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第三話「大樹の声に耳を傾けて」
しあわせってこういうことかも
しおりを挟む「康成、今度こそお疲れ様だな」
「そうだな。智也はあのふたりのことどう思う」
「あいつらは大丈夫だ。守られている。それも康成が後押ししたからだ。あいつら自身がやる気にならなきゃ意味がなかったからな」
「まあ、確かに」
「あいつらの心はご先祖様にも通じたはずだ。力を貸してくれるはずだよ」
「そうか、それなら心配いらないな」
そうかあの二人の守護霊は観音様くらいの霊格あるご先祖様なのか。きっと、そうなのだろう。スイケイは何も言わなかったけど、絶対にあいつが呼び寄せたに違いない。あっ、あいつなんて口にしたら罰が当たるかも。気をつけなきゃ。
んっ、雨脚が強くなってきた。
「悪い、智也。また話はあとでな」
「おお、路子さんによろしくな」
康成は駆け足で家に向かった。
康成はパーカーのフードを頭にかぶりチラッと空を仰いだ。龍の姿は見えなかったけど、きっとどこかで見守ってくれているのだろう。
*
「おかえりなさい」
「ただいま」
こころが出迎えてくれた。
「大丈夫だったの。何か問題が起こったんでしょ」
「ああ、無事解決したよ。今度こそね」
「そう、ならよかった。夕飯、みんな待っていてくれているから食べよう」
「えっ、そうなのか。先に食べていてよかったのに」
康成はキッチンに向かうとテーブルに皆のニコリとする顔があった。
「ご苦労様」
路子がごはんを丁度テーブルに置くところだった。料理は今できたばかりなのか湯気が立っていて良い香りを届けてくれる。まるで、帰る時間がわかっていたみたいだ。
「ウニャ」
んっ、キンか。まさか、キンが帰ってくること教えたのか。いや、それはないか。康成は席に着きテーブルの料理を見遣る。
なんだか豪華じゃないか。エビチリにトンカツに筑前煮。ローストビーフもあるのか。
「康成くん、食べようか。ほら、美味しそうな筑前煮だよ」
敏文がニコリとする。
「ヤスくんはエビチリのほうがいいよね」
麻帆が海老を箸で掴み頬張った。一瞬、食べさせてくれるのかと期待したが違った。そんなことするわけないか。こころだったら、もしかしたら。いや、こころもそんなことはしない。そんな関係ではないから。
「違うわよ。ヤスくんはトンカツが好きなのよ」
こころが一切れのトンカツをごはんの上に乗せてきた。どうせなら、『あーん』なんてしてくれたらいいのに。だから、そういう関係じゃないだろう。すぐに変な妄想を振り払う。
それはそうと、なんだか皆変な感じだ。解決させてきたからなのか。優し過ぎないか。
「康成、たくさんお食べ。おまえを労ってやりなさいと観音様が来てくれたんだよ。観音様だよ。これは凄いことだよ」
「えっ、本当に」
「ああ、もう感動したねぇ。そこまで康成の霊格が上がっているとは思わなかったからねぇ」
なるほど、だからこんなに豪華な料理なのか。
観音様か。あの二人のもとにいた観音様だろうか。いや、二人の守護霊は観音様ではない。じゃ、どうして観音様が来たのだろう。どっちにしろ、本当にありがたい話だ。感謝して食べなきゃいけない。
「それじゃ、いただきます」
康成は敏文のススメてくれた筑前煮も麻帆がススメてくれたエビチリもこころがススメてくれたトンカツも口に頬張った。
「ちょっと、そんなに口に入れたら喉を詰まらせてしまうじゃないか。まったく康成はしかたがないねぇ」
路子の言葉に皆がこっちに向いて笑みを浮かべていた。
幸せって言葉はこういうときに使う言葉だ。あの二人もそうなってほしい。勉強は大事だけどそれだけがすべてじゃない。慶太の小説がどの程度のものかはわからないけど、もしかしたらすごい文才があるかもしれない。雄大の絵は素人目にも迫力あるものだった。応募すればもしかしたらなにかしらの賞を獲れる可能性もある。あくまでも個人的な感想だけど。
あの二人の未来が楽しみだ。
「ヤスくん、どうしたのニヤニヤしているよ」
こころの言葉にハッとなった。ニヤついていた。あっ、皆が見ている。
「えっ、あっ、そう。ちょっと今日会った二人の子のこと考えていたんだ。小説家とイラストレーターになりたいって話していたからさ。うまくいくといいなって」
康成は頭を掻いて照れ笑いを浮かべた。
「ウニャ」
「なんだよ、キン。なんか言いたいことがあるなら言ってみろよ」
「何を言っているんだい。キンは言葉を話せないだろう」
路子の指摘にまた皆の笑い声がこだました。
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