長編化します。

推理小説家の今日の献立

東 万里央(あずま まりお)
キャラ文芸
永夢(えむ 24)は子どもっぽいことがコンプレックスの、出版社青雲館の小説編集者二年目。ある日大学時代から三年付き合った恋人・悠人に自然消滅を狙った形で振られてしまう。 その後悠人に新たな恋人ができたと知り、傷付いてバーで慣れない酒を飲んでいたのだが、途中質の悪い男にナンパされ絡まれた。危ういところを助けてくれたのは、なんと偶然同じバーで飲んでいた、担当の小説家・湊(みなと 34)。湊は嘔吐し、足取りの覚束ない永夢を連れ帰り、世話してくれた上にベッドに寝かせてくれた。 翌朝、永夢はいい香りで目が覚める。昨夜のことを思い出し、とんでもないことをしたと青ざめるのだが、香りに誘われそろそろとキッチンに向かう。そこでは湊が手作りの豚汁を温め、炊きたてのご飯をよそっていて? 「ちょうどよかった。朝食です。一度誰かに味見してもらいたかったんです」 ある理由から「普通に美味しいご飯」を作って食べたいイケメン小説家と、私生活ポンコツ女性編集者のほのぼのおうちご飯日記&時々恋愛。 .。*゚+.*.。 献立表 ゚+..。*゚+ 第一話『豚汁』 第二話『小鮎の天ぷらと二種のかき揚げ』 第三話『みんな大好きなお弁当』 第四話『餡かけチャーハンと焼き餃子』 第五話『コンソメ仕立てのロールキャベツ』

【完結】花街の剣の舞姫

白霧雪。
キャラ文芸
 花街一の剣舞姫・桃花は、七日に一度、妓楼の舞台で剣舞を披露する。  その日もいつも通り舞い踊り、出番も終わりと思っていたところ、座敷に呼ばれる急展開。若く麗しい男・桃真に王宮で行われる武闘会の前座として舞を披露してほしいと依頼される。 ❀恋愛異世界中華風ファンタジー カクヨム、小説家になろうにも掲載中! 感想、コメントいただけると嬉しいです。 本編完結済み。

こじらせ邪神と紅の星玉師

沖田弥子
恋愛
鉱石に閉じ込められた内包物を解放する星玉師のルウリは、ある日街で不思議な青年ラークと出会う。地位の高いクシャトリヤと思われる眼帯の不器用な青年は、工房まで送ってくれたうえに、交換した大切なルウリの指輪を返してくれた。王都で開催される審査会で使用するための星玉を発掘するため、鳥精霊のパナと共に鉱山へ赴いたルウリはラークと再会。ところが発掘した星玉は次々に黒く染まってしまう。「呪いだ」と呟いたラークには何か秘密がありそうだが……

処理中です...